お菓子をくれなきゃいたずらするのは、アイルランドのジャガイモ飢饉のせいか?〜リサ・モートン『ハロウィーンの文化誌』

リサ・モートンハロウィーンの文化誌』大久保庸子訳(原書房、2014)を読んだ。

ハロウィーンの文化誌
リサ モートン
原書房
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 比較的新しい祭りであり、またすごい早さで商業化されていっているが、起源などについてはよく知られていないハロウィーンについて、始まりから最近のトレンドまでを網羅した本である。もちろん、わかっていないこともあるのでそこについてはあまりはっきりしない書き方になっているが、へんな断定をしていないぶん誠実だし、さらに祭りの性質を考えるとわかっていない部分の多さがミステリアスでむしろ彩りを添えているとも言える。

 とはいえ、ハロウィーンの起源は一般的によく知られていないだけで過去の原型になった祭りについては、思ったよりは今既にわかっていることが多いようだ。この本によると、ハロウィーンケルト人の夏の終わりのお祭りであるサムハインに関係があるのではないかという説が一番有力らしい。これが教会に吸収されて万聖節の前夜であるハロウィーンとなったようだ。昔はハロウィーンの起源はローマのポーモーナの祭りだという説が有力視されていたのだが、これは今では否定されているらしい(これはローマ中心主義に影響された学説だったのかな?)。

 17世紀以降になると、イングランドではガイ・フォークスの日の祭りが盛んになり、ハロウィーンはあまり祝われないようになっていったが、アイルランドスコットランドウェールズマン島などではかなりハロウィーンが盛んに祝われていた。イングランド(とくに南のほう)では20世紀の後半くらいまでハロウィーンは廃れていたが、最近はスーパーの販売戦略などもあってかなりハロウィーンを祝う風習が普及してきている。

 北米にハロウィーンが持ち込まれて独自の発展を遂げたという点に関しては、19世紀に大量にアメリカに移民したアイルランド人及びスコットランド人が影響があるだろうということだ。この本では、飢饉で逃げてきたアイルランド人が北米でそこそこまともな生活ができるようになり、母国でやっていたような祭りを盛大にやるようになっていたのではないか、という仮説がたてられている(84-85)。これはかなり説得力があると思う。北米のトリック・オア・トリートは、アイルランドのジャガイモ飢饉のせいなのか…

 本の後半は、ハロウィーンの遊園地で小金を稼ごうとする北米の農家をはじめとしたハロウィーン産業の話とか、世界各地へのハロウィーンの普及など、現代における商業化とグローバル化の話が多く、ここも大変おもしろい。各国ごとに宗教的な祭りや象徴体系との兼ね合いがあるので、アメリカふうのハロウィーンの普及には大きな差異があるようだ。とくにウクライナハロウィーンがなかなか普及しない要因として、オレンジ色のかぼちゃが伝統的に求婚を拒否する時の贈りものとして使用されていたため、というのがあげられているのが面白い。そりゃあ、フラれた時の贈りものと同じものがたくさん祭りに飾られていたらウクライナの男性は気が滅入るだろう。

 なお、この各地のハロウィーンに関連して、中南米の死者の日について一章が割かれている。死者の日はアメリカのラテン系住民や中南米に関する映画・ドラマなどを見ているとよく出てくるのだが、日本に住んでいると全くなじみがないので、死者の日の習慣について詳しく読めるのはありがたい。実施日はハロウィーンとだいたい同じ頃だが、ケルト的なものからは切り離されて中南米の先住民の文化が流入しているため、かなり見た目は違うものとなっているようだ。

 他にもハロウィーンを題材にした詩や小説、映画などについての分析もあり、幅広くハロウィーンについて知ることができるので、とてもおすすめの本である。この間せんだい歴史学カフェがやっていたハロウィーン特集とも関連するところがあるので、よければ一緒にどうぞ。