月村了衛『機龍警察 未亡旅団』

超すごい、超やばい、超面白い。みんな読め。
以上w


で終わらせるのはさすがにあれなので、続けるけど、気分的にはそういう感じ。
チェチェンの「黒い未亡人」が日本にやってきて、未成年による自爆テロを起こす話。
シリーズ二作目の『自爆条項』が北アイルランド問題、三作目の『暗黒市場』がロシア黒社会を扱ってきて、第四作目はチェチェン
さらにここに、少年兵問題も入ってくる(自分未読なのだが、どうも短編でも少年兵扱ってたっぽいことを伺わせる記述が本編中にあった。短篇集早くこい)。
というわけで、扱っている問題自体がハードコアでそれはそれですごいのだけど、それを月村了衛がどう料理したのか。その扱い方もすごい。
初読の時は、読んでいて震えた。
機龍警察のすごいところは、じゃあそういうハードコアな国際問題を扱っているからすごいのか、といえばそうじゃない。読者サービス満点のエンターテインメントと違和感なく混ぜ合わせているところ。
「黒い未亡人」自体は実在するけれど、この作中で出てくるテロリストたちは架空の登場人物で、具体的にいうと、〈砂の妻〉シーラ・ヴァヴィロワ、〈剣の妻〉ジナイーダ・ゼルナフスカヤ、〈風の妻〉ファティマ・クルバノワという3人が、「黒い未亡人」という組織を新たに作ったということになっている。
で、この3人がいかにして出会い、組織を作っていったのかというエピソードとかがあるのだけど、これが本当に、まさにフィクションというか、すげーベタな感じで展開されるのだけど、それをチェチェンの悲惨な状況を背景にして、うまく作れてしまうというのが、月村ヤバイと思う(同じこと、『暗黒市場』にも感じるのだけど)
それから、読者サービスという意味では、ここまでシリーズで積み重ねてきたことというのもがっつり反映されていて、ユーリが由起谷に声をかけるシーンとか、もうたまらんですよw
あと、バンシーの戦闘シーンのラストとか、あれやりすぎでしょ、やりすぎ! 超、映像が見たい!
こういう感想書くと、「ボンクラ」っぽい感じなんだけど、ボンクラだから面白いってだけじゃなくて
ボンクラとハードコアがすごく高い次元で融合してしまっている、なんて言えばいいのかよく分からないすごい作品


第一作目が、姿編、第二作目が、ライザ編、第三作目が、ユーリ編、だとするのであれば、
今回は、由起谷・城木編とでもいえばいいのでしょうか。
以下のあらすじには、ネタバレがあるので注意。


「黒い未亡人」が来日してきて、日本でのテロを企んでいるという未曾有の危機に対して、特捜部は公安部外事第三課との合同捜査を行うことになる。
この外三ってのは『自爆条項』でも出てきたところで、〈馬面〉こと曽我部課長ってのがまたすごい奴で、特捜の沖津部長と曽我部課長との会話のやりとりとかがまた面白かったりするんだけど。
「黒い未亡人」には、カティアという未成年メンバーがいるのだけれど、物語冒頭で偶然、由起谷主任が出くわしている。
物語中盤、カティアは捕まって、由起谷が取り調べを任される。ここで由起谷は、カティアの心を開くために自らの過去を語るっていうのが、中盤の見せ場。
カティアら「黒い未亡人」は、未成年の自爆テロに突き進まざるをえなかった。しかし、そんなテロリストに対してどう向き合うのか。そして、どうやってそのテロを止める糸口を掴むのか。これが一つの読みどころ。
で、物語が半分を過ぎたあたり、もう一つの大問題が発生する。
城木の兄であり、与党の副幹事長である亮太郎が、かつて「黒い未亡人」の〈砂の妻〉シーラと関係を持っていたということが、カティアの証言によって明らかになる。
城木はそのことを確かめる過程で、兄が、これまで特捜部の妨害を続けてきた〈敵〉の1人であるのだと確信する。
最後、カティアの証言で、テロの結構場所が新潟のエネルギープラントだということがわかり、舞台は新潟に移る。
カティアは、未成年メンバーの自爆テロを防ぐために、「黒い未亡人」の元へと戻る。
一方、城木の兄、亮太郎が行方をくらまして、単身新潟へと向かう。
特捜部は、自爆仕様の機甲兵装〈エインセル〉に乗り込んだ未成年と戦って、これをできる限り殺さずに確保しつつ、テロを食い止めるという難しい課題に取り組むことになる。この〈エインセル〉って機体がえげつないんだが、ロボットものとしては、そういうのがあったか、みたいになるアイデアものでもあって、やばい。
亮太郎とシーラとの関係は一体どのようなもので、今回の事件とどのように関わっているのか、ということも解決しなければならない。


結末についていうと、
本当に一番最悪の結末は防げたものの、テロそのものは決行されてしまうし、未成年メンバーについてもその全員を守ることはできずに終わる。
由起谷とカティアについていえば、とりあえず、一応のハッピーエンド的な終わりを見せるけれど、最後の手紙はなんかのフラグにしか見えないよね、みたいな感じだし
城木についていえば、兄が死亡してしまうために、いくつかの真相は闇の中で、〈敵〉らしき人からの接触もあったりして、結構まずい状況。
特捜部庶務にして、〈気配りの双璧〉の片方をなす桂絢子さん、どうにかしてくれ。



今回は、3機どれもDRAG-ONするし、龍機兵を下りての戦闘もある。


沖津→まあ、いつも通りかな
城木→上述したとおり
宮近→いつも通りといえばいつも通りだけど、ゆるやかな変化もあるような気がする
姿→少年兵がらみでちょっとあって、ちょっといつもととは違う。コーヒー絡みで気になるシーンがいくつか(曽我部に汁粉渡したり、自販機の前で迷ってたり)
ユーリ→由起谷が行う取り調べで通訳になる。今回も、バーゲストがじたばたするシーンありw
ライザ→ユーリもライザもそれぞれ『自爆条項』『暗黒市場』のあとで、それぞれ今までと違う覚悟を決めたというか、今回はライザの内面が直接描かれるシーンはないけれど、色々と過去のライザとの変化は分かる。カティアとの会話シーンもよい。格闘シーンもあり。
緑→まあ、この作品でもやっぱみどライザしてます
由起谷→上述したとおり
夏川→いつも通りかな
庶務担当の桂絢子女史、初登場。
あと、捜査班も結構名前が出てきている感じする。
それから、曽我部課長が、すげーいいポジションにいるなあと。敵でも味方でもないような感じ。
今回、和義幇は出番なし


作中に繰り返し出てくる言葉
「憎しみは人を赦し、愛は人を罰する」


母を巡る物語にもなっている。
カティアの母、由起谷の母、シーラ、亮太郎の亡き妻
うーん、本当に色んなものが詰まってるなあ