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2017-10-12

境遇に似たところがあっても、わかりあえないつらさ〜『ドリーム』(ネタバレあり)

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 『ドリーム』を見てきた。

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 原題はfiguresに人物数字をひっかけたしゃれたタイトル『ヒドゥン・フィギュアズ』で、最初日本語タイトルが『ドリーム 私たちアポロ計画』になったのだが、アポロ計画ではなくマーキュリー計画主題ではっきり言って日本語タイトルウソなので『ドリーム』に変更になった。映画を見れば『私たちアポロ計画』でもおかしくないとわかる…という声もあったが、正直私はぜんっぜんそうは思えないし(最後のところでアポロ計画につながるからと言って実際にはほとんどメインの題材でないものタイトルに入れてはいかんだろう)、今の日本語題もちょっとどうかと思うのだが、内容は大変よくできたものだ。

 主人公キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)、メアリージャクソン(ジャネール・モネイ)、ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)の3人だ。舞台1960年代はじめ、ヴァージニア州にあるNASAラングレー研究所であるアフリカ系アメリカ人女性たちが計算係として多数雇われていたが、待遇は悪く、出世の道もなかなかなかった。こうした中で抜群に優秀な3人の女たちが人種性別、二重にのしかかる重い差別と戦いつつ硬直したNASAシステムに風穴を開け、ジョン・グレン宇宙飛ばして無事帰還させるのに大きな役割を果たす。

 とにかく全体に無駄描写やダレる描写が一切なく、細かい描写の積み重ねで丁寧に差別を浮き彫りにする一方、ユーモアたっぷりあってあまり暗くならないし、盛り上がるところもたくさんあって、一度も飽きることなく最後までワクワクして見られる映画だ。ちょっとコーヒーを飲むとか、トイレ図書館に行くというような日常的な行動の制約を描くことで厳しい差別現代人にもわかるように表現している(史実に比べると時系列はだいぶいじってあるし、誇張もあるようだが)。キャサリンの家庭に関する描写なども細やかで登場人物たちの人柄がよくわかるものになっているし、小道具ファッション楽しい。ベクデルテスト最初の数分、女性たちが車を直しているところでパスする。

 面白いのは、この映画では境遇共通点がありそうな人でも少し属性が違うと他人に対して偏見を持ちうるし、わかりあえないこともあるというつらい状況が細かい描写でうまく表現されていることだ。白人男性であるエリート上司たちが無意識差別無理解を示すのはもちろん、この映画では白人女性黒人男性黒人女性に対してうっかり偏見を露わにしてしまう。ブスっとした白人女性上司ヴィヴィアンミッチェル(キルステン・ダンスト)は、見ているぶんには偏見まみれなのだが本人は全然気付いてないようで、終盤ドロシーに皮肉を言われてやっとドロシーが平等に扱われていないことがなんとなくわかるという展開がある。ヴィヴィアン女性としてNASAで不利な中頑張っているはずなのだが、人種が違うドロシーのことは全然自覚なくナチュラルに見下していて、そのあたりの無神経さが容赦なく辛辣に描かれている。さらに、子持ちの寡婦であるキャサリン一目惚れする軍人ジム(マハーシャラ・アリ)も、最初キャサリンに会った時におそらく褒めるつもりでうっかり「女性でそんな仕事を…」とか失言をしてしまう。ジム人格は立派だし優秀な軍人で、おそらく自身アフリカ系として不利な環境を乗り越えて成功した人なのではないかと思われるのだが、そういうキャサリンとおそらく似たバックグラウンドの人でもうっかり偏見を漏らしてしまうところがリアルだ。その後でジムがちゃんと後悔してキャサリンと対等な関係を築こうと頑張るあたりがほほえましい。

 終盤は打ち上げに向かって話が加速し、最後のグレンを宇宙に飛ばすところは、史実がわかっていてもハラハラさせられる。なお、グレンは既に第二次世界大戦から軍人だったはずなのだが、この映画ではえらく若くてカッコいい堂々たるエリート軍人で、まるでキャプテン・アメリカみたいである(第二次世界大戦から氷漬けで保存されてたのかと思うほど若い)。最後キャサリン計算を頼むところはさすがにできすぎだろうと思ったのだが、かなり誇張はされているものの一応、打ち上げ数日前(映画では当日)にそういうことがあったのだそうだ。このへんは是非原作を読んで確認したいと思った。