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2017-10-16

しがらみから演じる楽しさへ〜『奈落のシャイロック』

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 名取事務所公演『奈落のシャイロック』を下北沢小劇場B1で見てきた。堤春恵作、小笠原演出で、1907年明治座で初めて歌舞伎役者により『ヴェニスの商人』が演じられた時のことを大幅に脚色した作品である史実にはもとづいていないところも多いのだが(小山内薫が褒めたりとかしているのだが、こんなに派手な暴動が起きたという記録はないはずで、『西の国のプレイボーイ騒動とかをちょっと重ねてるんじゃないかと思う)、非常に面白かった。

 明治座座頭である二代目市川左団次(千賀功嗣)が、ジャーナリスト作家の松居松葉(吉野悠我)とともに洋行から帰ってくるところから話が始まる。二人は演劇改革燃えており、左団次洋装シャイロックを演じ、女優も使って芝居茶屋を通さずチケットを売るシステムを用いて『ヴェニスの商人』を明治座で上演しようとする。しかし芝居茶屋の反発が大きく、息のかかった者たちの画策により初演で暴動が起こる。驚いた左団次ポーシャ役の市川旭梅(森尾舞)は奈落に隠れるが…

 新しい芝居をやりたいと思いつつ、先代への憧れや歌舞伎界のしがらみ、自分の実力不足などさまざまなトラブルに悩んで試行錯誤する役者たちの心情を丁寧な台詞で描いたもので、いろいろと問題をかかえてはいもの最後は芸の心、演じることの楽しさ、将来に向けて芸術を創ることの重要性を称えて終わる、後味の良い作品だった。歌舞伎界の性差別容赦なく描いているところなども良く、改革派ぶっている松居が実はひどく狭量な性差別主義者だったり、実力では申し分ないのに女であるというだけで師匠と同じ舞台に立たせてもらえなかった市川九女八(新井純)が渾身の演技でシャイロックを演じたりするところなど、演劇におけるジェンダー差別や異性配役の問題に鋭く切り込んでいる。偉大な先代の陰で芝居なんかやりたくないと悩んでいた左団次と、同じく偉大な役者だった九代目市川團十郎の娘で常に舞台に立ちたいと思っていたが歌舞伎界では女優になれず悩んでいた旭梅の対比も良い。そしてこういう演目ではそれぞれの役者がちゃんと明治座スターに見えるように立派な演技ができないといけないのだが、全員、非常にしっかりした演技をしていて関心した。

 上演の後、芸術家在外研修に関するシンポジウムがあった。最初のほうしか見られなかったのだが、ロシア劇場の話とか、けっこう面白いことが聞けた。

2017-09-01

まあまあの翻案〜『アントーニオとシャイロック』

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 同時進響劇『アントーニオとシャイロック』を見た。『ヴェニスの商人』の翻案で、アントーニオとシャイロックに焦点をあてて二人の葛藤を描くものだ。内容は相当に変更されている。

 設定はかなり変えられており、バッサーニオはアントーニオの後見人ではなく、父が違う弟になっており、さらに芝居で一番の悪役になっている。バッサーニオはアントーニオもポーシャも愛しておらず、シャイロックを甘言で釣って借金しようとし、アントーニオが裁判にかけられても助けようとしない。アントーニオはユダヤの金貸し排斥を訴えて選挙立候補しており、さらに暗い過去であるシャイロックのせいで夫が自殺し、恨みゆえに娘のジェシカを狙うイザベラというキャラクターも登場する。

 同時進響劇ということで、舞台を真ん中で区切って、アントーニオの話とシャイロックの話が両方同時に進行する。映画スプリットスクリーンに近いやり方の演出である。そんなに新しいというわけではないと思うが、たまに双方の登場人物が同じ台詞を言ったり、いろいろ工夫がなされており、そのあたりは面白いオリジナル音楽が全体を盛り上げている。

 

 翻案としてはけっこう面白いと思うのだが、たまに疑問もある。イザベラユダヤ教徒改宗して家庭教師になっているとかいうあたりはちょっと強引すぎる。さら最後ポーシャが夫バッサーニオの奸計を暴いて裁判の場に飛んでくるのだが、ここがあんまり機能しているように思えない。最後、アントーニオもシャイロック平等に不幸になるというオチ表現はけっこう良かった。

2017-03-01

武蔵高等学校英語劇フェスティバル

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 武蔵高等学校の英語劇フェスティバルにご招待頂いた。『白鯨』、『夏の夜の夢』、『ヴェニスの商人』を見てきた(もちろん短縮版)。高校演劇をまともに見たことがなかったので物珍しかったのだが、やっぱり指導は大変だろうなぁと思った。けっこう面白かったし子どもたちがシェイクスピアを頑張っているのは見ているだけで微笑ましく嬉しいものだが、やはり高校生くらいだとうまい生徒とそうでもない生徒の差が激しいと思った(とくに男子校だと女役は演技のうまい生徒を見つけるのが大変そうだ)。あと、発声の訓練が大事だ。大道具についてはかなり頑張っており、『白鯨』の船のセットなんかは良かったと思うのだが、『夏の夜の夢』は木が倒れていた。

2015-05-30

「死んでしまいたい」で終わる喜劇〜インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン『ヴェニスの商人』

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 明星大学シェイクスピアホールで、毎年恒例インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドンによる『ヴェニスの商人』を見てきた。インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドンはADG EuropeとTNT theatreがツアーするときに使っている名前だそうで、毎年日本に来ており、少人数でたくさんダブリングをやりながら上演する手法が特徴だ。学生を引率して行ったのだが、明星大学のシェイクスピアホールはRSCの劇場やロンドングローブ座みたいな作りのかなり本格的な劇場で、シェイクスピアを見る場所としては実にふさわしい環境だった。

 相変わらず最小限のセットと人数(たった6名)で『ヴェニスの商人』を回すというもので、やはりキャストの少なさにはちょっと無理がある。とくに女役が2人しかいなくてジェシカをほとんど出せないのが問題で、ポーシャとネリッサがジェシカに留守を預けて出て行く途中の場面がないため、最後ジェシカとロレンゾーがポーシャの屋敷にいるという設定がかなりわかりづらくなっている。ジェシカは小さな役だが、ユダヤ教徒からキリスト教徒に改宗し、他の文化を持つ男と結婚するという、この作品の文化闘争の台風の目となるような役どころであるので、ジェシカの存在感をあまり活用できないのは全体の構成から言ってキツい。また、アントニオの裁判の場面でグラシアーノが出ていないのもちょっと流れが悪いかもしれない。

 とはい演出にはかなり工夫がある。とくに気が利いていると思ったのはポーシャの屋敷の演出であるポーシャの屋敷には窓のあるついたてがあり、ポーシャが各地からの求婚者について批判をするところではその求婚者として俳優がついたての窓から顔をのぞかせ、特徴をデフォルメして演じてみせる。箱選びの場面では、選んだ箱の中からではなく、この窓からガイコツやら赤鼻の道化やらが顔をのぞかせるという演出になっており、視覚的にわかりやすいし笑える。ちなみに求婚者の箱選び場面は演出によって全然違うのでいつも楽しみなのだが、このプロダクションのモロッコは顔のほとんどをヒゲにしてブラックフェイスなどは回避している一方、アラゴンは牛を連れてきてポーシャを怯えさせる闘牛士で、むしろアラゴンのほうがスペインをバカにしてるんじゃないかという感じだった。なお、ポーシャが求婚者をバカにするあたりの演出が実際に求婚者のアホぶりを見せて批判をかぶせるというふうになっており、あととくにモロッコの顔色について悪口を言うところはカットされていたと思うので、このプロダクションのポーシャには他の演出でよくある鼻持ちならない感じがあまりなかった。

 一番工夫をしているのは最後の場面で、ここはテキストを変えてある。二組の恋人たちが舞台奥に退いていく一方、舞台の左にシャイロック、右にアントニオが出てきて、シャイロックは今まで自分が語ったユダヤ人の尊厳に関する台詞自分に投げつけられた罵言などを反芻するように語った後倒れてしまい、愛するバッサーニオがいなくなったアントニオは冒頭の「とにかく憂鬱だ」という台詞を言って幕切れとなる。シャイロックの演技は明らかに死を暗示しており、改宗を強要されたシャイロックが生き延びなかったことを示しているし、アントニオが憂鬱なのは、バッサーニオのためにシャイロックに殺されるという愛の成就もできず、不安定な商船投資に頼りつつ独身者として生きていかねばならないからだろう。アントニオやシャイロックの苦痛で終わる『ヴェニスの商人』はそんなに珍しいわけではないのだが、こういうはっきり台詞をつけた終わり方もいいと思った。

2013-09-12

蜷川オールメール『ヴェニスの商人』〜シャイロックが歌舞伎をする意味

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 彩の国さいたま芸術劇場シェイクスピア・シリーズ第28弾『ヴェニスの商人』を見てきた。オールメールシェイクスピアの第7弾で、シャイロック役は市川猿之助、アントニオ役が高橋克実、ポーシャ役は中村倫也。非常に面白い舞台だったと思う。

 セットはルネサンスのイタリアふうの建物を背景にしたもので、大道具や小道具の入れ替えなどは割合少なく、落ち着いた場面転換で役者の演技を見せるような演出になっている。着るものもルネサンスふうである。蜷川オールメールではセットも衣装もだいたいルネサンスふうだと思うのだが、これはオールメールということで(シェイクスピアの時代はオールメールだったから)「復古上演」を意識しているのだろうと思う。

 女形で定評のある市川猿之助なのでポーシャかと思ったらシャイロックということでちょっと若いかもと思ったのだが、舞台に出てきた姿は全然そういうことはなく、年の功で商いの知恵もたっぷり身に着けた商人らしい感じのシャイロックだった。面白いのは、他の役者はだいたい「ふつうのシェイクスピア」っぽい芝居をしているのに市川シャイロックだけは歌舞伎の所作を取り入れた演技をしているところで、最初ちょっと違和感があったのだが、娘ジェシカに駆け落ちされてショックを受けたシャイロックの騒ぎっぷりをヴェニスの男たちが身振り手振りで真似しながら馬鹿にする場面を見て、「そうか、シャイロックは身のこなしまで違う他者としてヴェニスでは差別されているということなんだな」と非常に納得した。そもそもシャイロックは旧約聖書なんかに通じていて「悪魔とて聖書を引用する」などとアントニオに悪態をつかれるくらいで、伝統に忠実で過去ユダヤ人の事績をよく学んでいる人である。そういうシャイロックだけがこの芝居では過去の伝統を象徴する歌舞伎を引用した芝居をしていて、それをヴェニス人たちが芝居がかっていると嘲る、というのは、この上演においては昔ながらの信仰に基づくユダヤの伝統文化と新興の貿易産業をバックに栄えるヴェニスの都市文化の対立をも暗示するものになっていると思う。後半の裁判の場面なんかはもともと芝居っけがある役柄として描かれているシャイロックと男のフリをしているポーシャがそれぞれのプレゼン能力を戦わせる非常に演劇的な場面なので、シャイロック歌舞伎の所作を用いた芝居が大変効果的に働いており、この場面自体にあるシャイロックポーシャの「演技対決」としての全面に押し出している。アントニオを脅すようにナイフを研ぐ自信に満ちたパフォーマンスからすべてを奪われて絶望に転落しつつ尊厳を持って退場していくシャイロックの芝居は大変ドラマティックだ。

 中村ポーシャは美しく、最初女性の姿で出てきた時は声が可愛らしいのもあいまってこれなら舞台の外でも女でパスするんじゃないかというくらい愛らしかったし、法学博士に変装した場面も生意気な若造ふうで面白いポーシャとネリッサが非常にエネルギッシュなので、とくにシャイロックがいない場面ではこの芝居はかなり女性の力と知性が支配している喜劇だという印象を受けた。ポーシャがとても感じのいい美女に見えるのはおそらく台詞の翻訳のせいもあると思う。というのも、原作『ヴェニスの商人』では黒人であるモロッコ大公が求婚に失敗して帰った後、ポーシャが'Let all of his complexion choose me so.'「モロッコ大公みたいな顔色の方は皆ああいうふうに選んでもらいましょ」という台詞を言う場面があり、モロッコ大公の前ではかわいこぶっていたポーシャがいきなり人種差別発言を吐くので現代の観客からすると「何この裏表のあるぶりっ子ムカつく」みたいになりかねない。ところがこの上演ではモロッコ大公がやや軽薄な感じで、ポーシャの台詞は「ああいう方は皆ああいうふうに選んでほしい」とかいうような感じで顔色への言及がなくなっている。これだとポーシャの台詞は人種じゃなくチャラ男が嫌いだ、というふうに解釈できるように思ったので、かなりポーシャの好感度がアップするように思った。

 他の役者も良かった。高橋アントニオは思ったよりも断然憂鬱そうでいかにもぶすっとして「オレが死ねばいいんだよぉおお」ばかり言ってるアントニオらしいし、最初岡田正のネリッサがポーシャよりかなり年上なのに少し驚いたのだが(年が近い友達みたいな感じを想像していたので)、グラシアーノとのコミカルなカップルぶりは笑えてよかった。

 少しネタバレになるのだが、美術・衣装もそうだし最後シャイロックが出てくる演出なんかはアル・パチーノの映画版『ヴェニスの商人』の影響がかなりあると思った。あと、モロッコ大公のおつきの人達の衣装のいかにもオリエンタリズムな感じはあまり好きじゃなかったかな…

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