ヘンリー八世のイメージが古すぎる〜『鏡の向こうのヘンリー八世』

 奥泉光作、江戸馨演出『鏡の向こうのヘンリー八世』を見てきた。『鏡の向こうのシェイクスピア』というシリーズの新作だそうで、『ヘンリー八世』を参考にした作品である。ただし内容は相当違う。

 ヘンリー八世がキャサリンとの結婚の妥当性を疑うようになり、アン・ブーリンに乗り換えるまでを描いている…のだが、ヘンリー八世の描き方があまりにも昔のまんまというか、女好きで意志の弱い男で、『チューダーズ』なんかがあったのにこんな描き方というのはないだろうと思った。劇中でヘンリー八世は美食と美人と亡くなった兄のことしか興味が無いみたいな台詞があるのだが、イングランドでもトップクラスの知識人でいろんな学問に興味があったヘンリー八世にそれはないだろうと思う。さらにヘンリー八世は女のことばかり考えているバカではなく、強い指導力とカリスマを持った政治家だったはずなので(人格にはいろいろ問題あったと思うが)、政治的決断についてフラフラしているこの芝居のヘンリー八世にはあまり面白みがないと思った。宗教改革を結婚問題に還元してしまう書き方も非常に疑問である。さらにアン・ブーリンが愛人のトマス・クロムウェルに操られていたという描写にはミソジニーを感じる。全体的にけっこうつまらなかったと思う。