ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

宗教改革を研究したい場合先ず何を読めば良いのか?

月一回歴史学の専門家が歴史について楽しく語るUSTREAM番組「せんだい歴史学カフェ」で、「ナツイチ!この夏歴史学に乗り出すためのビブリオバトル」という企画をやっていました。これは、歴史学をこれから本格的に学ぼうとする学生に、色々な本をおすすめしようという企画です。
http://sendaihiscafe.tumblr.com/post/91446482319/ustream-34

この企画に便乗して、私も、宗教改革に関心がある人が、手始めにどんな文献を読めば良いのか紹介しようと思います。


R. W. スクリブナー、C. スコット・ディクソン著、森田安一訳『ドイツ宗教改革(ヨーロッパ史入門)』岩波書店、2009年

私が一番お勧めするのは、スクリブナー、ディクソンの『ドイツ宗教改革』です。この本は、100頁ちょっとと非常に短いのに、宗教改革の重要研究やテーマが網羅的に紹介されている中身の濃い本です。著者のスクリブナーは、英語圏を代表する宗教改革研究者で、特に民衆文化に焦点を当てた研究を行ってきた人です。そのような彼の見方は、この本の中にも色濃く表れています。

この本は、「宗教改革=ルター」というような見方を批判することから始まっています。宗教改革というとルターやカルヴァンを真っ先に思い浮かべる人は現在でも多いと思いますが、ルターやカルヴァンのような一部の重要な改革者を研究するのが宗教改革研究だという時代は、ずいぶん昔に終わっています。この本を読めば、宗教改革がいかに多様な側面を持つ、あらゆる人々が参加した巨大な運動だったかを実感できると思います。

私が何故この本を一番お勧めするかというと、この本が、近年の宗教改革の研究動向を網羅的に知ることができる唯一の日本語の本だからです。この本は概説書なので、非常に様々なテーマが扱われています。そのため、学部生は先ずこの本を読んで、面白そうなテーマを探すと良いと思います。

この本には、巻末に丁寧な文献ガイドがついているので、関心を持ったテーマがあれば、そのテーマを扱った文献をすぐに見つけることができます。とはいえ、ほとんどのテーマに関しては、日本語では文献がありません。必然的に英語かドイツ語文献を読むことになります。しかし、学部1〜2年生の頃から英語やドイツ語の文献を読み始めれば、卒論を書く時までに大分外国語文献を読むことに慣れるでしょう。その意味で、この本は、本格的に外国語の研究を読み始めるための、最初の一歩として最適だと思います。

ちなみに、この本の巻末には、日本語の宗教改革関連文献リストもついているので、そちらも役立つと思います。


K. G. アッポルド著、徳善義和訳『宗教改革小史』教文館、2012年

『ドイツ宗教改革』は、テーマ毎に分かれて書かれているので、宗教改革に詳しくない人にとっては読みにくいかも知れません、宗教改革を通史的に知りたい場合には、アッポルドの『宗教改革小史』がお勧めです。原著が出たのも2011年とかなり新しいため、新しい研究動向を踏まえた通史になっています。例えば近年の宗教改革研究では、ドイツ以外の宗教改革に対する関心が高まっていますが、この本でもスカンジナヴィアやハンガリー宗教改革について触れてあります。


森田安一編『ヨーロッパ宗教改革の連携と断絶』教文館、2009年

日本の宗教改革研究の最前線を知るには、この論文集を読むのが一番です。冒頭では、ルター派とスイス改革派の関係、宗教改革急進派、カルヴァン派ブリテン宗教改革、17〜18世紀の長期の宗教改革と、宗教改革を様々な視点から俯瞰できるような論文が並んでいます。さらに、地域やテーマも様々な論文がその後に続いており、宗教改革研究の多様性を実感することができるでしょう。これらの論文を読んで関心を持ったテーマがあれば、CiNiiでその著者の別の論文を探して読んでみて下さい。

以上、三つの文献を挙げましたが、文献探しの際には、なるべく新しい研究を読むことがとても大切だと思います。何故なら、新しい研究はどんどん出てきて、研究状況は絶えず変わり続けているからです。定評ある古典を読んで基礎固めをすることも必要ですが、同時に新しい研究動向を知らなければ研究することはできません。そのため、比較的新しく出た上記の本は、本格的に研究に踏み出すための絶好の道しるべになると思います。

ちなみに、日本では、余り宗教改革の新しい研究動向が紹介されていません。私が以前ちょろっとTwitterで紹介し、Togetter「近年のドイツ宗教改革研究の潮流」にまとめたことがありましたが、そのうちそれなりに詳しく紹介せねばならんとは思っています。しかし、いつになるやら…。
http://togetter.com/li/65193


ちなみに、「せんだい歴史学カフェ」の公式サイトで、この間のビブリオバトルで紹介された文献リストが見られるので、古代史や中世史、近代ドイツ史に関心がある人には参考になるかと思います。私もこの放送で紹介された、A. アマン著 東丸恭子,印出忠夫訳『アウグスティヌス時代の日常生活』(上下)(リトン, 2001- 2002) を読もうと思っています。
http://sendaihiscafe.tumblr.com/post/92826512989/ustream-34