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2017-09-28

素面の人が誰もいない国でつるみたがる男たち〜NTライヴ『誰もいない国』

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 NTライヴイアン・マッケランパトリック・スチュワート主演『誰もいない国』を見てきた。ハロルド・ピンター70年代に発表した芝居の再演で、ショーン・マサイアス演出字幕喜志哲雄訳を使っており、ちょっと誤字があったがたしかに上演向けにこなれた訳だった。

 舞台ロンドンの北のほうにある大きな家の一室だ。弧のような形の壁と窓があり、奥にはミニバーもある。ここでパブで会ったらしいハースト(パトリック・スチュワート)とスプーナー(イアン・マッケラン)というおじいさん二人が飲んでいるとことからまり、どうやらハーストの家らしい。ところがこの二人の会話はあまり筋の通らないものだ。第一部終盤からハースとの家で働いているフォスター(ダミアン・モロニー)とブリグズ(オーウェンティール)も登場し、どんどんややこしいことになっていく。

 かなり難しい芝居で、しか陰鬱だ。しかも私はハロルド・ピンターの芝居は笑いどころがよくわからなくてあまり好きだと思ったことがないのだが、これはイギリスアイルランドによくある最初から最後までひたすら全員が酒を飲んでいる芝居で、私は一切酒が飲めなくてこの手の芝居がかなり苦手なので(飲んでいる時の思考の移り変わりとかがわからない)、あんまり面白いとは思えなかった。誰もいない国っていうか、素面の人が誰もいない国っていう感じの芝居だ。

 役者陣の演技は全員素晴らしく、大ベテランで既に長きにわたり一緒に仕事をしているおじいさん二人の息の合った演技は見所で、第二部序盤でくだらない意地の張り合いをするところはさすがに笑えた。またモロニーとティール(『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てる)も大変上手で、ブリグズが汚い言葉を使いまくるところも笑えた。この男四人の会話はとにかく居心地悪いもので、私はこんなことなら一人でいたほうがマシだと思ったのだが、なんだかこの男たちはどんなに不愉快であってもコミュニケーションを欲しているらしく(これは最後についているQ&Aセッションでも言ってた)、意地の張り合いや嫉妬が絡んだこづきあいであってもないよりマシだと思っているらしい。この芝居を見ていると、まるで酒飲んでSNSバカなことして炎上するが全然SNSをやめられない人たちを見ているみたいないたたまれない気分になる。しかも話す内容が非常にいわゆる「男性性」を誇示するような内容で、おじいちゃん二人はかなりお年でしかもどうも精神病気にかかっているようなのに(とくにハーストはアルコール依存症らしい)、昔イイ女とどうしたみたいなしょうもないことでケンカするし、フォスターブリグズはゲイみたいなのだがそれでもフォスターは女に関する自慢ばかりしている。とにかく悲惨な男の世界についての物語だ。

 ふつうNTライヴ休み時間の後に解説フッテージみたいなのがついているのだが、この『誰もいない国』は最後に観客とのQ&Aセッションがついており、ここは役立つ情報がたくさん含まれている上、面白かった。イアン・マッケランが、芝居が終わったばかりでハイテンションなのかあまりにもノリノリでしゃべりまくっているところもちょっと可笑しかった。

charischaris 2017/09/28 16:50 この劇、何が現実なのかが、観客だけでなく当人たちにとっても、どんどん分からなくなってゆくのが面白いのかな、と思いました。「虚実皮膜の間」というのは劇だけでなく、現実もそうなのだ、という感じでしょうか。ただ、状況のコンテクストがよくわからないので、劇を楽しめるとまでにはいきませんでした。

saebousaebou 2017/09/28 16:59 コンテクストが提供されていなくて、いろいろ想像で埋めさせるのが主眼のひとつなのだろうなと思いました。かなり難しい作品だと思います。

2014-09-27

個人的な好みで話が苦手〜ハロルド・ピンター『背信』

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 東京芸術劇場で葛河思潮社第四回公演『背信』を見てきた。ハロルド・ピンターの芝居を生で見るのは初めて。

 登場人物は四人だけ(うち一人は一場しか出てこない)。エマ(松雪泰子)はロバート(田中哲司)と結婚しているが、ロバート親友ジェリー(長塚圭史)と長年にわたり不倫を続けていた。不倫が終わってからしばらくして、エマロバートと別れる。これだけの話を時間を逆行させて描くというものである

 とにかくいろんなものがはぎ取られたシンプルな芝居で、台詞も最小限であるマグリットふうの青空が窓からのぞくセットは簡素で芝居の雰囲気によく似合っているし、役者の演技も良い。のだが、私は全然面白くなかった。これは公演の質じゃなく純粋に私の好みによるものだろうと思う。なんといっても私は金に困ってないミドルクラス夫婦の愛憎なんたらとかに全く興味がないし(『人形の家』みたいに金とか自由とか絡んでくるとまた別)、スケール感のないシンプルな芝居もあまり好きじゃないし、さらに真面目で笑いのない芝居がかなり嫌いなほである。この芝居はひたすら中年男女の泥沼なんたらを真面目に描いており、笑える場面は四人目の登場人物であるウェイターが出てくるところだけなので、なんかもうこんなスケールの小さい真面目な芝居結構ですわっていう気になってしまった。不倫を逆順で描くっていうのも、70年代に発表された時は新しかったんだろうが。第二場は第一場より時系列的に後だったり、厳密に言うと完全な逆順ではないので、『(500)日のサマー』とか見てるとそんなに斬新さがわからないっていうのもあった。まあ、こういうのが面白いという人がいるのはわかるが、私向きのお茶ではない。30過ぎて初めて見た芝居でこの内容でダメ