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2016-05-07

オッタートンさんの夫婦仲がとても心配だ〜『ズートピア』(ネタバレあり)

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 『ズートピア』を見た。

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 哺乳類動物たちが進化し、共存して社会を作っている世界田舎にんじん農場の娘であるウサギのジュディはウサギとしてはじめて警察官になり、大都市ズートピアのど真ん中で仕事を始めることになる。ところがウサギのような小動物に対して警察上司たちは冷たく、肉食獣の連続行方不明事件警察てんてこまいであるにもかかわらず、ジュディは駐車違反の取り締まり仕事ばかりやらされる。ひょんなことから、あまり警察が注目していないカワウソのオッタートンさんの失踪事件担当することになったジュディは、サギ師であるキツネのニックを引き込んで捜査をはじめるが、捜査に伴って大きな陰謀の影が…

 かわいらしい動物たちが出てくる話だが、内容はとてもシビアである動物たちの間の体格や文化の違いは明らかにアメリカ人種問題を反映しており、バックグラウンドをもとに個々人(個々動物?)の性格を決めてしまうことで多くのものが失われるとか、生物学的にどうだとかい一見もっともらしい分析には危険性が潜んでいるとか、いろいろな社会的テーマを扱っている。ネタバレになるが、キツネに対するステレオタイプを引き受けて生きようとした結果サギ師になったニックと、ヒツジに対する扱いに恨みを持った結果悪事に手を染めることになったベルウェザー副市長は同じ問題犠牲者なのかもしれない。そう考えると、市長ハラスメントを受けていたベルウェザー副市長は悪役とはいえかなり気の毒なヒト…じゃなかったヒツジである

 ということでけっこうテーマは重いのだが、この重いテーマファンタジーでありつつリアルに処理するため、動物たちのキャラクター作りに様々な工夫がなされている。主人公田舎娘のウサギにしたところがまず勝因だろう。ジュディは自分の夢を追い求める冒険的なヒロインだが、田舎育ちで都会のことがわからずいろいろ失敗するあたり、とても身近に感じられるところがある。それでも王子様に助けてもらうとか全く考えていないし、ニックとは対等で、自立した女性だ(なお、この映画はベクデルテストはジュディとベルウェザーさんとの会話でパスする)。私は警察モノより私立探偵モノのほうが好きなので、こういう雰囲気ハードミステリで、さらにサギ師と組むという展開ならどっちかというとヒロイン私立探偵のほうが似合うんじゃないのか…とも思ったのだが、これはたぶんマイノリティ組織の中で壁にぶつかることについての映画なので、ひとりで働く私立探偵ではダメだったんだろうと思う。「組織社会公共空間と個々の人(この「人」には動物雪だるまも便宜的に入れることにする)」というものの関わりがテーマだとすると、『アナと雪の女王』の庶民的な発展版と言えるかもしれない(ちなみにアナ雪の"Let It Go"の歌詞には"Couldn't keep it in, Heaven knows I tried"というところがあるが、『ズートピア』のテーマ曲"Try Everything"には"I wanna try everything, I wanna try even though I could fail"という歌詞があり、「隠しておくのはもう無理、間違い無くトライはしたけど」から「なんでもトライしたい、失敗したとしても」に進化しているので、歌のほうもモチーフ継続性があり、なんらかのアンサーソングなのではないかと疑ってしまう)。キツネのニックのほうはたぶん声をジェイソン・ベイトマンがあてたところが勝因なのかもしれないが、辛辣ユーモアがあるのに憎めない、いいキャラクターになっている。

 動物たちの性格のみならず、外見を描いて形を与えるためにもすごい技術と労力がつぎ込まれている。私の知人がやっている映画専門のメールマガジンMINISTRY OF FILM - ゼロからのスタジオシステム -」111号が『ズートピア』の特集で、東映アニメーションからウォルト・ディズニー・カンパニーに移って働いている小原康平がメイキング画像日本語解説する記事を書いているのだが、ディズニーではリサーチに大変力を入れており、リサーチ用に今まで作った作品原画などの資料をほぼ保管して社員が見られるようアーカイヴ化しているそうだ(『ファンタジア』のスケッチも見られるそうな)。さらに『ズートピア』では、毛皮を描くためポンと主要スタッフケニアに行かせていっぱい動物を見てこい!という調査旅行をやったそうで、とにかく楽しくたくさん動物を見るという、日本なら物見遊山だと言ってバカにされそうな旅行の結果が全てあの毛皮の質感に反映されているそうだ。ジュディの長いウサギ耳が下がるところで、動物らしいのに一方で人間女性のロングヘアみたいな妙なリアルさがあってビックリした覚えがあるのだが、そういう細かい観察があのフワッフワの毛皮の造形や動物っぽいのに人間が親近感を抱ける絶妙な動きにつながっているんだろう。

 ちなみにこの映画は『ゴッドファーザー』とか『三つ数えろ』みたいな犯罪映画をいろいろ参考にしていると思うのだが、その手の映画らしく、家族向けの映画にしてはプロットがわりと込み入っていて、観客が想像で補ったほうが良さそうなところが結構ある。個人的にはオッタートンさんまわりの展開が大変気になった。カワウソのオッタートンさんがマフィアドンであるトガリネズミミスタービッグに会いに行く途中で撃たれたのは、明示されてないがたぶん毒のことに何か感づいてドン相談しようとしたからだろうと思う。ネタバレだが、オッタートンさんは花屋なので植物毒については専門家だろうし、カワウソは肉食獣としては小さくてテロターゲットとしてはあまり派手とはいえないので、口封じ目的狙撃だと思う。おそらくマンチャスさんの狙撃もこれに続く口封じ目的のものだ。さらに私がとても気になっている細かい点はオッタートンさんとオッタートン夫人の今後の夫婦である!どうもオッタートン夫人の行動と性格からして、オッタートンさんは自分ヌーディストなのも、マフィアドンと親しいのもたぶん妻に隠してたんだろうと思う。オッタートン夫人大人しくて上品そうなご婦人だったし、もしこういうことを知っていたら自分でヤックスにコンタクトをとるか、あるいは何かヤバいことに巻き込まれたかもと思って地元で顔が利く親分ミスタービッグに話を通すと思うので、ああいう感じで警察を頼るはずはない。ということは、このあたりの隠し事が全部バレた、回復後のオッタートン夫婦夫婦関係がなかなか心配である

sichiminsichimin 2016/05/08 21:01 オッタートンやマンチェスが狙われた理由がとても説得力があってなるほどと思いました。
僕もここがかなり疑問で、なぜマフィアの客を狙うという危険を敢えて犯すのか、またなぜあのタイミングでマンチェスが撃たれたのか、すごく気になってました。

saebousaebou 2016/05/08 21:06 そもそもオッタートンさんがマンチェスさんの車にいるところを狙撃するというのは危険だし何か緊急の理由で狙撃されたと思われるので(ふつうのテロならもうちょっと狙撃しやすいタイミングでやると思います)、たぶんオッタートンさんが何か毒のことに気付いて、副市長の側が感づかれたことに気付いて狙ったのだろうと思います。

sichiminsichimin 2016/05/08 22:06 この映画、かなり詰め込んでるのでこういう端折ってるところが結構多いですよね。
正直それがもったいない。
この記事に書かれてるオッタートンさんの人となり(ヌーディストだったりマフィアとの関連とか)以外にも、オッタートンとニックの関係(知り合い?ジュディをすんなりヌーディストクラブに案内できた理由が気になる)や、森林オオカミがあのタイミングでマンチェスを回収できた理由等も、いろいろ描いて欲しかった。
まぁ想像するのも楽しいんですけどね。

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