偽装をつくった背景は? その2

私は現在、地元の農産物直売所である「吉井物産センターふれあいの里」の理事を務めています。近年、景気の低迷や競争相手の出現により、この直売所も年々売り上げが減少していますが、現在でも関東で有数の売り上げを誇る店であり、農家の生産物、つまり野菜などの生鮮品を主力の商品として、年間6億円以上売り上げがあるのは、全国に数多くある農産物直売所の中でもトップクラスであると思います。

今日も年末の混雑に対応するため、役員が総出で売り場の手伝いを行いました。開店前から数多くのお客さんが列を作って並んでおり、店内にぎっしり並んでいた農産物などの商品も、午前中にほとんどが売れてしまう状況です。

さて、この年末商戦の中で、ふれあいの里で一番人気があるのは「下仁田ネギ」と「椎茸」です。お歳暮の需要から、良品を箱詰めしたものをお客さんは求めにきます。しかし、贈答用の良品には厳しい基準があります。大きさ・形・色など基準をクリアしたものでなければ、贈答用として箱詰めすることは許されません。この基準があってはじめて贈答用として信頼を得るわけであり、そこに付加価値があるのですから当然のことではあります。ですが、椎茸にしろ下仁田ネギにしろ、基準をクリアする良品は生産したものの一部であるということは、生産に携わってない方も少し考えれば想像に難くないでしょう。ですからこれら数が限定された人気商品は、結果としてすぐに売り切れてしまうことになります。

ところが年末商戦のごった返しかつ殺気だった売り場の中では、目的の商品が売り切れで買うことができなかったお客さんから、多くの苦情を頂くことになります。「遠くからわざわざ買いに来たのにもう品切れなのか」「せっかく来ても買いたいものがないじゃないか」・・・。

もちろんそういう状況は毎年繰り返され、いくつかの対策もとってはいます。しかし、この直売所は、「吉井町で採れた新鮮な野菜を直売する」と謳っており、それが安心安全のブランドをつくって売り上げを確保してきた経緯があります。それが強みでもあるのですが、それは同時に弱点にもなります。つまり、限定された一地域で生産されたもののみに商品を頼っていることで、気候変動などの影響をもろに受け、「不作の時はものがない」という状況が生まれてしまうということです。

スーパーなどでは、ある地域が不作でも、別の地域やさらには日本以外の国から野菜を調達できるわけですから、常に品揃えを確保することができます。現在日本では、食品に関する数々の偽装や、危険な輸入食品、食糧自給率の低下などに危機感を覚え、「地産地消」が声高に叫ばれています。しかし、今述べたような地産地消のリスクについて、どれだけの消費者が理解をしているでしょうか。「無い物ねだりをしない」という覚悟を持って、地産地消を求めているといえるでしょうか。

ここで、気候変動という要素を無視した上で、「年末に向けた増産体制はとれないのか」という点について考えてみたいと思います。分かりやすい作物として椎茸を例に考えてみます。椎茸は原木である楢や椎の木に菌を植えて栽培するのですが、椎茸が出てくるまで一年くらいかかります。また、ハウスで温度管理を行ったとしても、椎茸の旬は春と秋であり、その時期が生産と出荷のピークになります。年末に向けてたくさんの菌を植えたとしても、それ以外の時期に大量に生産した椎茸を捌くことができなければ、椎茸農家としては大赤字になってしまいます。つまり、ほんの一週間程度の年末のピークのためだけに、増産体制を敷くということは不可能なことなのです。

他の国の事情は知りませんが、日本の年末商戦の購買動向というのは異常なものがあります。かつて私の友人が大学生の時、年末の特設会場で海産物の販売のバイトをしたときに聞いた話ですが、試食用としてお客に味見をさせるものにはある程度まともなものを用意して、実際に箱に入っているものは全く別の劣悪品を売っていた、と聞きました。それを正月になってから食べてみて、試食品と味が違うと感じても、特設会場は既になく苦情のいいようもありません。ましてお歳暮で人に送ったとしたら味の確認もできないということです。
<つづく>