Aンダルシアに憧れて


帰宅、19:45。


フィルムを現像に出すかどうか迷う。今ならまだ急げばぎりぎりラボの閉店時間に間に合うかもしれない。


しかし前日からの睡眠不足と、なにより今日の強烈に対峙してくる被写体との格闘撮影に疲労困憊。
恵比寿までチャリンコをかっ飛ばす気になれず、現像に出すのは明日にしようと諦める。


パソコンを起ち上げ、気になっていた塩竈フォトフェスティバルのブログを開く。






「大賞 : 天野裕氏」!!!!!!!!!!






天野さんとは前年度の塩竈フォトフェスティバルで一緒になり、それからの付き合いでそんなに長くはない。
でもお互いの写真を見せ合い、サシで対峙し、ほんまの話しをしたこともあり、一方的に戦友だと思っている。

天野さんの方が歳上だけど、2、3歳しか変わらない。
この世代で何かやりたいと思っている。
何かを、やりたい。


嬉しい。人の受賞がこんなにも嬉しいのはほんまに久し振り。


ふと我にかえる。

自分はどうや?


急に今日撮影したフィルムが頭の中を占領しだす。


「このフィルムを今日中に現像に出さなあかん! 間に合わなければ俺の写真は終わる! 間に合えば俺の写真は行ける!」


頭にそう浮かんだが最後、もう行動しなくては何も始まらない。



フィルムをジーパンのポケットに詰め込み、チャリンコに飛び乗る。
チェーンとギアの噛み違う カシャコン! という音を中目黒に響かせながら坊主頭は恵比寿を目指す。


カシャコン!カシャコン!カシャコン!カシャコン!カシャコン!カシャコン!






黒のリュックの裏ポケットに隠したフィルムを取り出す

オレの手が震えてるのは何も怖いわけじゃなく、武者震い

このフィルムはオレの未来パスポート

天野裕氏の胸にこいつをぶち込んでやるさ

誰か天野に伝えてくれよ塩竈の庄やのカウンターの端で待ってるはずさ

ちょっと遅れるかもしれないけれど必ず行くからそこで待ってろよ