海野弘『魔女の世界史』

近現代の「魔女」文化を巡る本。具体的には、世紀末美術、新魔女運動(ネオペイガンなど)、ゴスの3つにスポットライトがあてられる。
帯やカラー口絵を見ると、まどマギきゃりーぱみゅぱみゅが取り上げられていて、現代のサブカルチャーについて論じている本のように見えなくもないが、そちらの方への言及は少ないので、そっち方面を期待している人はがっかりしないように。
しかし、新魔女運動のくだりなどはあまりこういう形ではまとめられていないのではないかと思うので、現代の魔女についての読み物としてとても面白い。


ちなみにLoading...がこの本を手に取ったきっかけ。
あ、そうそう、確かに「アンリ・ベルグソンの妹」という人への言及あったなあ
個人的には、世紀末美術や文化について書いているっぽかったのとか、新魔女運動とフェミニズムニューエイジといったことが書かれていることに興味があった。
子どもの頃に、『たくさんのふしぎ 魔女に会った』というのを読んで、魔女が現代にもいるというのは何となく知ってはいたのだけれど、それがどういう文脈の中にいるのかという話は知らなかったので気になったり。
あと、この本はフェミニズムニューエイジについては主題的に扱っているわけではないけれど、自分がそのあたり知らなさすぎるので、そのあたりも多少勉強になった。


魔女というと魔女狩りの魔女が思い浮かぶが、筆者は魔女狩りが終わった後にこそ、魔女の時代が来たと考える。
魔女狩りの時代の魔女は、否定的なものとしてしか描かれないが、それ以降は、魅力的なものとして描かれるようになる、と。
第一章では、世紀末美術に描かれた、異端的だが魅力的な女性たち
第二章では、1970年代、ネオペイガンからのウィッカを中心に、それとニューエイジフェミニズムとの関係を見ていく。
第三章は、80年代以降の「ゴス」の潮流について。
第四章は、ここまでの参考文献、ここまで扱えきれなかった「魔女」的なもの、現代のサブカルチャー、ポピュラーカルチャー、オタクカルチャーなどに触れられている。


これって「世界史」っていうほど、範囲は広くないよなあと思ったのだが、ググってみたら、筆者は「〜の世界史」という著作がたくさんある方だった。
ところで、筆者のサイトを見てみると

 『魔女の世界史』は、実は今書いている<陰謀論>から生まれた本である。その本体である、新しい陰謀論をこのところ書いている。
http://www.unnohiroshi.com/

とある。
これを読んでなるほどな、と思うのは、この本自体はあまりかっちりした本ではなくて、筆者がこれまでの仕事、あるいはこれからの仕事のために集めた資料を、「魔女」という視点から見てみたらどうなるかなというような雰囲気があるからだ。
なので、「へえこんなのもあるんだー」という感じで、気軽に読んでいくのが楽しい。
そういう意味でとても新書的な、読み物的な本ではないかなと思う。
今、他の仕事のために集めた資料と言ったが、そうではなくて、この「魔女」という企画のためにも資料を集めたようで、それが後半、ゴス以降の部分に現れている。
まどマギとかきゃりーぱみゅぱみゅとかが出てくるのも、この後半。
最後の第四章では、集めた項目を並べて、そこに数行コメントしていくだけになっていって、もはやそこに一貫した論述はなく、資料集めして終わってしまった感もあるのだが
1939年生まれの筆者が、アナ雪や艦これにまで触れながら、「あれも魔女、これも魔女」と言っているのを見るのは、それでそれで楽しいかなと思う。

第1章 世紀末――魔女の図像学の集成

19世紀は視覚化の時代
魔女研究の萌芽(ミシュレ『魔女』→その後、1920年代と70年代に魔女研究の波がきている)
18世紀後半から19世紀前半のゴシック・リヴァイバルは、建築としてはすぐに廃れるが、文学運動となる→女性作家と女性読者を生みだす。メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』、エミリー・ブロンテ嵐が丘』など
ゴシックとラファエル前派を支持したラスキン
世紀末に描かれた、数々の〈ファム・ファタル〉や〈ベル・ダーム・サン・メルシ(つれなき美女)〉、〈キマイラ〉といった女性像について→サロメリリス、メディアといった神話から、当時のダンサーであるロイ・フラーや女優サラ・ベルナールまで
アール・ヌーヴォー→子どもの文化の発見
描かれるだけでなく、自ら描く女性(前述のダンサーや女優、ラファエル前派のモデル兼画家


第2章 新しい魔女運動

1970年代の、フェミニズム、魔女研究、アートを辿る
前史として1920年代までのフェミニズム、1920年代までの魔女研究(マーガレット・マレ−)、1920年代までのアート(シュールレアリスムの女性画家たち→70年代のフェミニズムは、シュルレアリスムを男性中心主義だったと批判したが、筆者は女性画家たちの重要性を指摘する)
1970年代
ウーマン・リブと新魔女運動が同時に隆盛した時代
しかし、フェミニズムは政治的社会運動、新魔女は宗教的・精神的運動ということで、これまで互いに言及がなかった、らしい。
筆者はここに、スター・ホークとフェミニスト・アートという補助線を引く。
スター・ホークは、フェミニスト・セラピー・グループのリーダーであり、魔女グループの司祭でもあった。彼女は、フェミニストからも魔女からもあまり歓迎はされなかったらしいが、筆者はここにフェミニズムと魔女のあいだに繋がりがあったことを見る。
また、彼女が〈癒し〉を持ち込んでいたことに注目し、そこにニューエイジとのつながりも見ている。
新魔女運動について
アレイスター・クロウリーに多大な影響を受けたジェラルド・ガードナーが、現代に魔女を復活させた
ガードナーは魔女の魔術を理論化し、さらのガードナー派のヴァリアンテが、ガードナーの理論からクロウリー色を取り除き本を書く。バックランドが、アメリカへとガードナー魔術を伝える。
アメリカで、ガードナー魔術が広がるが、純正のガードナー派は実は少ない。しかし、ガードナーらが本を作ったことによって、誰もが魔女になれるようになり、ガードナー派のカヴン(魔女グループ)に所属しているわけではないのだけど、勝手に魔女になっていく人が多かった、と。
また、ハインライン異星の客』をベースにして新しく創られた宗教CAWや、ル・グウィン『闇の左手』、スタージョン『ヴィーナス・プラスX』といったSFから新魔女運動に刺激があったことにも触れられている。
その他のネオペイガンの流れや、ネオペイガンとニューエイジとの相違点など

第3章 ゴス――現代の魔女カルチャー

この章は基本的には、『ゴス――不死のサブカルチャー』という本を参考にしているっぽい
パンクから分化したゴス
グラム・ロックにおける異性装
ゴスの意匠を使った80〜90年代の映画
最後は、日本のゴスとしてのゴスロリ

第4章 新魔女100シーン

この章では、魔女研究の著作、アート、ファッション、文学、ゴス、ジャパニーズ・ゴス、サブカルチャー、映画、身体表現・パフォーマンス、アニメ・コミック、少女というカテゴリにわけて、様々な項目をだーっと並べて紹介していく。
ココ・シャネルは魔女、アガサ・クリスティは魔女、リーフェンシュタールは魔女、マドンナは魔女、綾波レイは魔女、『少女椿』のみどりは魔女、AKB48は小さな魔女、初音ミクはネットの魔女
と、まあ何でもかんでも魔女になっていって(何故か土偶とかも入っている)、後半はもはやギャグか何かか、みたいな感じになってはいるのだが
しかし、本当に多岐にわたって並べられているので圧巻
それに文献紹介はガチ、だと思う。
筆者のいう「魔女」という概念は決してカッチリしたものではないので、上にあげたように、何でも魔女じゃねーかってなるのだけど、その分、様々なジャンルにまたがっていて、上にあげたのは有名どころだけだが、こんな人、本、作品があるのかーっていうのも多々あって面白い。