史実には全くのっとらず、内容はメロメロ〜『レディ・ベス』

 エリザベス一世の王女時代を主題にしたミュージカル『レディ・ベス』を見てきた。

 基本的に、史実には全くのっとっていない。エリザベスが吟遊詩人(なのだが、ロビン・フッドに近い)のロビンとデキてしまっており、ロミオとジュリエットふうな恋物語を繰り広げるという創作悲恋が主筋(ご丁寧にバルコニーの場面もある)。まあエリザベスの創作悲恋とかずーっと昔からある伝統なのでいいのだが(独身女性なのでそういう歴史ネタの二次創作が作りやすい)、それにしてもただの甘ったるい恋愛ものでお話はちょっと勘弁…という感じであった。

 とりあえず、エリザベスは民衆からも家庭教師のアスカムからも頭がよくて政治家にふさわしいとすごく褒められているのだが、本人の描写が全然そうとは思えない。若くて世間知らずで、女王として頭角を現すのは即位後だから…っていう言い訳はあるんだろうが、このミュージカルのレディ・ベスは恋愛のことを考える以外は自分の身を心配するだけの受け身なお姫様で、積極的に自分の身を守るためいろいろ策略をめぐらすとかいうことを全然せず、結局フェリペ王子に助けてもらったりするので、さっぱり面白くない。前に見た『9days Queen〜九日間の女王〜』もそういう感じだったが、これはもともと全然政治家に向いておらず、学究肌で世間知らずなジェーン・グレイがヒロインで、堀北真希も浮き世離れしたガリ勉タイプとしてジェーン姫を演じていたのでけっこう説得力があった…のだが、『レディ・ベス』のほうはその後立派な政治家になることを周囲から期待されている女性の話なので、エリザベス王女に強さがないのは説得力に欠けると思う。

 また、話ももっとスピードアップできるんじゃないかな…なるべく歌で話が止まらないよう、会話が歌になったり、歌唱場面を短くして変化をつけているのだが、それでももっとカットできる気がした。ただ、メアリ一世が出てくる場面だけ音楽がクラシック・ロック調なのは私の「宗教改革でわかるロック」にある「カトリック=ハードロック」仮説に一致していて、そこは性格がわかってよかったんじゃないかと思う。

 ただ、セットや衣装は非常に豪華で、とくに舞台美術は綺麗だった。錬金術天文学などで使う記号を艶やかに配した盤の上で全編のアクションが進行するというのは、「星の処女神」にたとえらたりするエリザベスの若き日の物語としてはぴったりの美術だし、アスカムが星のめぐりについて何度も言及して王女の政治家としての成功を予測するセリフともよくあっている。庭園や森なんかの場面もこの盤の上ですすむのだが、そこもなかなか趣があって良い。

 ちなみにこれはドイツ語圏のミュージカルだそうだが、スペイン王子フェリペの造形がステレオタイプな「ラテン・ラヴァー」、ちょっとズルいが基本的にチャラい遊び人だというのは、なんとなくドイツ人の悪意を感じた。

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