Hatena::ブログ(Diary)

ななめのための。

2017-05-04

2016年度殺し文句大賞授賞式

「ほんとうの言葉は、いったん空になった船を見つけて、もう一度借りたときに生まれるのだ。」と『その姿の消し方』でつづったのは堀江敏幸であるのだけれど、自分はそのようなことばとの関わりを結べていないどころか、須賀敦子のように一トンもの塩をなめていくような読書体験もできていない。とはいえ船から積み荷をおろすように、あるいはとりこぼすように摂取してきたものをアワードしたい欲望も浅はかながら持ち合わせているのでこういう試みをはじめたいと思います。

 大賞と銘打ってはいますが、物事に優劣をつけるのが目的ではなく、2016年4月1日から2017年3月31日(多分に誤差をふくむ)のあいだに発表、発行、復刊、文庫落ちなどされたもののなかからN∀VERまとめよろしく独断と偏見にもとづいて(キャラ・シチュエーション等を含めたことばの最大瞬間攻撃力が自分のなかでの一定水準に達したとき、たとえば読んでいて自然と変な声が出そうになる瞬間に)受賞されるものとお考えください。
 また、ネットに広く膾炙してしまったことばや、必要とされる以上のあらすじなどには触れないでいきたいと思います。われわれはかしこいので。
 画像はイメージキャラクターの芦田有莉さん(CV:古賀葵さん)です。

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■タイトル部門

 配偶者の陰茎について言及するタイトルの50倍くらい切実だと思いませんか。

Happy★Pretty★Clover

Happy★Pretty★Clover

 アニメきんいろモザイク』劇場版主題歌。物語冒頭の流れで、ああ、これは偶然性についてのお話なのだろうな、とやんわり思いながら観ていたら、まさしくそれを意味することばを冠する楽曲が流れ出した。人によってはいささか驚くかもしれないが、2016年に出版された九鬼周造に関する研究本*1とこの映画の内容は奇妙なほどに呼応している。九鬼によれば、偶然性とは「必然性の否定」であり、「無いことのできる存在である」という*2。つまりそれは、なかったかもしれない、ということを含意する。そしてこの問題意識は、当然ながら、形而上学と分かちがたく結びついている。『きんモザ』をつらぬいているテーマが髮すなわち神と有限者の実存をめぐる物語*3である以上、「人間は自己の運命を愛して運命と一体にならなければいけない」*4。お話のなかで少女たちが手をつなぐ描写が幾度となく繰り返されるのは、だから、偶然ではないのだ。

D
(地下?)アイドルの事情にはまったく明るくないのですが、シューゲイザー音楽をアイドルがやる、という情報をネットの片隅でキャッチしたので、時折Youtubeにアップされているライブ映像をみるようにしています。ポリシックスのバイザーを思わせるような姿、曲のサビでの唐突なヘッドバンギング。そしてそのグループ名は「・・・・・・・・・」。ナカグロ9つで、どう読んだらいいのかわからないのですが、OTOTOYのインタビューによれば「ドッツ」と発音されているようです。そのデビュー前の・・・・・・・・・初インタヴュー掲載 - OTOTOYを読んだのですけれど、最高にクールですね。匿名性の嵐によることばの応酬は、まるでアメリカ文学*5を読んでいるかのような味わいです。あと「のいずくみきょく」*6というパフォーマンス(?)もなんか、こう、エモいですね。


工業製品部門

低反発枕草子

低反発枕草子

「ハサミを使用すれば、よりあけやすくなります。」
(…)
「よりあけやすくなります。」の「より」がポイントだな。

 レトルトカレーのパウチの切り口に関する考察である。タイトルと同様に、この本は清少納言にならって「春は化け物」という章題からはじまるのだけれど、自分からしてみれば詩人という言葉使い師こそバケモノにみえる。ことばは降って湧いてくるようなものではないし*7、レトルト食品よろしくあたためれば食べられるかというとそうでもない。だいたいの場合は悪い方向にながれていくし、最悪、カップ焼きそばの湯切りを失敗したときのごとく、すべてが駄目になる。ゆえにそうした人々による、日々のあれこれに向けられたまなざしが可視化された文章に出会うたび、自分はいつも殺されてしまう。

【第2類医薬品】サンテFXネオ 12mL

【第2類医薬品】サンテFXネオ 12mL

FX2386

 念のためいわせていただくと、上記の平田先生の真似をするつもりなんてありませんです。ふだんから自分が愛用している目薬で、引用した文字列はそれにたまたま記載されていた製造番号なのだけれど、ちょっと待ってほしい。ものごころついたころからTVCMで目にしていたロングセラー商品であるにもかかわらず、製造番号がたったの4ケタで済んでいるということは、はたしてありえるのだろうか。日本の紙幣のように数字とアルファベットをあわせたものであればそうした問題は回避できるだろうけれど、この「FX」は常識的に考えて、商品名を判別するためのものだろう。であるならば、市場にはおびただしい数の完全同位体*8が流通していることになりやしないか。
 となるとこれはもはやSF、あるいは日常の謎である。もちろんこうした状況をまねいたのは自分の無知であるから、この4ケタの数字はただのロット番号にすぎないのかもしれない。けれども不運なことに買い置きを切らしてしまっているので、おなじ番号が複数存在することの確認がとれない。その代わりといってはなんだが、いま手元には、医薬部外品のメンターム薬用スティック*9が二本用意されている。こちらに記載されているのは、数字とアルファベットが入り混じったもので、やはりまったくおなじ文字列がみてとれた。だがしかし、こちらは6ケタであった。比較にならない。桁違いである。
 こういうとき知り合いに名探偵がいれば短編がひとつ仕上がるのにと思うが、現実は非情である。さてわれわれに与えられた選択肢としては、参天製薬株式会社の「お客様相談室」に電話をかける、というのがあるにはあるだろう。しかしこの手段はミステリ脳を備えた人間からすれば無粋きわまりないものであるし、なによりこちらの精神も大幅に削られてしまう。仮に意を決して架電したところで、応対してくださったオペレーターの方を意味不明な質問によっておおいに困惑させたあげく「申し訳ないのですが部外秘のためお答えできません」などといわれてしまったらと想像するだけで、感情は、いともたやすく死をむかえる。

休日に父クマと釣りへ。
釣果も上々、意気揚々と家路につく親子グマ。帰り道は急ぐ必要などありません。
振り返るくらいでも無い幸せな原体験はファズを初めて弾いたときの直感に似ています。
永遠かのように続くサステインはあの日の帰り道を思い出させます。

 在庫処分セールで買ったエフェクターペダルの取扱説明書にあった文面。いわゆるフレーバーテキスト、あるいはプロダクトデザインの一種だと思われるのだけれども、歪み(ひずみ)にノスタルジアという概念をプラスさせるという発想がたいへん素晴らしく、美しい。自分には伸びてゆく影とあかい夕日がみえました。いまはもうみることのできない、たった一度きりの、あの色が。

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 ONKYO社は近年になってヘッドホン・イヤホン業界に参入してきたブランド*10です。イヤホンは高音と重低音をブーストするようないわゆるドンシャリ路線*11ではなく、バランスの整った上品でありながらもきめ細やかなサウンドを特徴とし、ヴィジュアル的にもユニークなツイストケーブルを採用しています。ネットでは画像が拾えなかったのですが、外箱も白を基調とした洒落たデザインとなっていますので、ぜひ家電量販店などへ一度足を運ばれることをおすすめします。
 アニメ『響け!ユーフォニアム2』劇中では、高坂麗奈さん(CV:安済知佳さん)が同メーカーのものを使用しています*12。卓越した演奏技術一本でイキってた*13先輩どもを黙らせた過去をもつ彼女のセンスのよさとアンテナの高さがうかがえる屈指の演出といえるでしょう。ことばを介さなくても、少女はその立ち居振る舞いだけで人を殺せるのです。


アルフレッド・ベスター部門(タイポグラフィ部門)

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 アニメーションになった『夜は短し歩けよ乙女』を観ても、とくべつ星野源に対して感情はわいてこなかったのだけれど、新海誠が自作のなかで花澤香菜村上春樹を引用させたこと*14については、やはり筆舌にしがたい思いがある。それでも彼のおこなってみせる登場人物どうしのユニゾンという演出をみると(たとえそれが大いなる欺瞞をふくんでいたとしても)、心の枯れ井戸から、不思議と涙があふれでてしまう。
 だって、私は/俺は、ゼロ年代が、セカイ系*15が、好きだから。

挑戦者たち

挑戦者たち

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 挑戦状がひとつ書かれるたび、尊い命が失われています。あなたがQRコードを読み込んだまさにその瞬間、死が目の前に立ちあらわれるのです。

遠い唇

遠い唇

しりとりや
駅に


かな

 空白部分にとある和菓子を置くことで、俳句が完成するという話。たとえば竹本健治作品のまとっている詩性*16はその情報量の多さと密度の濃さ、つまりは熱量に由来するものだけれども、北村薫の場合それとは別種のものであるということがささやかながら反駁できるはずだ。むろん、無駄をそぎ落とした、というふうな月並みな表現で終わってはならない。いや、難しいことばを弄するつもりはなくて、つめたいとか、乾いたとか、そういう立場だというわけでもない。ただただ、横断歩道の白線のみを踏んでいくような、児戯にも近い、気安さがある。
 と、そんな連想をしたところでふと思ったことがある。小説の文字列はたいてい、黒いインクが縦にならび、その行間を白が埋めている。北村薫は読者であるわたしたちの手を引いてくれるから、けっしてその途中で道に迷うといったことにはならない。けれども子供が自身のかよわさを無意識ながら把握しているように、白線から一歩でも足を踏み外したとき、唐突に死は訪れる。その紙一重のあやうさを、ページをめくるたびに、ことばたちはあっさりとほのめかしてくる。ミステリの世界ではそれをなんと呼んでいるのだったか。ああ、そうだ。それは、伏線というのだった。

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 ささやかながら最高にニクい演出です。まだこの時点では主要人物であるふたりの感情が正面からぶつかり合っていないことの証左にもなっているわけですが、この作品はそうしたちょっとした物や仕草に込める思いがいくつもあって、ほんとうによいと思います。


■シャウト部門(発声部門)

永い言い訳 [Blu-ray]

永い言い訳 [Blu-ray]

 本木雅弘による「恋のダイヤル6700」が聴けるのは『永い言い訳』だけ。ところでこれは私怨なのですが、遊びの時間は終らない [DVD]*17はいつ再販されるんですかね……。詳しく……説明してください。

神々の歩法

神々の歩法

 アニメーションをはじめ、海外映画やドラマの吹き替え、ナレーション、ときには楽曲の歌唱など、声優さんのプロフェッショナルともいうべき*18お仕事は多岐にわたっていますが、そのほとんどが放送倫理であったり、マスタリングであったり、所属事務所の意向であったり、様々な要因からわたしたち視聴者にとって不快にならないよう適切に調整された状態で送り届けられていることは、多くの人にご理解いただけることかと存じます。ですがもし、そのリミッターが解除されたとしたらいったいどうなるのでしょうか。その可能性の片鱗を、朗読版『神々の歩法』は教えてくれます。阿澄佳奈さんの、こちらが心配になってしまうほどに喉を酷使する熱演は、一聴の価値があります。

クリーピー 偽りの隣人[DVD]

クリーピー 偽りの隣人[DVD]

 ことばというものは、人と人とのあいだで交わされるコミュニケーションの手段としてもっとも利用されているもののひとつですが、それがゆっくりと地を這っていくように意味をなさなくなっていく過程は、恐怖としかいいようがありません。だからこそ、物語の終盤で竹内結子がしてみせる慟哭は、きっと解放のかたちなのだと思います。この映画は不快なものである、という否定的な意見を述べる人はたしかに一定数いるのでしょうが、それは、ただたんに作品のタイトルを読み上げただけにすぎないのではないでしょうか。


■声に出して読みたい部門

13月のゆうれい(2) (FEEL COMICS swing)

13月のゆうれい(2) (FEEL COMICS swing)

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 彼氏彼女の関係でのハードパンチ。相手の横っ面に叩きつけるために生まれた単語の組み合わせがまたいいですね。この巻は完結巻にあたるのですが、1巻目ではおさえられていた登場人物たちの感情がページをめくるたびに噴出してくるので読んでいて楽しいです。フィールコミックスは雑誌の色が作品に反映されやすいレーベルなのでは、と時おり手にふれるたび思っているのですが、女装キャラをはじめ、本作はあけすけな台詞をどの登場人物にも与えることでそうした視点の凝りかたまりやすさから脱却できているような印象があります。次作も楽しみにしています。

映像研には手を出すな! 1 (ビッグコミックス)

映像研には手を出すな! 1 (ビッグコミックス)

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 夜通しでの完成作業直後の発言。なにか創作を経験したことのある者にとって、これほど共感しやすい場面にはなかなかめぐりあえないでしょう。

ヒーロー!

ヒーロー!

「自分の作るもので他人の心を支配したいと思ってる人間に、正しさを放棄できるわけないじゃない。あなたは永遠にそれに縛られる。自分の正しさから逃げられない」

 これも創作者の業といえばそうなんですが、本書はもっと広い部分を取り扱っているように思います。これについては、後日あらためて文をしたためることができたらな、と思っています。

七緒のために (講談社文庫)

七緒のために (講談社文庫)

『私たちの関係について上に書いたけど、雪子ちゃんはきっとショックを受けそうだから捨てました』

 最初の一撃である。本書は、とにかく終始このように相手をさぐるような、あるいはほのめかすようなことばが続いていく。コミュニケーションは互いの距離感や信頼関係を構築するうえで必要なものだけれど、それが本質を欠いていた場合、あるいはコントロール不能なのものとして表出してしまった場合、正面からそれを受け止めきることができる人間はそう多くないと思う。七緒という少女と出会った雪子は、相手に翻弄され、もがきながらも、それを試そうとしたひとりだ。思春期という、もっとも自身が不安定な時期において、である。
 女の子どうしの複雑な関係性について、とりあえず漢字二文字の花の名前を出すことでその8割にあたる説明を放棄するのは、あるいはお茶を濁してしまうのは、たいへんよくないのでは、と最近とみに思うことが多い。ジャンルというか市場としてはいま現在、たしかに拡大もしくは復活の道を進んでいるのだろうし、その名を冠した展覧会*19が開かれるのも、わからないでもない*20。好きか嫌いかと訊ねられれば、自分も正直好きだと答えるだろう*21。2秒ほど迷ったあとで。
 もちろんそのためらいには理由があって、多くはやはり物事単純化することへの違和感がぬぐえないからだ。捨象したのちに残るのは、記号でしかない。血を流すような記号が存在しないように、血を流さない少女などいるはずがないということを、わたしたちは心のうちに留めておかなくてはならない。『七緒のために』は、ただひたすらに、ふたりの少女が血を流しつづける物語だ。


リアリティ部門

手のひらの京

手のひらの京

「梅川くんが車出してくれたおかげで、ほんま助かったわ! バーベキューの荷物も詰め込めたしな。レンタカーやったら、やっぱり色々気ィ遣ってややこしからな」
運転もありがとう! 帰りもすんませんけどヨロシク」

 マジックリアリズムという言葉がある。森見登美彦という作家がいる。京都という魔法の国がある。しかし、本書はそうした路線を選ぶことはない。上記の台詞は、社会人一年目の新卒がとってみせるコミュニケーションだ。コピーだとしても、あまりにも完璧であり、そして生々しさにあふれている。三姉妹の視線を通じて語られていく四季は、理想化とはほど遠い場所に、京都という街を導く。
 祇園祭のあの人込みのなかですら知人と出会ってしまう狭苦しさや、夜の鴨川の黒いうねりにあるうすら寒さ。貴船の飲食店にあるメッセージ帳に書かれたカップルの交尾体験談。一歩でもずれた場所に行くだけで、いとも簡単に暗い部分は顔をのぞかせてくる。思い出のなかで語られる「この土地の複雑さに私はついていけない」ということばは、その街の有り様を簡潔にいいあてている。なんでもない場所というのが存在しない街。けれどあの土地の排気ガスを吸って大人になったものに見えるのは、それでも、魔法をまとった京都なのかもしれない。たんなる郷土愛でも郷愁でもなく、ただそこにある見えない引力をなんと評すればいいのかわからないまま、彼女らと、小さな都は今日も歴史を刻んでいく。それをどう思うかについては、あなただけの自由だ。

ビリジアン (河出文庫)

ビリジアン (河出文庫)

「今日、十二月八日は」
 先生はそこで一呼吸置き、教室中の生徒の顔を見渡した。そして、しっかりとした声で言った。
「今日は、ジョン・レノンが殺された日なんです」

 以上は主人公が真珠湾攻撃を想定した直後の言葉だ*22。正直、五十嵐大介の完璧すぎるアートワークを目の前にして、これ以上なにを語ればよいのだろうか、と思わなくもないけれど、もうすこしだけ考えていこう。というのも解説に添えられた三浦雅士の文章が、この作品をわざわざ難解ならしめているためだ。作者紹介としては簡潔でよいと思うけれども、作品に対する補助線を引くにしては、いささかがたついているようにも思える*23
 本書の主人公、山田解の記憶は、あたかも音響機器がシャッフル再生をおこなっていくかのように*24、つづられていく。「火花1」と「火花2」と続く章を除けば、トラックごとに時間は隔たりを見せており、読者がそれらを読み進めるうちに、彼女の輪郭らしきものを把握していくことができる構造になっている。
 ただし、われわれがあくまで捉えることのできるのはその輪郭までだ。鮮明な記憶でありながらも唐突に、イマジナリフレンドなのかもどうかもつかないふしぎな人物たちと彼女は会話する。相手は「ピーター」であったり、「マドンナ」であったり、折々によって変わっていく。そこにある規則性らしきものもこちらには把握できない。それゆえに、かえって生々しさと冷えた視線を伴うのは、彼女が日常のなかで接触する人々の台詞や光景の数々だ。彼女の眼を通して語られていく世界は、その解像度の高さゆえに、どこまでも色彩に満ちている。それはあたかも、楽曲を聴き終えたあと、疲労感とともにわたしたちが取り出したCDアルバムの裏面にどこか似ている。そしていつかまた、その楽曲群は再生されることになるのだろう。今度は、読者であるあなた自身がおこなうトラックの選択によって。
 なにも一冊の本を読むにあたって「自然」やら「漱石」やらを持ち出す必要はない。もしあなたがこの表紙に一瞬でも引き寄せられたというのであれば、その記憶に耳を傾ける資格は、すで十二分に持ち合わせているのだから*25

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 フィクションと現実とのはざまを紙一枚の薄っぺらさで橋渡ししてくれるのはいつだって俗っぽさなのであって、そういう性質をまとったことばを引っ張ってくるセンスにおいて沙村広明に勝てる存命中の作家がいるのかと訊かれたら、いやいないでしょ、ふつうに、と手を左右にブンブン振り回しながら答えることがたぶんわれわれ読者に与えられた権利だと思っている。
 おそらく作中に「殊能将之」とか「ラブクラフト」とかを持ってきたことでワイワイしたいミステリファンやSFファンは大勢いるのだろうけれど、同居人(同性)に対して「稲村亜美かな?」という印象を脳内ノータイムで突きつけてしまうことのできる人物造形(というか背景無駄知識)の豊かさとわけのわからないほどに綿密なプロットの融合こそ沙村ワークスの持つ魅力なのであって、木を見て森を見てない輩がチェスタトンを引用*26してしまうような悲劇をこれ以上再生産させてしまう前にとりあえず気になった方はまず第一話を読んでください心からお願い申しあげます3巻までこの面白さが続きます以下はリンクになりますなにとぞ。波よ聞いてくれ / 沙村広明 - アフタヌーン公式サイト - モアイ

「あー、ヤバイ。無意識にドアの向こうをクリアリングしちゃってる」

 石川博品のどこが魅力かといえば、やはり鬱屈を抱え込んでいる少年少女たちと同一化してみせるかのような内面の描写、そしてそれと対をなすように描かれる情景の心地よさだ。けれどもそれは、たんに文体の一部分について語っているだけにすぎない。思春期といえば真面目に馬鹿をやることじゃないか、と石川作品のキャラクターたちは鷹揚に笑いながら語りかけてきてくれる。だから彼らは本気で馬鹿騒ぎをするし、それを読むわれわれをも許容してくれる。徹夜でFPSをやって中毒状態になった人間の世迷い言であるのにどこかまぶしく、それでいて優しいのは、現実にいるわれわれとペ―ジの向こう側にいる彼らとが、きっと地続きでつながっている証拠なのだ。


■キャラクター部門

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 巷でよく見るようになった「〇〇は犯罪」シリーズの最終形態と思われます。一部界隈でリバイバルヒットしていると思われる瞳孔への図形描き込みも、よくあるハートではなく髑髏なのがまた大変キュートです。連続殺人犯の彼女が使うのに、これ以上ない殺し文句ですね。

三田文学 2016年 11 月号 [雑誌]

三田文学 2016年 11 月号 [雑誌]

「すぐにお母さんとか呼べるんだね」

 「李の貴石」より。村松真理は、今世紀もっとも過小評価されている作家のひとりなのではないかと常々思っている。彼女の作品が雑誌ではなく書籍の形態で読むことができるのは文学2009 (文学選集)収録の「地下鉄の窓」だけ*27であるし、主に作品を発表している三田文学も、アマゾンではバックナンバーがほぼ中古のみの取り扱いとなっているため、文芸誌をしっかりと所蔵しているような大型の図書館まで足を運ばないと、その作品のほとんどを手に取ることができないのが現状だ。
 本作にかぎった話ではないけれど、村松作品のもつ面白さは、ことばを使う登場人物たち自身の生き生きとした部分を感じられることにあると思う。世間ではそれをキャラクター性といいかえることもできるだろうけれど、むろんそれは表層的な部分にとどまらない。ことばには、それを扱う人間ひとりひとりに当然ながらバックボーンが存在しているはずで、その人の生活の有り様やものの見方、彼らあるいは彼女らを構成する多くの要素が偶発的に衝突しあった結果、泡のように浮かんでは消える運動となって表出される側面がある。
 これはもうただの印象でしかないのだけれど、村松作品を読んでいると、この作者はそういったことに対してとても敏感な人間なのではないか、と思わされることが多い。だからこそ、そういう人の書くものが、なるべく多くのひとの目に触れる機会が増える2017年になってほしい、といちファンの自分は願っている。現実的には、講談社とか文春あたりが重い腰を上げてくれることを祈っています。

 わたしが好きなバカラックさん風のチェンバロ・フレーズだよっ!

 日向美ビタースイーツ♪は、むろん架空のバンドであるのだけれど、そのバンドスコアはじっさいのミュージシャンの楽曲をスコア化したさいにおこなわれる数々のアプローチをとっている。メンバーの使用楽器紹介、ディスコグラフィー、インタビュー、そして奏者(架空人物)による楽曲にちらばめられたフレーズへのコメント。さすがは天下のリットーミュージック様&コナミ様である。
 上記のことばは、アルバム『BITTER SWEET GIRLS!』の一曲目をかざる「恋とキングコング*28の冒頭部、キーボードを担当する山形まり花さん(CV:日高里菜さん)による解説だ。ゲーム音楽コンポーザー界の至宝、ササキトモコ氏ミーツ渋谷系ナンバー。楽曲のすみずみからもキャラクターの趣向を感じられる、素晴らしい出版企画が今後も続くことを祈っております。

 やっと会えたねー!

 ソーシャルゲームTokyo 7th シスターズ』において荒木レナ役を演じる藤田茜さんが、2ndライブのMCで放ったことばです*29。これにはもちろん文脈があります。1stライブ*30においては、まだ彼女を含むキャラクターたちはユニット*31を結成しておらず、もちろん歌う楽曲も持ち合わせていなかったため、ステージに立つという経験も当然ながらありませんでした。彼女たちの結成までの日々を描いたノベライズ*32でも、そうした後発組ゆえの焦りや葛藤、予感が物語というかたちをとりました。そしてそれらが凝縮され目の前に現れたその瞬間の「やっと」がことばになったのです。そのときわたしたちは、彼女たちを演じる声優さんたちを介してキャラクターを感じるし、演じる側の人々もまたキャラクターに影響を与えていく*33。そういう関係は、とても幸福なものに思えるのです。


アニメーション脚本部門

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「コード?」
和音のこと。ドーミーソー、レーファーラー」
ピアノだ」
「ギターだよ」

 第4話「怒っちゃった!」より。このアニメはとにかくキャラクターの会話が気持ちいいですね。そしてまた、その端々まで気を遣っているのが感じられるのもよいです。経験者の花園たえさん(CV:大塚紗英さん)が戸山香澄さん(CV:愛美さん)に対してギターのコードをじっさいに弾きながら教えているシーンですが、後者には音楽に触れてきた過去がおそらく義務教育程度しかないので、こうした反応をするんですね。会話ひとつで人物間における蓄積してきたものの違いがすっとわかるようにできている。
 こうしたことば遣いはほかにもあって、たとえば1話の自己紹介「戸山香澄15歳です」でクラスに笑いが起きるシーン*34や、11話の「うわっ、お姉ちゃん足音立ててよ」といったときの瞬発力がひじょうに高いです。で、あとになって調べてみるとだいたいそういったセリフが出てくる回は軒並み綾奈ゆにこ氏が脚本を担当しているので、さすがだなあと圧倒されるわけです。

アイカツスターズ! Blu-ray BOX3

アイカツスターズ! Blu-ray BOX3

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 第26話「奪えない夢」より。多感な時期を過ごす小中学生にとって、他者との差異というのはとても難しい問題だと思います。とりわけ学校空間という限られた環境では、それがその人の見る世界のすべてになりやすい以上、自己と向き合いつつ相対化をうながすといったことは簡単にできることではありません。
 けれども、療養のために休学を余儀なくされ、ハンディキャップとともに他者と違う時間を過ごすことになった白銀リリィさん(CV:上田麗奈さん)は、個性とはなんなのか、と主人公の虹野ゆめさん(CV:富田美憂さん)に問いを投げかけ、諭します。自分に向けられた心ない言葉を反芻してみせることも厭わずに。上田さんの繊細ながらもつよい意志を感じられる演技も相まって、たいへん素晴らしい場面だったと思います。
 アイカツ!シリーズはじっさいに徹底したユーザー調査をおこなったうえで、ネガティブなものをなくしていくというアプローチを取っているコンテンツ*35なのですが、子供に悪感情を植えつけないよう回避すべきところは避けつつ、しかし見つめるべきところは目をそらさないようにする、というイズムがそのアニメアイカツスターズ!』において通底している点が成長物語と結びつけられている点はもっと称賛されるべきところでしょう。
 ところで白銀リリィさんは近年まれにみる具体性をもった読書キャラクター*36なのですが、岩波小学館あたりが朝読書をする女の子向けに《白銀リリィの本棚》みたいな推薦図書企画をやっていただけないものでしょうか。あわよくば上田さんによる朗読CDとかですね、アイカツ!スタイル|AIKATSU! STYLE for Lady|プレミアムバンダイ|こどもから大人まで楽しめるバンダイ公式ショッピングサイトなら革製のブックカバーとか栞とかですね、商品展開してくれたらいいな、と思うのですが。ウィンウィンじゃないですかね。バンダイさんナムコさんテレ東さんその他の偉いひとおよび商品開発部のみなさん、どうか、なにとぞ。

■読書人部門

D
 デス博士はいいました。「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ」*37と。正直感心したところを述べるのであれば「全文引用という文学的ジョーク」*38になってしまうので控えるしかないのですが、この楽曲がテレビアニメのエンディング曲として使われ、物語が進んでいくたびにちがった側面をみせていったということ、そしてそれと歩みをともにする人の心にゆっくりと染みわたっていく効果をもったことは、「わたし」と「キミ」にとって、とても幸福なことであったのだと心から思います。
 デス博士はいいました。「きみだって同じなんだよ」と。

*1九鬼周造 理知と情熱のはざまに立つ〈ことば〉の哲学 (講談社選書メチエ)

*2偶然性の問題 (岩波文庫)より。

*3寓意ではあるがしかし「神がかっていた」という劇中の台詞からもそれはうかがうことができる。

*4九鬼周造随筆集 (岩波文庫)「偶然と運命」より。

*5柴田元幸とかそのあたりの翻訳家が好きそうなやつ。ミルハウザーとか。

*6https://www.youtube.com/watch?v=2jQ4VG82Gns

*7:個人の感想です。

*8学術用語ではない。

*9[近江兄弟社 1687885] (ケア商品)メンターム薬用スティック 5g

*10:正確にはパイオニア社と吸収合併したのちヘッドホン事業を統合した、といったほうが近い。

*11:海苔波形と同様、俗人に好まれる傾向がある。要出典。

*12404- ページが見つかりません。というコラボ企画があったことからの推察。ケーブルが白単色であるため、彼女が使用しているのは廉価モデルであるE300WかE200Wの可能性が高い。

*13俗語。おもに関西圏で使われる。粋がっている、調子に乗っている、の意。要出典。

*14劇場アニメーション 『言の葉の庭』 (サウンドトラックCD付) [Blu-ray]オーディオコメンタリーで監督本人が言及している。

*15:詳しくはセカイ系とは何か (星海社文庫)を参照せよ。

*16:いんりつ? とか、よくわからないので、そこはおのおのがあともすふぃあを感じとってください。

*17:都井邦彦による原作小説は謎の部屋―謎のギャラリー (ちくま文庫)で読むことができる。

*18:たとえばapollo twin USBを駆使する声優の小岩井ことりさんの本気すぎるDTM環境 : 藤本健の“DTMステーション”を読むと、その意識の高さがうかがえます。

*19no title

*20綾奈ゆにこ氏の懐の広さとVV各店舗の活動力にも由来しているのだろうが。

*21:筆者は百合ミステリィADVFLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇) 通常版のシリーズを毎年欠かさずプレイするくらいには信者である。

*22:この瞬間、大阪という土地で教育を受けるということに対して心の底から憎しみがわいてくる気もしないではないが、それはべつの話だろう。

*23:光景の鮮やかさを「ハイビジョン」といいつつ小説全体を「八ミリ映画のようなもの」と同時に語るのは、さすがに読者の混乱を招きかねないと思う。ハードカバー版の表紙に引きずられた可能性もあるとはいえ。

*24:作中の時間軸は1990年前後と思われるが、現在から語るのであればそういう比喩も許してもらいたい。

*25:それでも首を傾げたいのであれば、no titleを一読すればよい。

*26:「賢い人間は木の葉をどこに隠すか? 森だ」ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)「折れた剣の招牌」より。

*27:正確には別名義の作品夢想機械 トラウムキステ (T-LINE NOVELS)もある。ヤングアダルト向けのSF。

*28https://www.youtube.com/watch?v=6fUotpFEW8k

*29:キャラクターの台詞ではない。

*30H-A-J-I-M-A-L-I-V-E-!! (Blu-ray) / Tokyo 7th シスターズ

*31Le☆S☆Ca。リーダーの上杉・ウエバス・キョーコさん(CV:吉井彩実さん)、西園ホノカさん(CV:植田ひかるさん)、荒木レナさん(CV:藤田茜さん)からなる三人組ユニット。テーマは「十代の甘酸っぱい青春の日々」。

*32Tokyo 7th Sisters -episode.Le☆S☆Ca- 前編

*33:1stライブのさい、スケジュールの都合上出演することのできなかった山下まみさん演じる九条ウメさんは、のちにゲーム内の会話にてこのことをネタにからかわれる。

*34:年齢はいわずもがなであるのに、と周囲は笑うわけですが、このとき香澄の表情をみると、おそらくその理由の見当がついていません。そのあとさらに不思議ちゃん的な発言を重ね、その温度差が明確になる、という一連の流れ。

*35 女児の「嫌い」を徹底調査 「アイカツ!」成功の裏側をキーマンが語る (1/3) - ITmedia NEWS参照。

*36:いわゆる「読んでいる」設定だけでなく、じっさいにシェイクスピアやセルバンテスモンゴメリなど世界の古典名作や偉人の言葉を引用する癖をもっている。

*37デス博士の島その他の物語 (未来の文学)「デス博士の島その他の物語」より。

*38なぜ古典を読むのか (河出文庫)解説より。

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