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2017-11-11

若者が右往左往〜明治大学シェイクスピアプロジェクト『トロイア戦争〜トロイラスとクレシダ』

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 明治大学シェイクスピアプロジェクトトロイア戦争〜トロイラスとクレシダ』を見てきた。

 セットは大理石建築物を模したもので、左上に生演奏音楽隊を配置している。衣装についてはギリシア軍は青、トロイア軍は赤で衣装統一している。女性陣はけっこう現代風で、クレシダはピンクドレスを着ている。

 2つの作品を組み合わせて二部構成にしていた昨年に比べると、構成演出もかなりストレートだ。台本言葉遣いはかなり現代風で、若い役者陣が自然に言えるような言葉遣いになっている。笑うところはたくさんあり、クレシダがディオメデスになびくところなどはコミカル演出になっている。

 学生演劇なので当たり前なのだが、役者陣が若いせいでクレシダとトロイラスに妙なリアリティがある。クレシダは可愛いのだがあまり心が強くなく、急な引っ越し恋人トロイラスと引き離され、心細くなってけっこうイケているディオメデスの接近についついなびいてしま世間知らずな若い女性という感じだ。ディオメデスが出ていってしまいそうになるたびに呼び止めるあたりの優柔不断さは面白おかしい一方、20前後若い女性が新しくやって来た土地でなんとなく弱気になってうじうじと思い悩んでいる様子がよくわかる。トロイラスも女心があまりからず、すぐ熱くなってしま世間知らずな若者だ。2人とも大学商店街で見かけるそこらへんの若者みたいな生々しさと親しみやすさがあり、とても身近な話になっている。現代政治を絡めつつ、クレシダの生き抜こうとする努力を見事に描写した鵜山版なんかに比べると全体的にずいぶん青臭く、若者たち右往左往という感じの演出になっているが、大学プロジェクトであることを考えるとピッタリだと思う。

2016-09-11

日本で女形についての芝居をする意外な難しさ~『クレシダ』

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 ニコラス・ライトの芝居『クレシダ』を見てきた。森新太郎演出である

 1630年代のロンドンオールメールシアター。役者としての自信を失ったジョン・シャンク(平幹二朗)は女役の少年俳優の訓練をしていた。『夏の夜の夢』に妖精役が必要なので修行中の少年を雇おうとしたところ、少年俳優養成委託していた男が子どもたちごと夜逃げしてしまう。ロクに台詞もしゃべれない少年、スティーヴン(浅利陽介)だけが残されたが、実はスティーヴンには才能があり…

 世代の違う役者のせめぎ合いを、これまた舞台にはつきものスキャンダルやら金のいざこざをからめてうまく見せている芝居である役者たちは皆頑張っており、、少年俳優を演じる若手たちや、昔は女形だったが今は劇団マネージャーになっているディッキーを演じる高橋洋もなかなか良い。また、昔は綺麗な女形だったが今は衣装であるジョン(花王おさむ)が、昔とった杵柄で堂々と『タンバレイン』の一節を暗唱しようとしたところが途中で台詞をど忘れしてしまうというような細かいところになんともいえない切なさがある。ただ、終盤のあたりでシャンクがころころ気分を変えるあたりはちょっと書き込みが甘い気がした。自分時代が過ぎたとシャンクが自覚する様子を、もっと堂々とした美しい台詞表現してほしい。

 一つ、ちょっと文化的な面で話に説得力が無いように思えるところがあった。終盤でトップ女役のハニー(橋本淳)がもう大人からということで女役を引退し、男役をすることになるのだが、成人の女形を見慣れている日本の観客からするとなぜやめる必要があるのかよくわからないところがあると思う。私も歴史的なことを知っているので頭では理解できるのだが、見ていてハニーが他の女役に比べてとくに男っぽいとは思えないので(橋本淳はかなり綺麗で、日本舞台なら十分女形として通用すると思う)、なかなか気持ちを切り替えて見るのが難しいところがある。

 一番良かったのは美術である最初舞台装置のような雲のベッドに横たわった病気のシャンクが、これまた天国のような雲や空を背景にスティーヴンと話すところから始まるのだが、これがさーっとはけて後ろからかなり綺麗に作り込んだ初期近代オープンエア型の劇場のセットが登場する。天国風なセットのほうが閉所恐怖症館があり、狭いはずの劇場のほうが解放感があるというギャップがとても良かった。最後にディスカバリースペースのほうからまた雲のベッドに乗ったシャンクがデウス・エクス・マキナのように登場してくるところもとても演劇的だ。

 ひとつ気になったのは、シャンクがスティーヴンに自分誘拐されたことを話す場面で、なぜか「シルクハットの男」についての台詞があったことであるシルクハットは18世紀発明品のはずだ。ピューリタンかぶるような長帽子ことなのかもしれないが、そうだとしたらなんでそんな奴が子ども誘拐に携わってるのかわからないし…ちょっと原文を見ないとわからないが、いったいあれはなんだったんだろう。

2015-07-29

爆笑の諷刺喜劇…〜世田谷パブリックシアター『トロイラスとクレシダ』

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 世田谷パブリックシアターで鵜山仁演出トロイラスとクレシダ』を見てきた。全体的に大変面白く、とくにお腹を抱えて笑える場面がたくさんある諷刺喜劇だったと思う。

 実は私が以前に一度だけ見たことのある、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー&ウースター・グループ版『トロイラスとクレシダ』は稀に見る不評な公演で、上演開始時より終演時のほうが空席が増えているというような始末のプロダクションだった。アメリカ人と英国人の演出家がそれぞれギリシャ軍とトロイ軍を演出するというものだったのだが、これが完全に裏目に出て笑うところもないし息もあってなかった。それに比べると今回の『トロイラスとクレシダ』は、前回見た時にはクスリとも笑いが起きなかったような箇所で何度もフいてしまったので、本当に同じ戯曲かと思うくらい面白くてびっくりしてしまった。

 舞台は後ろにかなり急な階段を設置したセットで、前方に紅白などの幕をつるしてテントなどを表現する。後方真ん中に一箇所、出入りするための小さい通路があったり、また奈落のドアからの入退場も多い。衣装現代もので、ギリシャ軍は迷彩の軍服中心だが、アガメムノンは映画の撮影現場みたいな'Director'の椅子に座っていて、実に偉そうだ。

 とにかく登場人物同士のやりとりが面白おかしく、一番真面目にならないといけないようなところでとんでもないお笑いをかましてくるので、意表をつかれるような笑いが多かった。ユリシーズがエイジャックスに対して「頭の良さは褒めるまでもない」(実際の意味は「あんたバカ」)などとおだてるところはこの芝居の中でも一番私が気に行っている場面なのだが、今井朋彦演じるユリシーズのなんとも言えないイヤミな頭の良さが大変よく効いていてニヤニヤクスクスが止まらなかった。渡辺徹がトロイラスをクレシダに取り持つおじのパンダラス役を演じているのだが、これもまあ下ネタを中心として台詞回しも動き方もいかにも「訳知り顔のちょっとウザいおじさん」風で大変面白おかしく、一方で最後はきちんと厳しく締めてくれたと思う。横田栄司がアキリーズを演じているのだが、パトロクラスを引き連れたアキリーズは軍人だかそこらのチンピラだかわからないような威厳のなさで、たまにちょっとホモエロティックだったりもするのだが、そのなんとも言えない傲慢と、エイジャックスとはまた全然違う思慮の足り無さ(アホっぽい人のキャラ分けって大変だと思うのだが、エイジャックスとアキリーズは明らかに違う)をいかんなく発揮していて、出てくるたびに笑える。こういうひとつひとつの笑いの積み重ねが、7年も戦争が続いているという大変な状況なのに男たちがくだらない見栄の張り合いばかりしているという状況の不条理さを辛辣に暴き出していると思う。それが、最後に急転直下で死人がゴロゴロでるシリアスな終わり方になっていくのも良い。

 一方でクレシダ(ソニンが演じている)の物語はけっこう深刻だ。クレシダはトロイラスを恋人とするが、ギリシャ軍に捕虜交換で引き渡されるとすぐダイアミディーズの恋人となる。この心変わりの表現は難しいところだと思うのだが、このプロダクションでは、クレシダがギリシャ軍に到着したとたん、ニュージーランドのハカかなんかみたいなドスンドスンとうるさい踊りで圧倒し、争ってクレシダの唇を求めるギリシャの男たちが描かれる。この場面は戦時性暴力を明確に想起させるもので、クレシダは性欲丸出しでふざけている男たちに押し倒されたり触られたりしてかなりの危険を感じているように表現されている。そんな中でも弁が立つクレシダは面白いことを言って男たちのセクハラを止めるだけの賢さがあるのだが、それでもこんなところで若く美しい女性が強姦やどうしようもない男との強制結婚から身を守るためには、少しでもマシな男を恋人にするほか生きる術がない。このプロダクションでは、こういう絶望的な状況ゆえにクレシダがトロイラスに未練を持ちつつもいくぶんはマトモそうなダイアミディーズと契ることを決めるという筋道がよくわかるようになっており、クレシダの考えが生き生きとわかる演出だったと思う。

 ギリシャの軍人たちのまるでくだらない小競り合いと、身を守るため恋人を変えるクレシダを対置して描くことで、このプロダクションは戦争の不毛をとても効果的に諷刺していると思った。笑って見ているだけでも面白いが、かなり政治的な演出でもある。ただ、サーサイティーズの見た目だけはちょっといただけなかった…あれ、ブラックフェイスを想起させない?

2012-08-28

金と時間を返せ!〜RSC&ウースターグループ『トロイラスとクレシダ』

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 ハマースミスのリヴァーサイドスタジオでRSC&ウースターグループの『トロイラスとクレシダ』を見たのだが、今まで見たシェイクスピア上演の中でもワースト10に入るくらいひどかった。

 この公演はマーク・レイヴンヒルが監修するRSCの役者たちとエリザベス・ルコントが監修するニューヨークのウースターグループの役者たちがそれぞれギリシア軍とトロイア軍を演じるというものなのだが、まずこの二つの軍の演出の調子が決定的にあってない。なんか違う芝居を交互にやっているみたい。

 ギリシア軍のほうはまあたいして面白くはないが怒るほどのことはないふつうのシェイクスピアであるマーク・レイヴンヒルもっとできる人のはずなので期待はずれっちゃ期待はずれだが、「ゲイテイストを織り交ぜて意欲的にやったつもりがうまくいかなかった」感じなので一応理解はできる。それにスコット・ハンディ演じるユリシーズは大変良くて、ナーディで一見温厚そうなおじさんがアキレウスやエイジャックスを甘言で釣るところとかはとても面白く、「ユリシーズってこんなによく描けた役だったんだな」と思った。ただ、メタルバカ野郎のエイジャックスとか、車椅子にのったドラァグクイーンのサーサイティーズはけっこう寒い。発想自体は悪くないように思えるので、もっといくらでも面白くなっただろうに…

 しかしトロイア軍がとにかくひどい。なぜかトロイア軍はネイティヴアメリカンの扮装で出てくるのだが、ほとんどの役者が白人で、コンセプトがよくわからないし演技の力業でそれをカバーすることもできていないので、まるでブラックフェイスのミンストレルショーを見ているかのような猛烈な不快感に襲われた。とりあえずなんでこんなことにしたのか考えてみたのだが、たぶん腐敗ぎみの覇権国家であるギリシアと勇敢だが敗北するトロイアの対比なのか…と思ったんだけどそれはちょっと類推が陳腐すぎるような気もするし、トロイア人で勇敢そうに見えるのがヘクターだけで(トロイラスとか超弱そう)全然勇敢に見えないのでいったいなんでこんなことになったのか結局さっぱりわからなかった。

 あとクレシダがかなりひどい。トロイア軍は全員なんだかよくわからない超聞き取りづらい一本調子なアクセントでしゃべるので(レビューのコメント欄を見ると英国人もアクセントがよく理解できなかった様子なのだが、どうもミネソタ訛りではないかという話)、そもそもセリフがよくわからなかったのだが、クレシダがまあとにかく棒読みで弱そうで存在感がなく、自分の美貌でどうにか戦争を切り抜けようとしているしたたかなマテリアルガールには到底見えない。後半部分で半裸で出て来てそのままギリシア軍に連れて行かれたり、舞台の上でおっぱい丸出しにして着替えたりするあたりは全くナメてんのかと思った。クレシダに限らず、若くてそこそこ自分の容姿に自信のある女が寝間着同然の姿でギリシア軍に行くわけねーだろ!その前の「お嬢様の準備はできましたか?」というセリフともあってないし…全体的にクレシダの演出がひどすぎてまるで統一感のある一人の人間とは思えない。

 まああと全体的に舞台のヴィジュアルもよろしくない。四方に小さいテレビが設置され、そこに字幕つきの映像(ネイティヴアメリカンの映像とか昔の映画のフッテージとか)が映るのだが、字幕も画面も小さすぎて何が映っているのか客席からはほとんど見えず、また役者がたまにテレビを見ながら台詞をしゃべったりするんだけどこの目線の動きが異常に不自然。この無意味でペダンチックなヴィジュアルは何なんだ…

 と、いうわけで、最悪の『トロイラスとクレシダ』だった。なんでもストラットフォード・アポン・エイヴォンのスワン座でやった時は途中で怒って席を立つ客続出だったらしいのだが、ハマースミスリヴァーサイドは構造的に途中で席を立つのが難しいので3時間半は全く拷問であった(インターバルで帰れば良かったとつくづく思った)。