姫君の髪飾り


久しぶりに部屋の片づけをしていたら(笑)、以前に買った本を発掘しました(謝)

歌舞伎のかわいい衣裳図鑑 (実用単行本)

歌舞伎のかわいい衣裳図鑑 (実用単行本)

著者の君野倫子氏はほんとにかわいい実用書を出されています。すでにご存知のかたも多いと思います。(しかし普段キモノや歌舞伎とは無縁の生活してるので、私にとってはデザインカタログなのです。埋もらせててごめんなさい。言い訳でした。)


で、片付けの常で、見つけた本をぱらぱらめくりだして、歌舞伎の衣装など目の保養しておりますと、でっかい豪華な髪飾りがなぜか記憶の糸をひきました。
「赤姫」という、女形の、髷(まげ)部分の太鼓みたいな飾りです。
これは簪(かんざし)だろーか?


「歌舞伎への誘い」より、歌舞伎の表現>役の表現>さまざまな役の表現>八重垣姫。すみません、こちらの写真に鼓は写ってないんですが、解説がありがたいので…


ちょい調べる位ではよくわかりませんが、鼓という飾りは歌舞伎専用の小道具で、売ってるようなシロモノではなさそう。そりゃそうか。


や、なぜ気になったかって?実は…このでっかい鼓型の飾り、「座敷童子」の女将、久代のカタツムリみたいな髪型に、ちょっと似てませんか?…


舞台の旅籠はかつての女郎部屋で、はっきり語られていませんが、女将もまた女郎であり、のちに屋敷ごと仕切る地位まで昇りつめたのであろうと思わせます。


女将の髪型、前から見ると、時代劇でおなじみの花魁スタイルです。しかし、まげは吹輪*1に結って、鼓っぽい(カタツムリの殻ですわな)飾りが目立っています。


そういえば、「若いころの久代」はどんな髪型だったろう?


あ、前から見るとこちらが「赤姫」ですね。びらびらつきの豪華な花かんざしが刺さっています。“文楽からの転用”という「人形じけ」(“”内引用は上掲本)こそ着けていませんが。まげ部分はどうなってるだろう?…わりと高い位置に、丸髷か、あるいは島田に結っている。高島田なら、よく浮世絵で見る禿(かむろ。平たく言うと遊女見習い)の髪型、釘打ち島田というのにも似てるかも。


第51回「静岡まつり」(「花魁道中」のコーナーに綺麗な写真が!)


あれ??老いて(一応)平和な余生を送っている現在の久代が、花魁のかんざしをさして、かつての血気さかんな若者であった久代が、お姫様飾りなんですね。で、どっちも、完璧に飾り立てているわけではない…と。


ふむ、まあ、もし、髪型の違いに意味を持たせるなら、まげの形や飾りの有無など、細部まで正確に描かれたでしょうから、ビジュアルのインパクトでデザインが決められたのだと思います。


ただ、前髪に限っては、現在が「花魁スタイル」で、若いころが「お姫様スタイル」というのは、ちょっと意味ありげな気もします。特に、昔の久代は、シャープな顔立ちに花魁ヘアーが格別似合ったろーな、と思うので、あんまり華美にしなかったのは、なんでだろう。


動かしやすいデザインとして、着崩した長襦袢?姿につりあうようボリュームダウンし、老女将と被らないヘアスタイルをえらんだにしても、…かわいいですよね。ピンクの花かんざし。


情熱の赤、銭模様のキモノをまとっていても、久代もまた、物語の姫のような想いを重ねた末に、自身の幸せを見失った女性、ということの表れ、なのかなぁ。


老いた久代が、前髪だけ花魁ふうに飾っているのは、たぶん物語の伏線というかヒントみたいなものでしょうが、なんとなく、過去の行いが正しかったと信じたいがために、苦しめられたはずの職業を栄光のようにまとっている…ようにも見えます。


★ ★ ★


そういえば本当にいまさらですが、「座敷童子」の後編で使われる襖絵の群鶏図って、雄鶏ばかりですよね。


まぁ、昔から描かれるのは大抵おんどりがセオリーなわけですし、坂井の化猫のだな〜てな位にしか思ってなかったんですが、雄ばかり密集してこっちをギロリと睨んでいる図は、物語と重ねてしまうとやっぱり怖いですねぇ。やはり、あの絵も選ばれて使われているんでしょうね。

*1:吹き輪、ふきわ。ヘアスタイルとくにまげの形を指すようです。あっ、でも久代のまげは一部を縛ってあって、ふっくら横に拡げてないから吹き輪って言わないかもしれない。間違ってたらごめんなさい。