2012年1月に見た、読んだ、使ったもの


 あけましておめでとうございます(もう2月だ!)。
 このエントリでは、年明けから1ヶ月くらいのあいだに見たもの、読んだもの、使ってみたものを日記帳(DAY ONE)から掘り起こしてみました。
 そうそう、未見なら『ALWAYS三丁目の夕日'64』をぜひ。今回も素晴らしかったですよ!

【見たもの】


『ALWAYS三丁目の夕日'64』★4

 父から子へ。子からまた子へ。愛するが故の文化は確かに子へ伝承されたはず。
 しかし、子が正しく受け取ってしまったことで、本来の機能は無効化されてしまった。でも個人的には新しい機能のほうが好み。憎しみより愛のほうが強いかどうかはわからないけど、長期的には両者を幸せな関係で取り結ぶはずだから。
 俳優の堤真一吉岡秀隆の「父」ぶりが実にいい。堤の鉄拳(『ウォッチメン』そっくり!)には劇場がドカンッと湧いていたし、吉岡の文化の伝承には口元がぷるぷる震えぱなしでした。
 このシリーズ、全部大好き。


『ホール・パス』★4

 既婚者版『サイドウェイ』。
「ホールパス」とは独身期間のチケット(無形)のこと。妻からチケットをもらった夫たちはどう振る舞うのか。
 ファレリー兄弟の作品らしく「男の本音をそこまで言っちゃうの?」というカミングアウトで楽しませてくれる。1週間しかない貴重な独身期間を妄想話に花をさかせる男子会に使ってしまうくだりには、げらげら笑わせてもらった。もっと有効活用しようよ!
 ただ、この作品、ラストがちょっと弱い。主人公の最後の決断の動機が「痛み」じゃなく「記憶」なんだよね。
「痛みを伴わない教訓には意義がない。人は何かの犠牲なしに何も得る事などできない」*1から、1週間後には元の木阿弥になってそうなんだよなあ。


『カンフーパンダ2』★2

 「1」最大の謎、主人公の出生の秘密が解ける。
 ただ、ちょっと引っかかったのは、「1」でフリーザ級の敵を倒した主人公が「2」ではナッパ級の敵に苦戦してること。なぜ「1」で覚えた超必殺技を忘れてしまったんだ!とずっと心のなかで叫んでました。


「アメトーーク 第12回プレゼンSP」
 麒麟の川島のプレゼンー「ちゃんとしてなきゃいけない芸人」が一番面白かった。
 そうだよね、しっかりしてるからこそ一人何役もこなさなきゃいけない芸人は大変だよね。
 そんな芸達者な人間からすると、ちょっと抜けてるけど可愛がられている狩野英孝が羨ましく見える、というのは意外だった。

 

【読んだもの】


ゼロ年代の想像力』@宇野常寛

ゼロ年代の想像力 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)

ゼロ年代の想像力 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)

 心をウキウキさせるロマンは日常の外部だけでなく、内部にもちゃんとあるんだと著者。
 なるほど、宮藤官九郎の「木更津キャッツアイ矢口史靖 の『ウォーターボーイズ』など、身近な郊外がどうしようもなく魅力的に映るのは、それが理由かも。
大きな物語」を失い、「終わりなき日常」が続く現代においては、人生の意味や価値をだれも与えてはくれない。だからこそ知恵を絞って、人生を意味を決断主義的ーたとえ究極的には無価値でも、特定の価値を選択するー態度でもって獲得しに行かなければならないという指摘には、心がぐっとなった。
 ゼロ年代のマンガ、アニメ、ドラマの分析も面白い傑作。


『情報の呼吸法』@津田大介

情報の呼吸法 (アイデアインク)

情報の呼吸法 (アイデアインク)

 ハッとした指摘は3点。
 ひとつめは、「自分にボールを投げてアイデアの文脈を作る」。つまり「一人キャッッチボール」のこと。一人二役をこなしていると、いつのまにかそこに「文脈」が生じてくる。実際にでやってるんですが、これは実感してるところです。
 ふたつめは、「誤配を通じて自分を知る」。知りたいことは自分で調べられるけど、気になることを仕入れるには適度な○○が必要。この「誤配力」がツイッターの魅力。考え方がちがう人をフォローしておくのも手。
 みっつめは、「自分自身も他人の資本である」。《じぶんをは資本を使う主体のみならず、他人の資本として使われる客体でもある》というくだりには、そうか!と納得。


ゲーミフィケーション』@井上明人

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

 ゲームの仕組みを社会や個人の活動に応用することを「ゲーミフィケーション」というみたい。
 オバマの選挙戦略をゲームというフレームから眺めてみると、選挙を手伝う=HP内でレベルUPするというRPGゲームのように設計されていたことがよく分かる。賢いなぁ。
 この話の肝は「他人(オバマ)の人生ゲーム」から「私のゲーム」にしたところにあるんじゃないかな。
 このアナロジーで、勉強や就活や起業などを「私のゲーム」としてデザインすることもできるはず。
 ポイントは、徐々に飽きてくるゲームを、いかに飽きづらくデザインしてコンプリートするか、かな。


『小商いのすすめ』@平野克美

小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ

小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ

 現代の経済は、拡大均衡ではなく縮小均衡に向かっている。つまり経済規模がどんどん小さくなっていく世界。
 そんな社会では、貧しいけれど豊かな「小商い」スタイルが適している。
 小商いとは「いま・ここ」にある自分に関して、責任を持つ生き方のこと。責任がないことにあえて責任を持つことで、人は大人になる。大人がいないと社会がまわらない。「ALWAYS」の鈴木オートや茶川竜之介を見ればよくわかる。


『20歳の自分に受けさせたい文章講義』@古賀史健

20歳の自分に受けさせたい文章講義 (星海社新書)

20歳の自分に受けさせたい文章講義 (星海社新書)

 メモ
 →文体とはリズムである。
 →「そこに接続詞が入るかチェックせよ」という意識化。
 →断定を使った文章では、いつも以上に論理の正確性が求められる。
 →導入部・・・客観カメラ、本編・・・主観カメラ、結論・・・客観のカメラ。
 →構成とは眼で考えるものだから、紙に図解を書いて考えた方がいい。

【使ったもの(iPhoneiPadアプリ)】

「DAY ONE」

 デジタル版日記帳。ちなみに、アナログ版には「スマートノート」を愛用。
 このアプリに、ツイートには適してないささいな言葉やネタや思考をストック。
 これで津田さんが提案する「情報を振り返」えることができちゃう。ツイートを振り返るならTwilogがある。私的なつぶやきを振り返るならDay Oneで充分かも。1週間のできごとを振り返るのもラクチン。
 iPhoneMacで書き込むことができ、同期も一瞬(ここはATOKPadより断然いい)。
 オススメです。

*1:鋼の錬金術師

鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)

コンテンツを自炊しちゃダメ!?


 完全に同意。


佐藤秀峰日記 漫画onWeb 自炊代行について

 スキャンされない唯一の方法は、本を販売しないことです


 『フリー』という本には、「すべてコンテンツはフリーになりたがる」という原則が書かれていました。


フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略


 現在流通している映像やテキストといったコンテンツは、Youtubuやニコ生やサイトなどで無料公開・配布されています。その行為の正当性や違法性は置いておきますが、この無料化の流れは止められないというのが重要なポイントだと思います。
 コンテンツの権利者として削除依頼を出すことは可能でしょうが、「流れ」そのものまで削除することはできません。
 であるならば、市場にコンテンツを投入するということは、無料化の流れのなかにコンテンツを置くことでもあります。
 作家やクリエイターが「そんなのイヤだよ!」といっても、この流れは強力すぎて止めることできません。
 世間がクリスマスで浮かれているのがイヤだからといって、クリスマスを無くすことができないのと一緒ですね。


 フリー化の流れを止めることができない。
 ならば、コンテンツがフリーに向かうなかで、有料化するシステムを作るしかありません。
 すでに佐藤さんは著作を一部フリー化し、最新作を有料にするシステムを作られ運営されています。
 これがこの先のコンテンツ販売システムの在り方ではないかと思います。


 作家たちは「複製権の侵害」(無断で自炊代行しないように!)を根拠に代行業者を訴えているそうですが、代行業者はデータを転売して儲けているわけではありません。その名の通り「(自炊を)代わりに行って」いるだけです。 
 自炊代行を依頼する人は、マンガを買うために500円ほど支払い、さらに1冊ごとに100円ほどの「追加投資」しています。なぜ追加投資するのかといえば、その本が好きだし手元に置いておきたいからですね。
 代行業者に自炊の依頼をするのは、自分で自炊(本を裁断し、スキャナーで取り込り込み、データ化すること)するのは面倒だし、高くついたりするからではないかと思います。
 ぼく自身、自炊した経験がありますが、1冊の本を自炊するのに、30分ほどかかります(分厚い単行本では1時間くらいかかります)。
 これを何冊、何十冊とデータ化するのは、正直かなり大変です。


 
 自炊作業にかかるコストは、時間や作業コストだけではありません。
 自炊する側も好きな本を泣く泣く裁断していたりします。
 ぼくが自炊したのは、
 

 1、本棚がもういっぱいだよ
 2、処分するのはもったいないなぁ
 3、かといって、ブックオフにも売りたくないし・・・
 4、じゃあ、本当に取っておきたいものだけ自炊するか


 という順序でした。
 でも、好きな本にカッターの歯をかけたとき、なんだか申し訳ない気がして気が引ける。でも、本棚にはもう置く場所がない。だから自炊する方法はない。自分にそう言い聞かせて裁断していたりします。
 自炊代行を依頼することは、そうした精神的ストレスからも解放されたりするのではないでしょうか。


 こうした自炊について東野圭吾さんは、


佐藤秀峰日記 漫画onWeb 自炊代行について

電子書籍を出さないからこういうことが起こるのだという声に対してはこういいます。
 売ってないから盗むのか!
 こんな言い分は通らない。


 と述べられたそうです。


 東野さんがいう「盗む」という言葉がどこにかかっているのかよくわかりませんが、自炊している人は本屋さんやブックオフなどで実際に本を買った人です。お金を支払うことで得た「本を自由に扱う権利」でもって、代行業者に自炊の代行をお願いしているわけです。代行業者は依頼者の代わりに自炊する。
 これのどこがマズいのか、ぼくにはよく分かりません。
 佐藤さんは同日記で「僕の著作は自由に自炊も代行もしてもらって構いません。」と述べてますが、こうした流れのなかで作家自らが自炊許可してくれているのは、やっぱり嬉しく思いました。
新ブラックジャックによろしく』買おうと思いましたもん。


新ブラックジャックによろしく 9 (ビッグコミックススペシャル)

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 ふたつ前のエントリでも同じようなことを書いたのですが、ぼくたちはいま、フリーミアム戦略への転換点に立ち会っているのかもしれませんね。 
 

2011年映画ベスト10


 今年観た映画はトータルで67本でした。
 年内までに、『宇宙人ポール』や『ゴーストライター』、『リアル・スティール』を観る予定なので順位変動があるかもしれませんが、いままでに観た映画ベスト10を発表しちゃいます。



第1位『ソーシャル・ネットワーク
 当ブログ評→呪いの言葉が解除される日はくるのか?
 答え:いつかくる
 フェイスブックの送信ボタンの前でマークが逡巡するカットが今年のベストです。




第2位『ファンタスティックMr.FOX
 当ブログ評→本性を取り戻せ
 キツネとしてどうあるべきか、という実存主義的テーマをコミカルに描いたがウェス・アンダーソンの私的ベスト。
 キツネを「人間=私」に置き換えてみると、ぐっと身近な存在に。
 Mr.Foxが憧れていたオオカミは、何の象徴だったんでしょう。やっぱり「ありたい私の姿」かな?



第3位『ミッション:8ミニッツ』
 人生の最も美しい瞬間の映像化。
 人生を何度も繰り返すうちに人生における最も大切な学ぶという展開が、美しさをより際立たせています。



第4位『冷たい熱帯魚
 当ブログ評→未成年からの脱出
 同監督の『愛のむきだし』より断然こちら。
 でんでんの圧倒的に間違っている行為と、反論しがたい発言に苦悶しました。
 「人生ってのはな、痛んだよ!」という吹越充の血を吐くようなセリフも忘れられません。


 
第5位『127時間』
 当ブログ評→必然的に起きた正しいこと
 ピノキオの伸び過ぎた鼻がポキッと折れるだけの話。
 にもかかわらず、「I need your help!」と叫ぶ主人公に感動してしまうのは、ジェームズ・フランコの演技と演出のおかげ。
 黄色く濁ったアレをごくごく飲むシーンとか、生き延びるための描写もスゴかった。



第6位『マネーボール
 当ブログ関連評→知識を思考の棚にしまおう
 続・呪いと解除の物語。
 長年、呪いに苦しみ続けているスカウトマン・ブラピが見物。
 経験や直感を武器にしている保守的なスカウトマンに、統計学で対抗しているのも面白いです。



第7位『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』
 X-MENシリーズの最高傑作。
 はじめてX-MENを面白いと思いました(笑)



第8位『スーパー!』
キック・アス』のヒットガールを越えた衝撃(参考:11にして「大人」のヒットガールの衝撃)。
 エレン・ペイジのアレな行為にはオロオロさせられました。



第9位『モテキ
 当ブログ評→ゴーストバスターがやってきた
 久保ミツロウによる、そげふ
 破壊だけではなく、いつまでも決断実行できない幸世の成長が見れたのもよかったです。



第10位『メガマインド』
 当ブログ評→バイキンマンが負け続け、アンパンマンが勝ち続けるわけ
「キャラは振る舞い方で決まる」を描いた佳作。
 悪側の視点を物語の始発点としているのは新鮮。
 正義・悪という単純な図式を越えるために人間の二面性を描いており、意外性と深みが出ていました。



 来年も豊作でありますように!


ファンタスティックMr.FOX [DVD]

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冷たい熱帯魚 [DVD]

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スーパー! スペシャル・エディション [DVD]

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モテキ DVD豪華版(2枚組)

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MEGAMIND: Ultimate Showdown (輸入版:北米・アジア) - PS3

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フリーでシェアなビジネスモデル:『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』


『フリー』や『シェア』の次に読むべき本はこれ。


グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

  

 GoogleEvernoteDropboxが提供しているサービスは、基本的にタダで使うことができますよね。もし、それ以上のサービスを受けたい場合は、お金を払ってハッピーになる仕組みになっています。
 このように、基本的にはサービスを無料で提供するビジネス戦略を「フリーミアム戦略」(Free + Premiumの合成語)と言います。現代のネット社会ではデフォルトになりつつある戦略ですが、50年前から実践していたバンドがアメリカに存在しました。グレイトフル・デッドというバンドです。
 グレイトフル・テッドは1960年代からライブの撮影や録音を許可し、ファン同士が交換(シェア)することも許していたそうです。
 驚くべきことだと思いませんか? 
 現代の音楽産業は、50年前のビジネスモデルに追いついていないというのに。


 ぼくはいま、コンテンツをフリーで提供する会社に所属しているのですが、フリーミアム戦略ほど強力な戦略はないと感じてます。
 コンテンツはフリーですから、Youtubeニコニコ動画にアップした動画は何百、何千回と視聴され、ホームページにアップした記事なんかも同様です。
 もちろんその前提として、お客さんに求められるコンテンツである必要はありますが、それさえクリアできれば最良の宣伝方法だと考えています。
 面白かった記事は、友人やツイッターのフォロワーと「シェア」したくなりますよね。彼らはシェアされた記事を読み、面白かったら別の人にシェア(リツイート)していきます。この無限のシェアの連鎖によって、それまで自社のコンテンツを知らなかった人にまで届くことになります。その人は新しいお客さんになってくれる。
 でも、もしコンテンツが有料だったら? たぶんフリーミアム戦略ほどには届かないはずです。


 いまのコンテンツ産業は、著作権でもってガッチリ規制しています。出版や音楽業界もそうですが、とりわけ「映画が盗まれている。感動も盗まれている。私は観ない。私は買わない」という映画館で流しているCMは、自分のクビを自ら締めているようなものだと思います。映画業界を支えてくれているお客さんにケンカを売っても、良いことなんてないのに。
 映画業界が劇場での録音や撮影を禁止しているのは、映画のチケットやDVDなどの売上げを下げるからだという考え方が基本にあると思います。
 でも、逆なんですね。コンテンツをフリーで流通させたほうがむしろ儲かることを、ビートルズストーンズより稼いだグレイトフル・デッドが証明してくれています。
 

 このようにフリーミアム戦略は最強のビジネスモデルに見えますが、どこかでマネタイズ(収益化)する必要はあります。お金という交換手段がないと、生きていけないですしね。
 本書では、Dropboxのように、2GBまでは無料でコンテンツを提供し、2GB以上使いたい人からはお金をもらうビジネスモデルもあります。iPhoneのアプリでもおなじようなモデルがありますよね。


Dropbox


 最初からお金をもらおうとするのは、なかなかハードルが高い。どんなコンテンツなのか分からないものに、ぼくたちはお金を払いたがりません。一度サービスを試してみて、それ以上のサービスを使いたい場合のみお金を払う、というのがクラウドサービスやアプリを使っている者としての実感です。

  
 本書が教えてくれるのは、フリーという原理が覆う世界でのフリーミアム・モデルの作り方です。
 1998年からフリー戦略を採用し、「ほぼ日」を運営してきた糸井重里さんが、「もしドラに負けないくらいの実用書です」と紹介していますが、本当にその通りだと思います。各章の終わりで紹介されているACTION(無料版を作成しよう、記憶に残る印象的な名前を見つけようetc.)は、個人戦略としてぜひ落とし込みたいところです。
 まずはブログタイトルを探すところからかなあ。


フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

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シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略

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  • 作者: レイチェル・ボッツマン,ルー・ロジャース,小林弘人,関美和
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2010/12/16
  • メディア: ハードカバー
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バイキンマンが負け続け、アンパンマンが勝ち続けるわけ:『メガマインド』


 世の中に流通している物語の多くは「正義の側」から描かれていますが、ドリームワークスが制作した『メガマインド』は「悪者の側」の視点から描かれています。
 いわばバイキンマン的視点ですね。ここがちょっと新しいです。


MEGAMIND: Ultimate Showdown (輸入版:北米・アジア) - PS3

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App Storeで開く (←現在は、iTunes Storeでのみレンタル中)

 
 この映画の主人公であり悪者であるメガマインド少年は、バリバリの知性を誇る天才的な宇宙人がなのですが、全身が青くて頭が大きいので、学校のクラスメイトたちからは嫌われてます。
 校庭でドッチボールをするとき、リーダー格のヤツがクラスメイトをドラフト指名のように順々に指名していくのですが、メガマインドはもちろん最後まで指名されません。
 悲しいですね。昔の古傷がチクッと疼きます。


 そんな学校での人気者は、のちに正義のメトロマンとなる白人の少年。彼も宇宙人で、目からビームを出したり、空を飛び回ったりして、メガマインドばりにヘンなヤツ。でも、見た目が爽やかなイケメンなので、みんなからはモテモテです。
 本当は心優しいメガマインドは、メトロマンらにイジメられることで悪の道に進むことを決意します。
 

 それから数年後。
 大人になった悪者メガマインドは正義のメトロマンに挑み続けますが、アンパンマンにやられるバイキンマンのごとく、すべての戦いに敗北します。
 が、ある日、彼はたまたまメトロマンに勝ってしまうのです。


「・・・あれ? もしかしてオレ、勝っちゃった? や、やったぜッ!」


 思いもしなかった勝利に戸惑いながらも、歓喜するメガマインドですが、数日後には元気を失ってしまいます。


「欲しいものはなんでも手に入るようになった。でも、オレにはもう倒すべき敵はいない。これからいったい、どうすればいいんだ?」


 メガマインドの生きる力となっていたのは、メトロマンという正義あってこそだったんですね。
 この「生きる力の喪失」という点では、『Mr.インクレディブル』と似ています。


Mr.インクレディブル [DVD]

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Mr.インクレディブル』は「正義の側」から描かれた物語ですが、ヒーローとして活躍することを禁じられたMr.インクレディブルは、メガマインドとおなじように、無気力な人間になってしまいます。一日中、ボーッとして過ごす。仕事も家族も目に入らない。
 

 しかし、両者は再び生きる力を取り戻します。
 それはいつか?「You」のために生きるときです。


 Mr.インクレディブルはともかく、メガマインドは「環境」に恵まれていませんでした。刑務所の囚人たちに育てられ、全身が青色で、頭が大きな宇宙人ですから、グレるためのお膳立てはすんでます。そして順調に悪者の道を歩み出すのですが、正義を倒してしまったので、他にやることがない。そこで女の子にモテたくなるんです。でも、悪い奴はモテません。当然ですよね。みんなに迷惑をかけてる人間ですから。


 ある日、彼は気になっている女の子から身を隠す必要があり、別の人間に変身できる機械を使い、バーナードという平凡な人間になりすまします。当然、変身していることを彼女は知りませんから、バーナードという普通の男として接してくれます。
 もちろん、そいつの正体はメガマインドです。でも、バーナードという普通の人間として扱われると、「こんなオレにも彼女を作るチャンスがあるんじゃないか」という気がしてくるんですね。だんだん彼女に好かれたくなってくる。


 そうして少しずつ彼女と親しくなり、何度目かのデートをしていたとき、
「この通りはね、昔、お母さんと一緒によく歩いた道なの。でも、この街をメガマインドが支配するようになってから、すっかり汚れてしまったわ」
という話を耳にします。
 それを聞いたバーナード、いやメガマインドは、その夜、こそこそ街に出かけていってゴミ掃除をします。
 これ、もう悪者じゃないですよね。悪者は、自分が汚した街を掃除なんかしません。メガマインドは彼女に好かれようとして良い奴として振る舞っただけですが、そうしてるうちにだんだん良い奴になっちゃうんですよ、不思議なことに。
 この「所作が私をつくる」というのは、テーマのひとつであり興味深いのですが、とにかく女の子にモテるようになる。こうして良い奴になりつつあるメガマインドのまえに、悪人が登場します。すごいひねりの効いた展開です。当然、この街を汚す奴を倒すために、メガマインドは悪人との戦うことになる。
 

 バイキンマンって必ず負けるじゃないですか。アンパンマンは必ず勝つじゃないですか。いままでぼくは、これを物語的ご都合主義だと考えていたのですが、ちがったんですね。
 正義には勝つだけの理由がある。「あなた」がいてくれたからこそ、勝ち続けることができた。それが生きる力を、頑張る力を与えてくれるから。
 メガマインドやMr.インクレディブルは、そうして生きる力を取り戻していきます。
 現実はそうじゃないかもしれません。正義が勝ちつづけるというのは、あまりに理想的な考え方かもしれません。おそらく、正義も負けるときがある。
 でも、「正義は必ず最後に勝つ」という、この理想的な物語を映画というパッケージにして、世の中に伝えようとしている制作者たちの志に、ぼくはグッときました。
 やっぱ、そうでなきゃね!


それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ [DVD]

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心よりも行為:『50/50』



 ヒドイ目にあったら、だれだって自分のことで精一杯になる。どうやったら今より良くなるのか、なぜこんなことになったのか。悩み、後悔し、不条理に不満を感じる。
 ラジオ局に勤めているアダム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、早朝からランニングをし、まったく車が通っていない道路でも、信号が赤なら止まってるくらい真面目なヤツ。
 ある日、腰痛を見てもらうために医者にかかったら、聞き取れないくらい長い名前のガンが出きてますと告知される。
「なんでオレみたいな普通の人間がガンに? まだ27歳だし、5年後の生存確率が50/50?」
 やがて抗がん剤治療を行うようになり、そこで出会った父親と同年代くらいの闘病者たち出会う。
「なあ、知ってるか? 名前が長ければ長いほど、悪いガンなんだぜ」と言って笑わせてくれる気のいい人たち。
 でも人の良さと病気には残念ながら関係はない。
 死は、ある日突然やってくる・・・。


 本作はガンに罹患(りかん)したアダムの視点から描かれてます。突然起きた不幸に当惑し、絶望し、無気力になっていきます。
 これは人間の心理として当然だろうし、おなじ病気にかかったら、きっとぼくも同じように絶望し、無気力になっていくんだと思います。
 ただ当事者の無気力については、ほかの映画でもよく描かれています。この映画で「おっ」と思ったのは、「深刻な出来事は当事者だけのものじゃない」ことに注目していること。
 ガンにかかったアダムは、浮気をした彼女を追い出し、世話を焼きまくる母親を煙たがり、おちゃらけてる友人を責めます。当事者であるアダムからすれば、彼らは運のよい人々であり、自分の不遇を理解なんかできない存在だから。
 でも、本当はちがいました。


 彼女が浮気をし、母親が世話を焼きたがり、友人がおちゃらけているのは、すべて自分がガンに罹ったからだった。ある者は支えることの重荷に耐えきれず、ある者は負担を軽くしようとして過剰になり、ある者は日常を演じ続けようとして軽くなっていた。ガンに苦しむ自分には、それが分からなかった。
 もちろん自分は「負担になるだろうから別れてもいいんだよ、と彼女を気遣った。でも彼女は自分と一緒にいることを選んでくれた。だから彼女が浮気をしたとき、理由も聞かずに家から追い出した。
 でもそれは、本当に正しい行為だったのか?
 自分と闘病生活を送ろうとしてくれた彼女の決意を、覚悟、勇気を忘れてはいないか?
 途中で逃げ出してしまった彼女の心の弱さを責めることができるのか?

 
「(責めることは)できない」というのは、観客としての僕の意見です。
 正直、大変なことになった、彼氏を捨てて逃げたいと思っただろうけど、彼女はいつもアダムのそばにいてくれたし、夜にはいつもアダムのベッドに戻ってきていたから。それは一度約束をした者の責任感からだったからだと思います。
 心よりも行為が大切だと思うんですよね。アダムは彼女を赦すことはなかったのですが、たぶん最後にはおなじような気持ちになったんじゃないかなと想像してます。それは終盤、母親や友人といった、不幸の当事者を想う人々の本音を知ってしまったから。病気は自分だけのものじゃなくて、自分を含む周囲の人々のものだと気づいてしまったから。そして彼女にはしてあげられなかった「行為」を周囲の人々にしていくんです。
 なんかですね、そこらへんのことを想うと、すごく切なくてなるいい映画でした。

ビルの10階からはどんな風景が見えているのか?:『「上から目線」の構造』


 モノを見るとき、ぼくたちはスキーム(枠組み)というものを使ってます。地元のヤマダ電機より価格.comのほうが お買い得トクに「見える」のは、損得や価格というスキームを使ったからこそ。
 おなじように、上から目線に敏感な人は、上下というスキームを採用しているからだと著者は分析しています。


「上から目線」の構造 日経プレミアシリーズ

「上から目線」の構造 日経プレミアシリーズ


 これは能力や知識といったレベルの違いではなく、単純に「上下」という位置関係、構図だけというのがポイントです。アドバイスの価値や意図にはなかなか目が行かず、「上」というだけで拒否してしまう人々もいるそうです。
 現代の日本は「すべてをそのまま包み込み、個性や能力に関係なく一切平等に扱」おうとする母性原理によって成立しているそうです。
 どれだけ頭が良くてもみんなと一緒に進級していき、競争によるふるい落としはしない。また、大学入試には両親が付き添い、就活もサポートする。そうして大人たちに甘やかされて育ってきた子どもたちには、父性(原理)による上から目線のアドバイスは強烈すぎ、拒絶してしまう。
 この理屈は理解できるんですけど、なんか「甘やかされて育ってきた」という言い回しにはすごくイヤ〜な感じがします。そうした教育システムや原理をいままで採用し、子どもを育ててきた大人たちの責任が不問にされている感じがするからです。
 それはともかく。


 そもそもアドバイスというものは、知ってる者から知らない者へ贈る言葉だから、構造的に「上から目線」になることは避けようがありません。上下という構図にだけ注目して、「それは上から目線だ!」といえば、「その通り!」としか言うほかないと思います。
 しかし、アドバイスは役に立ちます。モノを見るためにはスキーマを使う必要があり、自分の持っているスキーマ以上のものは見えないのだから、そこにはどうしても見えるものの限界がある。「自分という枠組み」の限界を突破するためには、他者の存在(アドバイス)が必要になります。
 著者は視点の限界をビルの高さに喩(たと)えます。自分が住んでいる2階からは近所の家が見える。10階に住んでいる人が眺めている世界では、その地域で生活している人びとの姿が見えている高さが違うから、当然見えているものもちがう。2階の住人は、上の階から見える景色を教えてもらうことによって、徐々に上の階へ引っ越していくことができる。
 このアナロジーに僕は賛成なんです。そのほうが圧倒的にトクだから。
 ただ、好意によるアドバイスとはいえ、それはいまの自分を否定されることでもあるんですよね。そこらへんが「それって上から目線だ!」と拒みたくなる理由でもありそうです。今の安定している自分をぐらぐらっと揺るがす言葉だから。たとえ尊敬している人からのアドバイスですら、「いやおっしゃる通りだと思うんですが・・・、でもッ!」と反論したくなってしまうのは、そんな理由があるんだと思います。いや、このあいだ経験したものでして(笑)
 プライドはだれもが持っているし、ゼロにすることはできません。だから、どれだけゼロに近づけられるか、どれだけ努力して素直になれるか、ここがポイントなんじゃないかな。
 上から目線のアドバイスを拒否したくなる人はどうしたらいいのか、いまのぼくは解答を持ち合わせていませんが、素直に人の話を聞け入れたほうがトクだということは確かだと思います。いや、ほんとに。