かけはしメルマガ「シリコンバレーから将棋を観る」翻訳プロジェクト

将棋を世界に広める会のメルマガ会報に「シリコンバレーから将棋を観る」についての記事を載せたので、こちらにも転載しておきます。
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シリコンバレーから将棋を観る」の翻訳プロジェクト(by 将棋を世界に広める会理事)
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▲6月号のかけはしメールマガジンで、「シリコンバレーから将棋を観る」の翻訳プロジェクトについて紹介されました。7月号では、このプロジェクトの始まりから現在までを少し詳しく紹介してみましょう。長文ですので、ご用とお急ぎでない方は、リンク先も覗き
ながらゆっくり読んでみて下さい。 
1.「ウェブ進化論」、「ウェブ時代をゆく」などで知られる梅田望夫さんは、シリコンバレー在住で、その活動からウェブの伝道師などとも称される方ですが、大の将棋ファンで、ウェブ観戦記を書いたりもしています。梅田さんのブログ「My Life Between SiliconValley and Japan」はWebの現在を知る人々にとっては非常な人気のブログです。(最近は、将棋専門の「梅田望夫のModernShogiダイアリー」というブログも始めました。)3月25日に、梅田さんはブログで将棋に関する新刊の出版を予告しました。
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20090325
”『約一年前に「モノを書くことについてのサバティカル」に入り、充電のための時間を作ろうとしたのだが、さまざまな偶然や勝負の帰趨に誘(いざな)われて、昨年六月、将棋のタイトル戦(棋聖戦)のウェブ観戦記を初めて書き、それがきっかけとなって、それからの膨大な時間を「将棋を観る」こと、「棋士と過ごす」ことに費やすことになった。そしてそれが、僕にとっては、何にも代え難い「真の充電」以上の経験になったのだから、人生は予想できないものだと思う。昨年十月には、パリまで出かけて、竜王戦第一局のウェブ観戦記も書いた。
 羽生善治名人(四冠)、佐藤康光棋王深浦康市王位、渡辺明竜王。2008年に将棋界の七タイトルを分け合った四人のトッププロたる最高の将棋知性と、公私ともに深く付き合うことで、「超一流とは何か」ということを考え続ける機会を得たことは、本当に僥倖であった。そんな経験のすべてを盛り込んで、「シリコンバレーから将棋を観る──羽生善治と現代」(中央公論新社、4月25日刊)という本を書いていたのでした。』”
梅田さんのこのブログに、私のブログから、何気ないトラックバックを送りました。
http://d.hatena.ne.jp/salamancasouryu/20090401
”『将棋界以外の人で、今一番将棋の魅力について面白くかけて、発信力がある人だと思うので、ご本人が書いてあるとおり、日本国内では(将棋を知らない人にも)将棋に興味を持ってもらうのに、大いに意味があるでしょう。竜王戦のウェブ観戦記もとても興味深い内容でした。将棋を世界に広める観点からどれくらい効果があるかわかりませんが。あ、この本が英訳されれば大きな意味があるかもしれませんね。』”
これに、反応した梅田さんは、「シリコンバレーから将棋を観る」を「何語に翻訳してウェブにアップするのも自由」という宣言を4月20日に自身のブログで出したのです。
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20090420/p1
▲このブログのエントリーは、「かけはし」メールマガジン6月号にも紹介されていますが、多くのコメントやトラックバックが着き、将棋界以外でも話題になった文章なので、かけはしメールマガジンの読者にも是非読んでいただきたいと思います。
2.梅田さんの呼びかけに呼応して、薬師寺さんという大学生が「シリコンバレーから将棋を観る」を全文英訳することを宣言し、ブログで協力者を募りました。
http://d.hatena.ne.jp/shotayakushiji/20090429
▲ブログを読むと、翻訳をするためにブログ自体が新たに開設されたことがわかります。4月29日に本が出版され、5月5日には、本の全文が一応訳され、協力者のチェックも経て、5月10日は、インターネット上(下記URL)で英訳が公開されたのです。驚くべきスピードです。わずかな協力者の中には、将棋のルール自体を知らない人もいました。当会の寺尾理事も、プロジェクトに加わり将棋用語の英訳チェックなど不可欠の役割を果たしました。
Yoshiharu Habu and Modern Shogi 
http://modernshogi.pbworks.com/
▲ウェブ上に公開された後、米国の将棋愛好家Leonard Hirschさんが、全巻を通じてチェックを行うなど、様々な方が翻訳の質の向上に努めた結果、相当高い質の翻訳が完成したと考えられます。翻訳プロジェクトについて、当メールマガジン前号に紹介されたのとは別の薬師寺さんのインタビュー記事が以下です。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090702/164632/
3.驚くべき実験はこれだけではとどまりませんでした。フランス語翻訳担当のリーダーである山田義久さんは、英語圏以外の各国大使館、将棋愛好者の協会に直接メールを出し、将棋の面白さを説明しつつ、「シリコンバレーから将棋を観る」とその翻訳プロジェクトについて紹介しました。
http://d.hatena.ne.jp/yoshihisa_yamada/20090517/1242516400
▲ブログを読むと、その行動力に驚嘆します。フランス語、韓国語については翻訳が実現しそうですが、その他のどの言語で本当に翻訳が行われるかはわかりません。しかし、山田義久さんの活動で、将棋とこの本の翻訳プロジェクトについては、世界中に情報が広まることになりました。
YouTubeにアップされている当会会員でもあるHIDETCHIさんの英語の将棋ビデオ・シリーズの中でもこの本の英訳について紹介されました。
Famous Shogi Games: HABU vs SATOU (Jun. 11th, 2008)
http://www.youtube.com/watch?v=EIBBYf9iZeI
Famous Shogi Games: SATOU vs HABU (Jul. 18th, 2008)
http://www.youtube.com/watch?v=LWJLzdHGCAA
Famous Shogi Games: WATANABE vs HABU (Oct. 18th&19th, 2008)
http://www.youtube.com/watch?v=b-oNM1E2uvg
Famous Shogi Games: HABU vs WATANABE (Dec. 17th&18th, 2008)
http://www.youtube.com/watch?v=anB1JS01dLo
4.話はそれますが、梅田さんは5月に来日して、「シリコンバレーから将棋を観る」の販促のために一般誌や将棋雑誌など様々なインタビューを受けました。その一つが、ITmedia Newsに掲載された『日本のWebは「残念」』とタイトルのつけられた記事でした。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/01/news045.html
▲このインタビュー記事は、日本のWeb界に大反響を巻き起こしました。Webの果たす役割を賞賛している(と思われていた)梅田さんが、日本のWebは「残念」と悲観的な発言をしたからでしょう。日本の6月のネット世界で最も有名になった話題になった記事と言っても過言ではありません。将棋が直接の話題になったわけではありませんが、この議論を通じて「シリコンバレーから将棋を観る」や将棋についても注目が集まったようです。
5.今回の翻訳プロジェクトに関する一連の動きを見ていてまず感じることは、本の出版から英語全訳実現へのスピードです。梅田望夫さん個人及びその著書の魅力が大きかったこともありますが、インターネットを通じた若いエネルギーの結集が思いもかけなかったことを起こしたと言えるでしょう。
▲同時に、世界の将棋に関心を持っている層は、我々が予想していなかったところにまで広まっていることも感じます。英訳サイトには、世界中の国々からアクセスがあります。「シリコンバレーから将棋を観る」翻訳プロジェクトは、Web世界の事件であるとともに、「将棋を世界に広める」上での大きな事件になったような気がします。