真鍋真編『別冊日経サイエンス よみがえる恐竜』

過去の日経サイエンスに掲載された恐竜関係の記事をまとめたもの
恐竜(に限らないが)関係の情報は次々と新しくなっていくところがあるので、これも色々と知識をアップデートさせてくれる。
鳥との関係についての記事や、あるいは従来は、絶対に保存されないと考えられていた血液や色についての化石が発見された記事などが多い感じか。
再録された記事の中では、2005年の記事がもっとも古いものだが、他は2010年代のもので占められており、中には2017年6月号と直近の号からの再録も含まれている。

プロローグ 恐竜研究の最前線とその近未来を展望する  真鍋 真

第1章 恐竜の大型化と小型化
恐竜が大きくなれたわけ  J. R.ホーナー/K.パディアン/A.ド・リクレ
竜脚類 1億5000万年の栄華  K. A. カリー=ロジャーズ/M. D. デミック
王者の系譜 ティラノサウルスの実像  S. ブルサット
羽根と翼の進化  S. ブルサット


第2章 骨と歯化石を超えて
恐竜のセックス  J. R.ホーナー/K.パディアン/A.ド・リクレ
血の通った化石  M. H. シュバイツアー
ダチョウ恐竜集団死の謎  P. C. セレノ
見えた!恐竜の色  J. ヴィンサー


第3章 恐竜と絶滅
恐竜を滅ぼした小惑星衝突プラスアルファ  S. ブルサット
失われた大陸ララミディアの恐竜  S. D. サンプソン
恐竜世界にいた鳥  G. ダイク
ペンギンの数奇な歩み  R. E. フォーダイス/D. T. セプカ
史上最大の飛ぶ鳥 ペラゴルニス  D. T. セプカ/M. ハビブ
恐竜時代の哺乳類  S. ブルサット/Z.-X. ルオ
大絶滅を解剖する  H. リー

恐竜が大きくなれたわけ  J. R.ホーナー/K.パディアン/A.ド・リクレ

初出:2005年10月号
骨の成長線などを調べて、成長速度を調べる研究

竜脚類 1億5000万年の栄華  K. A. カリー=ロジャーズ/M. D. デミック

初出:2013年11月号
竜脚類に持っていたイメージががらりと変わった。
ジュラ紀の恐竜というイメージが強いけど、実際には白亜紀までずっと繫栄し続けていたらしい。
白亜紀に、ハドロサウルス類とか新しい植物食恐竜との争いに敗れたといわれていたけれど、実際には、竜脚類も多様性を増していたらしい。
ニジェールサウルスとかアルゼンチノサウルスとか、確かに白亜紀竜脚類である。
胃石は使っていなかったのではないかとか
あと、皮骨を持っていて、ミネラルを蓄えていたとか

王者の系譜 ティラノサウルスの実像  S. ブルサット

初出:2015年7月号
ティラノサウルスといえば、T・レックスが有名だが、それ以外のティラノサウルス類について
ティラノサウルス類について近年、発見が相次いでいる
初期のティラノサウルス類はジュラ紀からおり、かなり古いグループなのだが、そのころはまだ小型・中型で地味な肉食動物だった。
このティラノサウルス類が古いグループであることについてちょっと面白い記述があって
ティラノサウルス類の祖先とT・レックスの間の時間的隔たり(少なくとも1億年)は、T・レックスと人間の間の時間的隔たり(6600万年)より大きいのだ」
恐竜時代がいかに長いかということを感じさせる
ジュラ紀から白亜紀前期にかけてのティラノサウルス類で近年発見された種としては、中国で発見されたグアンロン、ユウティラヌスなど羽毛で覆われていた種が有名
白亜紀後期には、北米において、ティラノサウルス・レックス、アルバートサウルス、タルボサウルスなどの有名な大型肉食恐竜を輩出するティラノサウルス類だが、ジュラ紀の王者アロサウルス類からティラノサウルス類への変遷について、白亜紀中期の化石が少なく、何が起こったかはまだよくわかっていないらしい。
さて、白亜紀後期においても、ティラノサウルス類は大型種ばかりになっていたわけではなく、同時期にさほど大きくない種もいた。中国で発見されたキアンゾウサウルスや、北極で発見されたナヌークサウルスである

羽根と翼の進化  S. ブルサット

初出: 2017年6月号
鳥類は恐竜から進化していったわけだが、それぞれをわける境界線はどこにあるのか
この記事では、鳥の特徴が、進化のなかで一つずつ獲得されていったことが論じられている。
羽毛の進化についても、飛行のためではなく、保温のためやディスプレイのためといった理由で少しずつ獲得されていった。
そのため、どこかで突然鳥になった、ということはない。
恐竜から鳥への移行期の獣脚類の特徴を、多変量解析を用いて形態空間にプロットしたところ、両者を明確に分けることはできなかった、とも

恐竜のセックス  J. R.ホーナー/K.パディアン/A.ド・リクレ

初出:2013年9月号
あれやこれやの推測が色々書かれている
オスがメスの上にのって体重に耐えられたのかとか
っていうか、剣竜はどうしてたのかとか

血の通った化石  M. H. シュバイツアー

初出:2011年6月号
血液やタンパク質が、恐竜化石から発見されるようになっている
抗体の免疫反応を使って、血液かどうかを確かめている
また、タンパク質の配列解析も行っている

ダチョウ恐竜集団死の謎  P. C. セレノ

初出:2011年6月号
ゴビ砂漠での、シノオルニトミムスの群れの発見についての記事
実は、セレノより4年前に小林快次ら日中蒙の共同調査隊が調査し、シノオルニトミムスを発見していた場所での調査で、この記事の翻訳を小林がしているというものになっている

見えた!恐竜の色  J. ヴィンサー

初出:2017年6月号
化石の中からメラソノームが発見され、その形と並びから色が推測できるようになってきているという話

恐竜を滅ぼした小惑星衝突プラスアルファ  S. ブルサット

初出:2016年3月号
エディンバラ大学の古生物学者、ブルサットによる記事3本目
恐竜は、小惑星衝突により絶滅したわけだが、これに加えて、そもそも小惑星衝突のタイミングが悪かったのではないか、と
形態の多様性を数値化したところ、肉食恐竜や竜脚類、小型・中型の植物食恐竜(パキケファロサウルスなど)は小惑星衝突まで安定していたが、鳥盤類で大型の植物食恐竜(角竜類とカモノハシ竜類)については、多様性が減少していた。
さらに、食物連鎖をシミュレーションしたところ、大型の植物食恐竜が減少した際の食物連鎖網は、変化に対して脆弱になっていた。
ところで、筆者であるブルサットは、15歳のころ、家族とイタリア旅行をすることになった際、小惑星による絶滅説のきっかけとなったイリジウムの地層を見にいくことを主張し、アルバレスに直接電話して、その場所を聞き出したのだという。5年後、大学の実習でアルバレスに直接会うことができ、そのことを話したらアルバレスも覚えていたとか。
なかなかすごいエピソードだなあ

失われた大陸ララミディアの恐竜  S. D. サンプソン

初出:2012年6月号
白亜紀アメリカ大陸は、東側がアパラチア大陸、西側がララミディア大陸の二つに分裂していた。
アメリカ・ユタ州やカナダ・アルバータ州などで発見される恐竜は、このララミディア大陸に生息していた。
ところで、北部と南部とでは異なる種類の恐竜が生息していることがわかってきた。
ララミディア大陸は決して大きな大陸ではなく、また地理的に分断する要因もないので、時期の違いではないかともいわれていたが、筆者による発見によって、同時代に南北で異なる種が生息していたことが明らかになった。
アフリカなどと比べて、明らかに一つの大陸にいる種の数が多い
1トンを上回る大型恐竜種が、ララミディア大陸には17〜20種いたことになる
現在のアフリカでは、1トンを超す哺乳類は6種である。
さらに、ララミディア大陸は、アフリカ大陸の1/5の大きさでしかない。
これに対して、恐竜は哺乳類より小食であり、また、食べ物が豊富だったのではないかと考えられている

恐竜世界にいた鳥  G. ダイク

初出:2010年10月号
鳥類自体は、中生代にすでに登場していたが、現生鳥類を含む新鳥類は、恐竜絶滅後に登場したと考えられていた。
ところが、分子系統学においては、白亜紀にすでに分岐が起きていたと示された。
そして、2002年に記載されたテビオルニス、2005年に記載されたベガビスの発見により、新鳥類が白亜紀にすでにいたことが化石証拠でも示されることになった。
しかし、そうなると、白亜紀末の絶滅で、なぜ古いタイプの鳥類は絶滅し、新鳥類は絶滅しなかったのかという謎が残る。

ペンギンの数奇な歩み  R. E. フォーダイス/D. T. セプカ

初出:2013年3月号
時代としては、新生代の話
ペンギンは、実は約6000万年前に登場していたかなり古いグループ
南太平洋にあったジーランディア大陸(今のニュージーランドはその一部)で繁栄していた。
5000万年前から、ジーランディアから南半球全体へと広がる
それについては、上腕動脈網という熱交換装置の獲得があって、温暖な気候において水の中での体温調節をするのに役に立ったのだが、これがのちに、今のペンギンのように寒冷な土地での体温調節にも役に立つようになった。
このあたりのことは土屋健『古第三紀・新第三紀・第四紀の生物』 - logical cypher scapeにも書かれている。というか、実際にこの日経サイエンスの記事を参考にしたと本文にも書かれている。
ちなみに、土屋の本では、北半球に生息していたペンギンモドキについても紹介されている。
ところで、この記事の監修をしている安達は、この記事の筆者であるフォーダイスとともに、初期のペンギンであるワイマヌを発見している。ペンギンモドキの方も研究しているらしい。土屋本によれば、ペンギンモドキは北海道でも発見されている。

史上最大の飛ぶ鳥 ペラゴルニス  D. T. セプカ/M. ハビブ

初出:2016年8月号
こちらも、時代としては新生代の話
くちばしに偽歯があり、翼長が6〜7m、体重はゴールデン・レトリバー並みという巨大な鳥、ペラゴルニス
現生のアホウドリは9時間ぶっ続けで平均時速127kmで移動した例が記録されている。
ペラゴルニスは、1回で何千キロも巡行できたのではないか、と
また飛行速度は時速40kmと試算されている
約5600万年前に登場し、約300万年前頃に姿を消した

恐竜時代の哺乳類  S. ブルサット/Z.-X. ルオ

初出:2016年11月号
バックランドが、メガロサウルスを発表した際に、同時に哺乳類も発見していたことを発表していたというところから始まる記事
中生代において、実は哺乳類も多様な進化を遂げていたという話
歯の進化とか

大絶滅を解剖する  H. リー

初出:2016年3月号