全体的に詰めが甘い〜『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』

 石丸さち子脚本・演出のミュージカル『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』を見てきた。『ロミオとジュリエット』の翻案である。

 舞台は対立している二つの町(中央アジアっぽいが、特定されてない)、デルヒとゼムリャで、ロミオにあたるデルヒのハワル(東啓介)と、ジュリエットにあたるゼムリャのリェータ(豊原江理佳)が恋に落ちるという物語である。設定などは相当変更してあるが、台詞はわりと原作のものを使用しているところもある。この手の翻案としてはかなり原作の形を留めているほうだ。

 セットは右手に手前から奥に向かってのぼるかなり急な坂が設置されていて、左側には木の後ろに壁がある。左側の壁は、役者が上に立ってパフォーマンススペースとして使用できる。坂と壁の間に隙間があるので、そこからも出入りできるようになっている。

 全体的に、頑張ってはいるのだがイマイチ歌も台本も詰めが甘いところが多かったように思う。たとえばリェータの兄シーラ(大山真志)は妹と結婚するつもりらしいのだが、この文化では兄妹結婚が許されているのかとか、リェータとシーラの親族関係はいったいどうなってるのかとか(シーラが両親からリェータを奪ったらしいのだが、それ以上の詳細がわからない)、そういうことがあまり説明されずに話が進むので、シーラが婚約を宣言した後のリェータの反応の意味がよくわからない。主役の恋人たちは純粋ではあるのだが、それだけという感じでそんなに生き生きと描かれているわけではないと思った。

 マキューシオにあたるハワルの親友ポドフ(柳下大)と、乳母及びロレンス修道士の役をかねる高級娼婦ドゥーシャ(マルシア)は、演技の点では大変良かったと思うのだが、キャラクターの描き方が相当に物足りない。ポドフは明らかにゲイなのだがもっと明確にそのことを打ち出したほうがいいと思うし、死んだ後も左側の壁の上に居座っていろいろコメントしたりするのは焦点がぼけるので不要だと思う。ポドフの印象が強すぎて、主役の恋人たちの印象がぼやける。ドゥーシャについては、なんで突然今まであまりよく知らなかったハワルを助けようとするのかとか、なんでどう見てもヤバいシーラのところにリェータを一度帰そうとするのかとか、いちいち行動が不可解だ。せっかくいい役者を使っているのに、このあたりのキャラクター造形が浅いのはとても残念である。