Your side

末期がんの患者さんを診療していますが、患者さんの奥様を20年以上前に担当したことを覚えていてくださったご家族からお手紙をいただきました。

患者さんを看取り、ご家族がその後をどう過ごされたかは知る由もありませんが、今回、20年以上の長い時間を経て丁寧なお手紙をいただき、あの時まだ若かったご家族を気遣っていた担当患者さんを、少ししゃがれた声や病棟や病室のベッドの位置の様子とともに思い出しました。

命の危機それは誰にでも訪れることです。病気にしても、手術にしても、抗がん剤の治療にしても、予測できない危険性はあります。そんな時、とり得る治療の選択肢や期待できる効果や危険性について説明した後、どんな言葉が続けられるでしょう。ご高齢であったり、合併症があったり、化学療法の開始の目安からは少し外れていることもあります。

重い病気に直面した時、誰もが藁をもすがる思いになります。患者さんやご家族の完治を期待するお気持ちも理解したうえで、患者さんにとって今何が一番大切かを一緒に考えることになります。恐らくそうした状況から始まる時間は、患者さんやご家族にとってかけがえのない時間となるはずです。

画一的な診療基準も参考にしつつ、その後、細やかに経過を見てゆくことも重要なことです。施設的、経済的な制約もありますが、患者さんの目線に立つということは、向かい合ったとき同じ高さにあるのではなく、プロフェッショナルとしての知識や技術を持ちながら、同時に患者さん側の気持ちを理解することではないかと考えています。分子標的薬の可能性は否定するつもりはありませんが、先進的ではあっても、しばしば限定的な高額な医療が、現実的で基本的な医療を圧排してはいないか、私たちは正しい選択をしているのか足元を常に確かめる必要があります。こんな以前から当たり前に行われてきた基本的な医療が継続できる環境を切に望みます。



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Fragile 大切な君へ

君はやさしい心の持ち主で、周りの気持ちを理解し、皆の期待に応えようとする。
今、君は気づき始めていると思うけれど、一番大切なことは自分である。これは自己中心なのではなく、自分の考えをもつことが、他人を理解し、家族や大切な人を守るためにも必要だからだ。
うわべだけの楽しさ、優しさや腕力の強さは一時のものでしかないし、そこからは薄っぺらな関係しか生まれない。
どの生き物にも与えられた、ただ一つの命は、非常に傷つきやすく、壊れやすいものだけれど、ときにしたたかで、強靭であったりもする。一生懸命な相手と対等に自分が向かい合うとき、たとえ意見の異なる相手だったとしても妙に理解できて、そこに人生の機微を感じることもある。
壊れやすさを知って、それを支えることのできる強さをもったとき、そして、また自分も支えられていることに気づいたとき、人は豊かな心になれると思う。目先の結果よりも、実は今はその過程にあって自分をつくっている時のように思える。

がんばれ、いつか笑って話せるときがきっと来る。(20140611)

医療費抑制

最近の新しい抗がん剤には一本100万円近くかかるものもあります。これらが月に1回、2回と使用され、さらに年余に及ぶこともあります。高額医療の対象となり、自己負担とともに、社会的にも医療費の増大をみることは明らかです。
一方で、こうした新しい薬の有効性はといえば、これまでの治療薬に比べて1か月生存期間を延ばすことが確認されたことが承認の根拠になっているものも少なくありません。平均的に1か月生存期間を延ばすことの意味はもちろん重要なことには違いがありません。きめ細やかな点滴や栄養の管理、看護や医学的管理によってもこの程度の生存期間の違いは生まれ得ます。無制限に医療資源を投入することは、かつては不適切と考えられてきましたが、現在では、より長い生命の継続や小さくとも医学的な根拠を金科玉条のようにとりあげられ、逆に人の命や医療の輪郭がわかりにくくなっているように思えてなりません。

研究者や製薬メーカーの意図や活動、医療を受ける立場の患者、医療資源の配分を決める医師、官僚、政治家など、それぞれの立場があります。

企業としては、たとえ1か月でも、ごく小さな違いであっても統計という手法を使って、より生存期間が長いという結果が得られれば、経済的には、それを根拠に既存の薬よりできるだけ高価な価格で薬の販売し、研究開発費を回収し、会社の利益につなげようとするでしょう。時にはその価格設定基準の指標の一つとして、これまでの治療を行っていた場合の総医療費が採用されることもあり、これには違和感を禁じ得ません。

薬の投薬を受ける私たちはどうでしょうか。医学的な知識のある私も、藁をもすがる思いに変わりはありません。個人差はあると思いますが、私は自分のことであれば正直多少は客観的に判断できるかもしれませんが、家族のことであればより患者に近いものになるかもしれません。一方で、両親など、一番自身が身近にいる家族であれば、医学を知る者であればこそ、時には強い意識をもって決断するでしょう。それまでの多くの時間を、誰よりもその人と長く過ごし、その人を一番理解しうる(したいと思っている)者として。でも一方で、この決断は本質的には医学の知識とは関係がないようにも思います。

生きているものの業のようなもので、社会生活には様々な思惑が入りまじり、単純な合意は見つかりません。一方で、生存期間に代表される数値化されやすいエビデンスだけが上滑りし、統計などの手法では計り知れない、より根源的な大事なことが覆い隠されているように思えてなりません。

「生存期間が最も長い」、「最善の治療をお願いします」、「最善の治療をしましょう」、その「最も」という言葉の中にある欺瞞や傲慢に覆い隠されてしまう、「ほんとうに大切にしなければいけないこと」に目を向け、共有できるのかが自身の課題です。
今年も何とか超えられそうです。感謝いたします。

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苦手な季節を迎えました

いつもこの時期に体調が悪化します、腱鞘炎から始まり下痢など腸の異常と思われる症状まで出現します。睡眠時間もさらに短くなりますが、性格的には家族が喜んでくれるならとそれが一番となってしまいます。とりあえず、腱鞘炎、腹部症状が悪化しないことを願います。生老病死は世の常、人の常のですが、きっとこれが生きるということなのでしょう。その中でどう生きるかが自分らしさです。負けない!  

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明けましておめでとうございます

体調や忙しさから更新がなかなかできていません。
今年から難病への国の支援体制が大きく変わります。少なからず受給者にも影響が出ることが予想されます。肝炎などへの高額な補助の現状をみると、こうした支出全体をより明確に示し、医療に対する国の支援の在り方について、さらに議論が必要なように思います。

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関節リウマチにおける生物学的製剤の現状(東京女子医大リウマチ痛風センターHPより引用)

多数の分子標的薬の開発が、さまざまな疾患で進んでいます。抗炎症という点では、何といっても関節リウマチにおける生物学的製剤の臨床応用が先を走っています。ベーチェット病における今後の展開を考えるうえで参考になります。以下、東京女子医大リウマチ痛風センターHPより引用です。
生物学的製剤は最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品で、関節リウマチに対しては2003年から国内での使用が開始されています。これまでの抗リウマチ薬に比べて薬剤費が高価ですが、有効性にかなりの期待ができる薬剤で、特に関節破壊抑制効果に優れていることが知られています。リウマトレックスを中心とする治療で充分に病勢のコントロールが出来ない場合、出来るだけ早期に生物学的製剤を導入して関節破壊を防ぐという治療指針が国際的にも広く受け入れられています。
注意すべき副作用は重症感染症で、中でもニューモシスティス肺炎や細菌性肺炎、結核などの肺病変には特に注意が必要です。投与前のスクリーニング検査が従来の抗リウマチ薬と比べて厳格に行われているため、 結核については当初憂慮されていたよりも少ない印象です。しかし生物学的製剤は強力な免疫抑制作用を持つため、免疫抑制下でリスクが高まる疾病であるニューモシスティス肺炎や細菌性肺炎を完全に避けることは難しく、頻度は少ないながらも発生が続いています。早期に対応することが重要ですから、急性の発熱、咳、息苦しさなどの異常を感じた場合、直ちに主治医に連絡して胸部X線などの検査を行うようにして下さい。その他、点滴剤の場合は投与時反応(発熱、頭痛、発疹など)や、皮下注製剤の場合は注射部位の局所反応(発赤、腫脹など)がみられる場合があります。

現在以下の製剤が使用可能で、今後も新たな製剤の発売が予定されています。最初にどの製剤を使用すべきかという明確な指針はなく、欧州リウマチ学会 (European League against Rheumatic Diseases, EULAR) では、国内で発売されている全ての生物学的製剤(TNF阻害薬 [レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア]、抗IL-6受容体抗体 [アクテムラ]、T細胞選択的共刺激調節薬 [アバタセプト])を最初に使用する生物学的製剤として推奨しています。標的とする生体内物質(TNF、IL-6、T細胞)以外にも、投与方法(点滴もしくは皮下注射)、投与間隔(週1-2回から2ヶ月に1回)、薬剤費(3割負担で月1.5万円程度から3万円強)ほか各々特徴がありますので、以下のコメントを参考に主治医の先生と相談して使用する生物学的製剤を決めて下さい。ただし薬剤費については高額療養費制度の対象となる可能性もあり、多数該当という仕組みもあって単純な比較は難しく、また別途補助制度などもあるため薬価だけで一律に説明することは困難です。必要に応じ加入する健康保険にも問い合わせてみて下さい。

1)レミケード:レミケードはTNFという炎症反応に関与する生体内物質の働きを抗体によって抑える抗体製剤です。2時間程度かけて点滴します。投与間隔は、初回投与後、2週後、6週後、その後は8週間隔が基本です。ヒトとマウス由来で遺伝子工学的手法を用いて作られているため、効果を弱める抗体が出現することがあり、リウマトレックスの内服が必要です。2009年から増量もしくは投与間隔の短縮が可能となり、効果減弱する割合は減っています。自己負担額が隔月に集中するため、高額療養費制度に該当しやすいという特徴があります。

2)エンブレル:エンブレルもレミケードと同様にTNFの働きを抑えますが、構造がレミケードとは異なる受容体製剤です。週に1回もしくは2回の皮下注射で投与します。一定の条件を満たす方は在宅注射が可能です。完全ヒト化製剤のためリウマトレックスは内服しなくても使用できます。しかし、エンブレルとリウマトレックスを併用したほうが、エンブレル単独に比べ骨破壊の抑制が強いことが報告されています。週1回25mg投与(通常用量の半量)の場合には生物学的製剤の中で安価に導入できるメリットもあり、当センターでは最も使用患者数の多い生物学的製剤となっています(平成25年7月現在)。レミケードと異なり標準用量以上での使用は出来ません。

3)ヒュミラ:ヒュミラはレミケードと同様にTNFの働きを抑える抗体製剤です。2週間に一度皮下注射します。一定の条件を満たす方は在宅注射が可能です。リウマトレックスの内服は必須ではありませんが、併用した方が骨破壊の抑制が強いことがわかっています。

4)アクテムラ:アクテムラはIL-6というTNFと同様に炎症反応に関与している生体内物質の作用を強力に抑制します。日本で開発された生物学的製剤で、投与は4週間に一回、約1時間の点滴です。リウマトレックスの内服は問いません。炎症反応を強力に抑え込むことで、感染症になった時の自覚症状、他覚所見が希薄になるため、感染の重症化に注意する必要があります。異常を自覚したら、軽度であってもすぐにご連絡ください。2012年の薬価改定で薬価が大きく引き下げられ、標準使用量では体重50kgの場合最も安価な生物学的製剤となりました。

5)オレンシア:オレンシアは2010年9月に発売がはじまった生物学的製剤です。他の生物学的製剤はサイトカイン(TNFやIL6)の働きを抑えますが、オレンシアは関節リウマチの発症に関与するT細胞の活性化を抑制することでサイトカインの産生を抑えます。関節リウマチという病気をより根本に近い段階から抑えることができる可能性が示唆されています。初回投与後、2週後、4週後に点滴投与(30分)し、以降4週の間隔で点滴します。

6)シンポニー:「シンポニー」は2011年9月に発売がはじまった最新の生物学的製剤です。ヒュミラやレミケードと同様にTNFの働きを抑える抗体製剤です。4週に1回の皮下投与で済むため、投与方法がもっとも簡便であることが特徴に上げられます。投与量の変更が可能なのもこの製剤の大きな特徴の一つで、状態に応じて標準用量の倍量である1回100mgに増量して使用することが可能です。

7)シムジア:「シムジア」は2013年にあらたに発売がはじまった生物学的製剤です。ヒュミラやレミケード、シンポニーと同様にTNFの働きを抑える抗ヒトTNFα抗体です。投与間隔は、初回投与後、2週後、4週後に1回400mgを皮下注射し、その後は2週間隔に1回200mgの皮下注射が基本ですが、症状が安定したら4週間隔で1回400mgを皮下注射することも可能です。抗体製剤ですが、Fc領域が除かれていて、PEG化されているために分子量が小さいことが特徴で、注射部位反応の軽減が期待されています。

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巣立つ君へ

今年も多くの若者を迎え、そして送り出した。
ひとり一人にそれぞれの未来が待っているし、努力はきっと報われるものと確信している。
仕事は何であっても、君がしっかりと前を向いて頑張れるのならそれでよいと思う。 自分に最適な仕事は何なのか、本当には誰にもわからない。それを突き詰めたところで答えはないことの方が多いと思う。眺めて思い描くものと実際に自分が経験することは同じであろうはずもない。実は、そこにこそ、やり甲斐や面白さが隠れている。
自分が多少なりとも興味があって、関わるきっかけがあって、生理的に合わないのでなければ、それで十分だ。そこから先は自分の頑張りようでいくらでも面白くもなるし、やりがいも生まれる。後はひたすら頑張るだけだ。