風俗小説は古くなりやすい〜ヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ―英国貴族の日々』

 ヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ―英国貴族の日々』村上リコ役(河出書房新社、2013)を読んだ。

 

エドワーディアンズ ---英国貴族の日々
ヴィタ・サックヴィル=ウエス
河出書房新社
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 ヴィタ・サックヴィル=ウェストはヴァージニア・ウルフの彼女として有名だが、本人も作家だった。この本は1930年に書かれたサックヴィル=ウェストの代表作のひとつで、エドワード朝の貴族社会を諷刺的に描いたスケッチ的な小説である。主人公のきょうだいがセバスチャンとヴァイオラというあたり、明らかにシェイクスピアの『十二夜』がネタで、そのあたり『お気に召すまま』から主人公の名前をとってきているウルフの代表作『オーランドー』と似たセンスだなぁと思った。話全体の雰囲気や諷刺的なユーモアのセンスも『オーランド―』や『ダロウェイ夫人』と似たところがあり、20世紀前半のエレガントな英文学が好きな人は楽しめると思う。

 ただ、やはりどうしてもウルフと比べてしまうので損をしているというか、生と死をものすごい洗練で語る『ダロウェイ夫人』やめくるめく伝奇ファンタジーである『オーランドー』に比べると非常に軽い読み物という感じで、読後の「なんかすごかったな」感が少ない。形式に実験が少ないとかはまあいいのだが、小説というよりも風俗スケッチみたいな感じで、話の展開とか文章自体が面白いというよりも「へえこの頃の慣習ってこんなんだったんか」「当時のオシャレな人々は古くさい習慣をこういうふうに嘲笑してたのかな?」みたいな歴史的興味が先に出てしまうところがある。まあでも風俗習慣の克明描写に特化した小説や戯曲というのはリアルだけど古くなりやすくて話の面白みが少なくなりがちだと思うので、この小説の性質上、しょうがないところがあるのかもしれない。

 とはいえ、ウルフとかと比べるから物足りなく感じるのであって単体としては別につまらない作家では全然ないと思うし、こういう20世紀の英文学の翻訳はどんどん出してほしい。フォード・マドックス・フォードとかも全然翻訳出てないよね…