第2回 博士ネットワーク・ミーティング@つくば
11月14日土曜日に、つくばの国際会議場で行われた「博士ネットワーク・ミーティング@つくば」に参加してきました。この会合は、院生やポスドク、企業人等科学や学術に関心のある人達の集まりで、テーマは「新時代、発信する科学者」でした。この時の「発信」は、学会内部での情報ではなく、その外側に向けた発信のことだそうです。
既に「発声練習」さんの方に報告記事が上がっているので、詳しくはそちらを読んでいただければと思います。
また、「ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) - ブログ版」でも、「2009-11-14(Sat): 第2回 博士ネットワーク・ミーティング@つくば「新時代、発信する科学者」に参加」という記事が上がっています。
最初に1時間ほど作家の円上塔さんとARGの岡本真さん、NPO法人サイエンス・コミュニケーション理事榎木英介さんのパネルディスカッションが行われました。基本的には司会の質問にパネリストが返答するというかたちで行われていましたが、途中からは会場の方からどんどん質問が出ていました。
このような形式だったので話もとりとめがなかったのですが、私が印象に残ったのは、円上さんも岡本さんも、研究者コミュニティーの外に情報発信することは研究者にとって必要不可欠なことだと考えていたことです。岡本さんは、かつてYahoo Japanに勤務していた時に産学協同プロジェクトに携わっていたそうですが、その時に相手側の研究者をインターネットで調べていたそうです。これは手軽だからというわけではなく、自分で情報発信をして、情報の受け手とコミュニケーションをした経験があるかどうかを計る、企業側と意見や考えのすりあわせをするコミュニケーション能力があるかを計るためだったそうです。岡本さんは、先日Twitterを中心に非常に盛り上がった、仕分けによる科学研究費等の削減をめぐる議論も、これまで研究者が情報発信を十分してこなかったつけであり、今更色々言っても遅いと冷ややかな目で見ていたそうです。
他方円上さんは、これからは情報発信できない人は滅びるとおっしゃっていました。その理由は余り述べられていませんでしたが、おそらくは情報発信をしないと研究が評価されず、研究助成などを受けられず、研究者として生き残ることができないということをおっしゃっていたのではないかと想像しました。
また、円上さんは、大学側は必ずしも情報発信をしていないわけではなく、リポジトリなどを作り研究成果を公開しようとしているが、ほとんど誰も知らないと述べていました。また、ネットで情報発信をするだけだと、届く人の範囲が非常に狭くなると指摘していました。日本人の多くはネットを熱心にやっているわけではなく、ネットをやる人も関心によって非常に細分化されており、ネットだけでは日本の大部分の人に情報を届けることができないのではと述べていました。
このような問題意識は岡本さんも持っていらっしゃるようで、ARGカフェにはネットを使わない一般の人も来るので、そういう場を作っていかなければならないと述べていました。
また岡本さんは、情報を発信するときに、自分がいかにその研究を好きか、いかに研究が楽しいかというポジティブな語り口を使った方が良いとおっしゃっていました。また、サイエンスコミュニケーターになりたがる奴には、コミュニケーション能力が低い人が多いと指摘していました。
その他にも色々な話題が出ていました。
その後椅子を円形にして、参加者33人が一人一人自己紹介をしていきました。人文社会科学系は、西洋史の私と経営学のid:fuku33こと三宅秀道先生の二人だけで、残りの参加者は皆理工学系の方でした。
その後テーマ毎のディスカッションが行われましたが、私はしばらく円上塔さんとお話をさせていただきました。その際に、ネットでリーチできる範囲は非常に狭いという話、また情報発信は学会内では評価の対象にならないので、研究者個人にとっては単なる時間と労力といったコストを浪費することになるが、どうするか?個人が手弁当で情報発信をすることの限界というような話をさせていただきました。
また岡本真さんからは、日本史のデータベースは利用者に制限をかけているクローズドなものが多く、何故公開しようとしないのか分からないという話や、史学会などは運営資金の多くの部分を一般の人が払う会費によって賄っているのに、学会会員を増やすために「歴女」ブームなどを利用しないのは何故だという話を聞かせていただきました。
この時、id:next49さんに、歴史学をテーマにしてディスカッションをしないかと言っていただいたので、ホワイトボードの前に立ち、ディスカッションをさせていただきました。このディスカッションの内容は、id:next49さんが既にブログで書いてくれました。
このディスカッションでは、小説家、漫画家などのコンテンツに関わる人達に、面白い歴史的事件をネタとして提供することで、歴史学の成果を多くの人々に知ってもらうと同時にお金に変えることができるのではないかという提案が出ました。この時の参加者の反応も良かったですし、このエントリーにつけられたはてなブックマークでもアイデアは良いという発言があったので、コンテンツ産業への売り込みは、案外可能性がないわけでもないのかもしれません。
議論が大いに盛り上がり、名残惜しくもミーティングがお開きになった後、飲み会が開かれました。二次会が終わったのは午前2時過ぎで、飲み屋を出てもさらにしばらく立ち話をするというくらい話が盛り上がった飲み会でした。
個人的には、日頃できない類の話を色々することができて、非常に刺激的な会となりました。やはり積極的に外に出ていかないと得られないものはあると思った一日でした。