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2018-03-11

お前が一番、「ユニークな人」だよ〜『グレイテスト・ショーマン』(ネタバレあり)

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 『グレイテスト・ショーマン』を見てきた。

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 サーカスで有名な興行師P・T・バーナム(ヒュー・ジャックマン)の人生ミュージカルであるバーナム子どもの頃から憧れていたチャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚して2人の娘に恵まれるが、一発デカいことをやろうとしてショービジネス世界に入る。蝋人形館を始めるがあまりうまくいかず、「ユニークな人」、つまり外見が変わっていたり、特殊技能を持っていたりする人を集めてサーカスを始め、大成功する。ところがスウェーデンオペラ歌手ジェニーリンドの興行トラブルが発生し、破産危機が…

 台本はいろいろツッコミどころがある。とにかく主人公バーナムは、たぶんヒュー・ジャックマンの歌って踊って演技もできる魅力的な存在感がなかったらものすごく嫌なヤツに見えるだろうと思うようなところがたくさんある。バーナムサーカスのため「ユニークな人」を募集し、髭女レティ(キアラ・セトル)みたいに外見が一般とは違う人や、空中ぶらんこの達人ウィーラー兄妹みたいな特殊技能を持っている人が集まってくるんだけれども、人格的にはこの「ユニークな人」たちは、今までさんざん苦労してきたせいか考え方も振る舞いも大人人間ができた人が多い。一方でバーナムはたいへん身勝手子どもっぽいのに、突飛なアイディアカリスマだけで人を説得してしまうようなところがあり、よっぽどこいつのほうが悪い意味で「ユニークな人」だ。仕事上のパートナーであるフィリップ(ザック・エフロン)が「お客は君を見に来てるんだ」みたいなことを言うところがあるが、たしかにバーナムが一番、ショーマンとしてはユニークなのである。ショービジネスへのこだわりと情熱だけは有り余ってる身勝手興行師が周囲に励まされて…という点ではこの話は『シング』によく似ているのだが、バーナムは突然ジェニーリンドに入れあげるなど、『シング』のバスターよりもずっとわがまま衝動的だ。さらにこの映画最初ラ・ラ・ランド』のスタッフが関わっていることが宣伝で大きくとりあげられており、まさかそんなことはないだろうと思って見に行った…のだが、主人公特定のショービジネスにこだわりを持っている変な男だという意味では『グレイテスト・ショーマン』は『ラ・ラ・ランド』にかなり近いかもしれないと思う。

 ただ、ミュージカルとしての見せ方ははるかに『ラ・ラ・ランド』よりも上だ。キラーチューンがたくさんあるし、歌も踊りもできてミュージカルで映える役者を揃えているので、歌の場面での盛り上がりはたいしたものだ。脚本がかなりダメなのに歌がそれを裏切ってよくできているので、ちょっと戸惑ってしまうくらいである。たとえばレティが中心になって歌う"This Is Me"は、人と違っていても自分を愛して生きていけるということを歌い上げる素晴らしいプライドソングなのだが、この前後プロットがこの歌をうまく消化していない。この歌はレティたちがバーナムジェニーリンドのお祝いパーティへの参加を拒否された後に歌うのだが、この歌を生かしてちゃんバーナムの成長を見せるなら、その後なんかの拍子にこの扱いをバーナムレティたちに謝るという展開が必要だと思うんだけど(そういう場面があれば、最後にみんながバーナムを助けようとする展開に説得力が増す)、そういう細かいプロットのつじつま合わせができていない。ジェニーリンドが出てくるあたりからはとくに脚本がぐだぐだになり、ジェニーがただのわがまま女なのか、バーナムのショーマンとしての態度が悪いのか、なんだかはっきりしないまんまバーナム破産してしまう。全体的にバーナムまわりのストーリー展開はだいぶスカスカで、バーナム家族女性陣のキャラもかなり薄い(ベクデルテストチャリティと娘たちの短い会話でパスするかもしれないがちょっとあやしい)。

 一方、フィリップとアン(ゼンデイヤ)のロマンスを中心とする展開は比較的マシであるちょっと飛ばし気味だがフィリップが心理的偏見を克服する様子もわかるような描き方になっているし、歌と話の辻褄がちゃんとあっている。とくにアンがエアリアルをこなしながら2人で歌う"Rewrite the Stars"は恋心の高まりを非常によく表しているロマンティックな歌だ(この曲、そのうちエアリアル系のバーレスクで使われるのでは?)。

 あと、フィリップとバーナム関係はかなり狙ったブロマンスである。とくにバーナムがフィリップにバーで酒を飲ませながらカンパニーに入れと誘うデュエット"The Other Side"は、ちょっと駆け落ちみたいな表現が出てきたり、新旧の男性ミュージカルスターが誘惑したり抗ったりするということでずいぶんと腐女子好みな場面になっている。相当に台本スカスカな話なのだが、ちょっとこの場面でヒューとザックが自分たちミュージカルスターとしてのカリスマを互いに全開にしているところは私の批評精神が抵抗できなかった。

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