日録

曇天ときどき晴れ。ひきつづき風強い一日。朝方、小雪も舞うこともあったりで、急に寒くなりました。オフィスの方は、19時ころに作業をひととおり〆て帰宅です。年度末ということで、いろいろ拘束される時間も増えそうだけど、段取り良く作業を進めて、早めに帰宅できる日々にしていきたいこのごろです。
<2月18日のこと>翌日は小平の有名なモダンガール淺井カヨさん宅を訪問してました。たまたま18日午後に、蓄音機鑑賞会&小平文化住宅見学会が同宅にて企画されていることを、ツイッターで知り、まだ1名空きがあったので、メールを送って訪問予約してしまいました。ナイスなタイミングで企画を立てていただけてありがたいです。
厳密にはこの家、淺井さん宅ではなくて、ご主人の音楽研究家郡さん宅なのですが、だとしても、現実、モガとしての実践生活の意気込みが満々にみなぎっている建物でございまして、まあ、半分以上は、淺井さんの意図に基づくものと考えても、不思議ではなさそうです。
一橋学園駅から歩いて10分ほど住宅街の中をあるいていると、明らかに雰囲気が異なる構えの住宅が見えてきました。

予定の待ち合わせ時刻まであと10分くらい。ここにきてにわかに緊張してきました。恐る恐る門についているボタンを押す。「ブー!」とブザー音。まもなく玄関引き戸のネジ鍵をがちゃがちゃと回す音が聞こえてきました。その時引き戸がガラリとあいた。あ!カヨさんだ!桃色のワンピースと、釣り鐘型の帽子。テレビや動画で見たのとそっくり同じ風貌の方がでてきて、もう感動してしまいました。わたしのようなほとんど初めてな訪問客相手でも、すごい気さくに接してくれて、あっという間にリラックスしてきました。
はじめは「蓄音機鑑賞会」ということで、ご主人郡さんによるレコード鑑賞会でした。郡さん、スリーピースのスーツのうち、ジャケットを脱いでベストだけ羽織っているいでたちで、終始にこやか、すごいおしゃれな紳士様でした。
こじんまりとした洋室に通されて、郡さんの解説を挟みながら戦前のSPレコードに耳を傾けます。曲目はマーチ「双頭の鷲の旗の下に」、フルトヴェングラー指揮「アイネクライネナハトムジーク」、江戸家猫八「12か月」、「大東亜戦史22面」、奥田良三歌唱「命かけてただ一度」、藤山一郎青い山脈」といったところ。これらをビクトローラの蓄音機で流して、みんなで耳を傾けてました。やはり、蓄音機は、音が生々しいですね。出された紅茶をすすりながら、まったりと、いいムードで音楽を楽しみました。

蓄音機のつぎは、淺井さんによる文化住宅ご案内でした。まず、この住宅のコンセプトは「大正時代の和洋折衷の文化住宅を、現代の技術でどこまで再現できるか」というもの。とくに「災害への強さ」を得るには現代の技術で建てるのは当然だとしても、しかし、むかしの家の「風情」を出すためには、「利便性」はだいぶ犠牲になったようです。たしかに、玄関や窓の鍵はネジ鍵でしばらく回してないと開けられないし、部屋と部屋の間にはつまづきやすい段差があるし、風呂場はつるつるのタイル敷きで、濡れた足で歩くとすべって転倒する可能性もあります。そして和室は薄っ暗いです。いろいろ不便なところもあるようです。しかし、むかしの風情を出すためには、どうしてもこれでないと困る、ということで、工務店の職人さんを相当悩ませたみたいです。2日書けて自宅の紙模型をこしらえて、それを職人さんに見せて、建物のイメージを理解してもらったりしていたそうです。
だけど、そこまでこだわって建てただけあって、見るものすべてがその時代のムードたっぷりで、見てて驚きと感動の連発でした。玄関には昭和8年製の黒電話があって、もちろん現役で通話して使用されています。和室の火鉢は50年前のもので、実家に眠っていたものを磨きに磨いて、茶道具店から取り寄せた灰を入れて復活させたもの。洋室のストーブはアラジン。台所は、研ぎ出しの流し台で、コンロは鋳物で、マッチでいちいち点火するタイプ。冷蔵庫は電気を使わず、氷屋で買ってきた氷塊を上段に入れて使用するもので、なんと田島式冷蔵庫といって、いまも特注生産されている品とのこと。

そして2階に上がると、そこはモダンガール研究の蔵書が、床から天井にまで届くような巨大な本棚の中にぎっしりと詰まっていて、すごい壮観でした。
ちなみにこの2階には出窓がありますが、これは戦前の医師にして作家だった高田義一郎氏旧宅から材料をもらいうけて、ここで組み直して復活させたものだそうです。もとの家は取り壊されても、ここで装いを新たにしてふたたび時間が刻まれていくわわけです。
いつかこの2階で「バー”モガ”」をやりたい構想もあるそうなので、いつか機会があったらそのときに立ち寄ってみたいものだなと思ったりもしました。

それにしても、生の淺井さん、すべてがモダンガールで、そして、エンターテイナーでもありますね。いっしょに時間を共有していて、本当に楽しい方でした。またいつか何かのイベントでばったりとお会い出来るようだったら、ご挨拶したいものだと思います。というわけで、夕方17時ころには小平文化住宅を引き揚げて、ふたたび都内に戻りました。
19時ころには新宿の居酒屋で軽くお腹を満たして、それでもまだ勢いが残っていたので、ゴールデン街に立ち寄り、中上さんゆかりの居酒屋に立ち寄って、焼酎を飲んだりしていました。そういうことをしているうちにヤバイくらいに酔っ払ってきまして、だらだらと過ごしているうちに、いつのまにか上野の宿にもどって無事に就寝できていたようです。
結果として、なかなかディープな都内散策になりました。またうまい具合に偶然が重なってきたら、また都内にでかけてみたいと思います。というわけで、おやすみなさいませ。