ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Cormac McCarthy の “The Road”

 休日ながら「自宅残業」に明け暮れ、"The World Made Straight" の続きがさっぱり読めなかった。そこで例によって、今日は昔のレビュー。6月に翻訳が出た『ザ・ロード』である。
 追記:その後、本書は実際に映画化され、2009年に「ザ・ロード」との邦題で公開されました。

The Road (Movie Tie-in Edition 2008) (Vintage International)

The Road (Movie Tie-in Edition 2008) (Vintage International)

[☆☆☆★] 映画化が決まったコーマック・マッカーシーの最新話題作。おなじみの西部小説以外のジャンルにも手を染めはじめたマッカーシーだが、今回は破滅テーマのSFに挑戦。原因は詳述されないが核戦争後のような終末の世界が舞台で、生き残った父と息子が廃墟の街や焦土と化した野原を旅するロード・ノヴェルでもある。SFファンなら何を今さら、と言いたくなるような古典的設定だが、どの場面も破滅状況ならではの緊迫感に満ちていてかなり面白い。飢えや病気という困難に加え、映画『マッドマックス』を思わせる武装集団も登場、カニバリズムが横行するなど、こんな黙示録後の世界では無法の人間が何より怖い、というのも大いにうなずける。さらに印象深いのは、子を守ろうとする親の愛情と、多感で純情な少年が見知らぬ相手に示す思いやりで、これまた定石ながら、なかなか感動的な話だ。世界の終末における唯一の救いは人間の愛と善意である、というメッセージを感じとる読者もいるのではないか。たぶんそんな映画に仕上がることだろう。勝手な推測だが、マッカーシーは9.11テロ事件に触発されて本書を執筆したのかもしれない。J・G・バラードの諸作や『黙示録3174年』などと較べると食い足りない面もあるが、これはこれで充分楽しめる作品だと思う。『リーダーズ』にも載っていない単語も散見されるが、基本的には平易な英語なので一気に読めるだろう。

 …何だかベタボメしているようだが、これはアマゾンの投稿レビューだから(その後削除)、商品価値を落とさないように配慮して書いたもので、実際はまあ、そこそこ面白いといったところ。べつに大騒ぎするほどの作品ではない。
 読んだのはたしか去年の正月休みで、そのころはまだピューリッツァー賞の受賞も決まっておらず、版元のほうでも、翻訳を出すかどうか迷っているという話だった。文芸作品の翻訳は、メジャーな賞の受賞や映画化によって決まることが多いという一例である。