エンドレス・サマー

前向きで切ないアイドルたちが大好きです。

鍵のかかった部屋感想(構成編)

わーい!いまさらすぎてなんですけども、鍵部屋のDVDがとうとう発売されました!
というわけで、「鍵のかかった部屋」の感想を書きたいと思います。
まめかんはこの作品が大好きなうえ、記憶に新しいため、感想がけっこう書けてしまいました。

長くなったので分けますね。
今回は構成編と称して、作り手の人たちがドラマの構造で、こんな工夫をしていたんじゃないか?みたいなことを勝手に語るエントリーにします(笑)
次回は物語編と称して、物語的な見どころと脚本や演出の工夫を勝手に語るエントリーを予定しています。

ネタバレ大丈夫な方は続きから!

鍵のかかった部屋 DVD-BOX

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■あらすじ(Amazonより)
大野演じる「榎本径」は、大手警備会社で日々ひたすらセキュリティ(特に鍵や錠前)の研究に没頭する
“防犯オタク"。ひょんなことから密室事件の真相解明 を依頼され、膨大な知識と鋭い洞察力で解明し、
完全犯罪と思われた事件の解決への糸口を見出していく。共演者は、戸田恵梨香、佐藤浩市。
年齢問わず幅広い層にも楽しめる密室パズルミステリー


■ドラマ全体の構成

■基本的な構成
基本的な構成としては、弁護士の青砥・芹沢のどちらかが密室事件の解決依頼を受け、防犯と鍵の専門家である榎本に協力を依頼。
冷静沈着で頭が切れる榎本と青砥・芹沢のドタバタコンビがともに密室トリックを解き明かしていく、一話完結のミステリードラマ。
主要キャストはこの3人のみ。そしてレギュラー陣も、刑事の鴻野と法律事務所勤務の秘書、水城の2人のみ。あとは、各話ごとに豪華だけども渋ーい実力派ゲストたちが登場し、話が進んでいきます。

■視聴者を離さない設計
一話ごとの割合として見ると、おおよそゲストを絡めた密室トリックの解決が約80%。チーム榎本の関係が深まっていく過程が10%。榎本と青砥の恋愛模様が約5%、榎本の正体のヒントが約5%という印象。
「鍵のかかった部屋」の連ドラ的な「来週見たい!」という気持ちにさせた部分は、後半の20%の部分に尽きる、というのがすごく見事なさじ加減。ここが多くても少なくても、ドラマの吸引力は薄まっていたと思います。

事件部分の80%の部分でも、榎本が中心の回以外に、青砥・芹沢が中心となってリードする回もあり、個々のキャラクターや思考が推理の過程や、言葉の掛け合いで見えやすいように工夫されていました。
例えば、芹沢は、事件導入の理由付けと合わせて、調子に乗って密室の解決を引き受けてしまう見栄っ張りで調子だけ良い、どこか憎めないキャラとして感じられるようになっていました。

一見、どこからでも話について行ける一話完結ミステリーという枠組みながらも、その裏ではチーム榎本の関係の変化榎本径の正体は何か?という2種類の連続しているドラマがあるわけです。この作り手側の絶妙なバランス感覚と視聴者を引き付ける魅力的な裏のドラマテーマを程よく小出しにしてきたこと。「鍵のかかった部屋」というドラマ構成を考えるうえで欠かせないポイントです。



■斬新な推理パート

■鍵オタクならではの推理パート
今回のドラマでとても斬新だと感じたのは推理パートの部分。
探偵役である榎本が「密室トリック以外に興味のない鍵オタク」という設定のため、特別な事情がない限り犯人解明に関心を持っていません。そのため、一般に想像される推理物のクライマックスの犯人の涙や探偵による説得、動機面の調査も事件解決に必要なければ榎本は一切やりません。

■事件解決の役割分担がチーム感に
そんな榎本の代わりに、トリック解明以外の探偵役情報提供者&根回しや裏付けといった、視聴者の不満解消&突っ込みどころを埋めるポジションを担当したのが青砥や芹沢です。
なので、榎本が華麗にトリックを解明したものの、容疑者を追い詰めていく最もスリリングなシーンを青砥と芹沢が担当し、主役は黙りこくる、すごく斬新な推理パートの分担になっているのです。
また、このように重要な部分を3人で分担していることで、下手すると狂言回しにしかならないサポート役の2人が上手く機能して「チーム感」が出ています。

■設定を最大限使う演出
とはいえ、容疑者たちも動機はほとんど語りません。お涙ちょうだいものの背景があったとしても、すごくあっさり終わっていきます。そこで「密室トリック解明」にフォーカスしているチーム榎本のスタンスが明確になり、「鍵のかかった部屋」独特のスタイリッシュでドライな世界観が生まれています。こういう描き方をできるのも、探偵役がセキュリティー会社と企業法務専門の弁護士で門外漢の民間人の設定があるからです。たぶん、これで刑事や探偵がチーム榎本に存在していたら、こんな動機をスルーするような推理パートにはできなかったと思うので、原作から引き継いだ設定の妙という感じですね。



■秀逸なドラマ化

■原作を読んだ人でも二度おいしいドラマ
もともと原作のシリーズが好きだったのですが、映画ならぎりぎり大丈夫でも、基本的に映像化には向いていない作品だと思いました。正直、これをドラマ、しかも月9に持ってくるのは無謀だろうと思っていました。何といっても、画面が地味なうえ、すべて密室もの。いくらなんでも挑戦しすぎ!と感じたのです。
多分、作り手の方もそう思われたんだと思います。月9ドラマ化するうえで、いろんな工夫をされていました。
また、原作を読み、トリックを知っている人でも楽しめる作りになっていたのも、素晴らしい工夫だったと思います。

■キャラクターの改変
まず、大きい変化では、オリジナルキャラの芹沢豪を投入しました。ベテランの佐藤浩一さん演じる芹沢が物語全体に緩急をつけていて、特に原作になかったコミカルな部分を一手に担っていて素晴らしい改変だったと思います。
他にも、青砥のキャラをキャリアウーマンから、新人のちょっとドジっこだけど一生懸命成長している女の子に変えたことで、かなりテンション的に華やかさと勢いが出ていました。
さらにすごくうまい改変が、主人公の榎本径。原作榎本はかなり手慣れた小悪党というテイストで、青砥を振り回していましたが、ドラマ版榎本は鍵にしか興味を持たず、対人関係全般が大の苦手なオタクでした。イヤホンで榎本の対人距離を表す演出とかも良かったですね。
このように、原作にない主要キャラの登場&性格を少し変えたことで、ドラマ版の新しい関係性やオチが待っているんじゃないか、と期待させる効果がありました。

■トリックの映像化
トリックだけ変えないでください、と言われていたらしい鍵部屋。
私が密室の映像化にあたって感嘆したのは、文章だとイメージしにくい密室トリックが映像になることで感覚的に理解できる、という点です。この作品は、トリックのアイデアをどんどん出していって実験・検証していく過程も面白いんですが、白タイツくんと呼ばれたCG人間が不可能なトリックの再現をしてくれることで、最後に出てきた解答にリアリティーが生まれるというか。最初にとんでもなく無茶なことを言われると、その次に言われたちょっと無茶なことをついつい受け入れてしまう感じです(笑)

当たり前なんですけど、密室のトリック部分を現実的に可能かも、と感じさせる映像になると、密室物ってこんなに面白いんだ!という意外な発見でした。
また、トリック部分の種明かしを上手に見せることにこだわったところが、ミステリードラマとしての良質さや、ちゃんと押さえてるなー!という信頼を感じさせた理由になっていたと思います。

■音や動きにこだわった画面
この作品は音も電子音系でスタイリッシュに、うまーく使っていました。密室物は画面が地味になりがちなので、音楽で上手く盛り上がりを作っていたような印象です。
大野さんの決め台詞と鍵を開けるしぐさも、動きで盛り上がりをわかりやすくする工夫ですね。
また同じシーンを撮るにしても、生真面目な表情で榎本さんが非常にきびきび動く等、普通にやったら地味なシーンを役者陣のやりすぎないけども妙に笑える動きでかなり持たせていました。
このあたりの、動きや音を使った演出はドラマだからできることでもありますし、すごくこだわりを感じました。

■視聴者への挑戦
もう一つ、視聴者を引き付けていた重要なの仕掛けは、事件解明のヒントの隠れたOP映像です。このドラマでは、冒頭でチーム榎本が主題やヒントを提示してくれるうえに、毎回OP映像が異なり、犬が出てくる回だったら犬のシルエット、と密室トリックを解くカギをネタバレしています。つまり、毎週「視聴者への挑戦」をドラマ内で行っていたわけです(他にもHPで次週予告の映像からトリックを見破る企画をやっていました)。

この作品のトリックは、原作者の貴志先生もおっしゃっていたように「ありえそうで現実的には実行できないトリック」が出てきています。そのために、普通に推理物としてやってしまったら、これもまた突っ込みどころ満載なんですよね。それが、このOPによって大分軽減されたというか、結論をネタバレしているフェアな姿勢に、いくらくだらないトリックや専門的なトリックが来ても、あまりいらいらしないような効果があった気がします(笑)

さらにこの映像によって、推理物に知識や馴染みがなくても、OP映像のヒントに気付ける目ざとさがあればトリックを見破られるようになりました。これが一時間画面を真剣に見る視聴者の多さにもつながったと思いますし、原作の持っているクイズ感みたいなものを感じられて、答え合わせをする楽しみがありました。そのあたりの作り手の仕掛けによって、密室というコアなジャンルに興味のない視聴者層にも楽しみ方がわかりやすい作品になっていた、と思います。

■キャスティングの妙
最終話を見て、大野智というアイドルのタレントイメージをうまく使った!とつくづく感動してしまいました。
実況等々も見ていたのですが、榎本径のキャラクター改変は「優等生ジャニーズで悪党らしい悪党の役はNGなんじゃないか」との解釈が多数。怪しい部分は多々見受けられたものの、なんだかんだ10話まで純なイメージは覆らなかったため、最後まで榎本さんはクロに見せかけたシロだ!と視聴者を思い込ませる効果がありました。

最終話までに榎本像をつかめたと思えば思うほど、裏切られるラストの衝撃が大きいため、キャラ設定の改変とこのキャスティングは絶妙だったと思います。映像化では、タレントイメージとキャラクターイメージをどこか重ねてしまう部分もあるので、そのあたりをうまく読んでキャスティングされていましたし、ゲストの方々も、決して派手ではないけども実力派で役にぴったりの方ばかりだったので、ここにもこだわりを感じました。


というわけで、このドラマ、本当に細部までスタッフの方の愛とこだわりを感じるんですよね。
小原Pが理系の方だからなのか、何から何まで計算され尽くされた!という感じの作りも素晴らしいと思います。
見る人の好みで本格ミステリーとしても、クイズとしても、榎本・青砥・芹沢の恋愛?友情?物語としても、榎本の本性を暴く物語としても面白いです。自分の軸足を色んな場所において見ることができますし、それがわがままな視聴者に受け入れられたのかもしれません。
バラバラに見ても良作、最終話まで見ると名作の印象に変わるのも面白いドラマでした。

中でも私が面白いと思ったのは、榎本の本性を暴く物語なので、次回はその日のツイートと共に、物語全体の感想を書いていきたいと思います。
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