復讐の終着点:『悪魔を見た』


 復讐の終着点を見た。


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 復讐とは仕返しをすることです。
 「オレからこれだけ奪ったんだから、その分しっかり返せよ」というわけですね。
 こうした「目には目を、歯には歯を」という復讐の論理によって作られてた映画を何本、何十本と観てきました。
 そうした映像体験から学んだ、復讐をやっちゃダメな理由は3つあります。


 1. 復讐の連鎖を呼び起こすからダメ(他人にまで被害が及んじゃう)。
 2. 復讐する人が悪に転落してしまうからダメ(ダークサイドに落ちちゃう)。
 3. 法律を破ることになるからダメ(犯罪者になっちゃう)。


 だから、後は警察に任せて、復讐なんかしない方がいい、という結論になります。
 が、これはほとんど机上の空論ですよね。こんな模範的な回答を実行する人はいません。警察がのろのろ捜査しているあいだに、みんな復讐行為に走っちゃいます。
 彼らに共通しているのは、「(愛する人を奪ったことが)許せない」という感情的理由です。どうしても許せないんですよね。その先どうなるのか、おおよそ分かってはいても・・・。


 ご存じの通り、この復讐問題にはいまだに有効な解答が出されていません。そうである以上、復讐は今後も続いていくのだと思います。
 悲しいことだと思いますが、仕方のないことなのかもしれません。復讐する者は、その行為による代償を仕方のないものとして受け入れます。ただし、復讐者が仕方がないと思えるのは、2.や3.の自分自身が損するケースのみです。逆に、自分以外の人が損する1.のケースは、仕方がないと割り切ることができません。
 復讐行為がエスカレートする原因は、これですよね。


 本作が示すのは、その復讐の終着点。
 あれには大きな衝撃を受けました。その描写を可能にしているのは復讐者です。彼が「悪」になったからこそです。


「世界征服」は可能か

「悪」とはなにか? それは人々の幸福を破壊することです。(p.182)

 

 復讐の始発点は決まって不条理です。
 突然身に降りかかった理屈では理解できない不幸が、それまで「正義」の側にいた人間を、すっかり「悪」の側にまで落としてしまいます。


 復讐を果たした後、本作の復讐者はじつに多様な表情を見せます。
 達成感や喪失感や罪悪感。
 複雑に絡まり合ったいくつもの感情が、悪となった復讐者のもとにやってきます。
 切ないよなぁ。