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2016-02-22 学校に広がるニセ科学問題『教職研修』誌(2014年12月号)テキスト版

*テキストを入れます。2月21日に画像版を入れます。


教育時事  (『教職研修』誌2014年12月号)


学校に広がるニセ科学問題


  法政大学教授  左巻 健男

●重要な人類の文化の一つであり、 もっとも論理性や実証性をもっている科学に対して、ニセ科学疑似科学エセ科学ともいわれる)が世の中にあふれている。

ニセ科学は、「科学っぽい装いを している」あるいは「科学のように見える」にもかかわらず、とても科学とは呼べないものを指している。

●学校教育や環境活動のなかにニセ科学が忍び込んでいる。その代表的なものに、「水からの伝言」と「EM菌」がある。


ニセ科学とは?


 自然についての科学、つまり自然科学は、素粒子の世界から宇宙の世界までの秘密を探究し、世界がどうなっているか (自然像) を明らかにしつつあります。科学の知識体系は、重要な人類の文化の一つであり、もっとも論理性や実証性をもっています。科学でわかっていないことも膨大にありますが、わかってきたことも膨大にあり、真実の基盤は増え続けています。学校の理科は、自然科学を学ぶことで、自然についての科学知識を身につけ、その活用をはかり、科学的な思考、判断の力を育てる教科です。


 そういう科学に対して、ニセ科学 (疑似科学エセ科学ともいわれる) が世の中にあふれています。ニセ科学は、「科学っぼい装いをしている」 あるいは「科学のように見える」 にもかかわらず、とても科学とは呼べないものを指しています。科学への信頼性を利用し、科学用語を散りばめながらわかりやすい物語をつくっています。


 ここでは、それらの代表として、とくに学校に入り込んで影響力がある、「水からの伝言」と「EM菌」をとりあげようと思います。


 なお、私は、もともとは中学校・高等学校の理科教諭でした。その土台のうえに、大学の教員として小・中・高の理科教育、一般の人の科学リテラシーの育成を専門にしています。


 現代の変動の激しい高度知識社会で必要とされる知識は、理科の関係では、科学リテラシーといわれます。リテラシーというのは、もともと 「言語の読み書き能力」 でしたが、基礎的な科学知識の重要になった現代にあって、科学リテラシーが誰もが身につけてほしい科学を読み解く能力として登場してきたのです。

 私は、現代では、「読み・書き・そろばん」だけでは不足だと考えて、「読み・書き・そろばん・サイエンス」を主張しています。そこで大人のための理科の季刊雑誌 『理科の探検 (RikaTan)』 を仲間とともに発行しています。


 ●「水からの伝言」とは?


 最初に出された 「世界初=水の氷結結晶写真集」である 『水からの伝言』 は、もともとは江本氏らのさまざまな「波動」商売の一環として自費出版のようなかたちで出版されました。江本氏らの「波動」商売とは、「波動測定器」で診療まがいなことをする波動カウンセリング、よい波動を転写したという高額な波動水(波動共鳴水)の販売などです。それが、一般のオカルト好きの人たちだけではなく、教育の世界にも浸透していったのです。


 「水からの伝言」 に書かれていたのは、容器に入った水に向けて「ありがとう」と「ばかやろう」の「言葉」を書いた紙を貼り付けておいてから、それらの水を凍らすと、「ありがとう」を見せた水は、対称形の美しい六角形の結晶に成長し、「ばかやろう」を見せた水は、崩れた汚い結晶になるか結晶にならなかったということです。水に、クラシック音楽とヘビメタ(ロック・ミュージックのジャンルの一つ)を聴かせると前者はきれいな結晶に、後者は汚いものになるといいます。つまり、水は「言葉」を理解するので、そのメッセージに人類は従おうというのです。


 こんな馬鹿げた主張の本はすぐに世の中で無視されると思っていましたが、『水からの伝言』 や 『水は答えを知っている』 などは何十万部も売れていきました。

 学校の教員のなかには、「水は、よい言葉、悪い言葉を理解する。人の体の6、7割は水だ。人によい言葉、悪い言葉をかけると人の体は影響を受ける」という考えは授業に使えると思った人たちがいます。道徳などで、『水からの伝言』 の写真を見せながら、「だから「悪い言葉」を使うのは止めましょう」という授業が広まりました。


 びんに入れたご飯に「ありがとう」 「ばかやろう」という言葉をかけるというバージョンもあります。「ありがとう」のほうは白く豊じょうな香りに、「ばかやろう」のほうは黒く嫌なにおいがするようになるとしています。


 本や雑誌やネットで、この授業を広めた教育団体もありました。とくに、この授業を広めたのにはTOSS (Teacher's Organization ofSkill Sharing(教育技術法則化運動) の略)の力がありました。誰でも追試可能 (真似ができる) な指導案としてサイトに載ったことで、全国の教員に広がったのです。


●どのように写真を撮ったか?


 『水からの伝言』 では、調べたい水を少量ずつ50個のシャーレの中央に落とし、マイナス20度の冷凍庫で冷却します。すると先端の尖った氷ができます。3時間以上冷却したあと、マイナス5度程度の実験室に取り出し、顕微鏡で観察していると、氷の先端に結晶が成長します。空気中の水蒸気が氷の尖った部分にくっついてできたものですから、別に目新しいものではなく、普通の「雪の結晶」と同じものです。現在では、どんな条件のときにどんな結晶ができるかが解明されています。


 きれいな結晶、汚い結晶の写真は本物でも、水が言葉を理解したからではありません。「ありがとう」水ではきれいな結晶になったときに、「ばかやろう」水は結晶が崩れているときに写真を撮ったからです。どれが「ありがとう」か「ばかやろう」か知ったうえで写真が撮られています。また、写真を撮るのは言葉を見せた何時間も後のことです。

 しかし、「本に載っている」 「写真がある」ということで、この話を信じ込んだ人たちがいます。ニセ科学というのは巧妙で、分かりやすいストーリーと一見科学的な雰囲気を示します。『水からの伝言』 も、量子力学を持ち出して 「言葉にも波動がある」と説明したり、素人には撮れない結晶の写真を補強材料に便ったのです。


●もっと人の心はゆたかでは?


 科学者側などからの批判が高まっていきました。日本物理学会では、批判のシンポジウムを開きました。私も 『水はなんにも知らないよ』 (ディスカヴァー携書:本と電子書籍)を出して、そのニセ科学を批判しました。


 言葉の善し悪しは水に決めてもらうことではないし、そもそも水に言葉を理解できるはずもありません。第一、言葉の善し悪しを水に教わるような世界は、心を失った世界です。もっと人の心はゆたかです。「ばかやろう」という言葉だって状況によってはとても愛に満ちているときもあるのです。


 なお、科学者側などから 『水からの伝言』授業への批判がWEBサイトメディアでも出てきたことからだと思いますが、現在は、その授業の指導案は、何の説明もなくTOSSの正式なサイトからは一斉に削除されています。


●EMは“神様”のように万能な微生物群か?


 EMは有用微生物群の英語名の頭文字です。本当に有用かどうかははっきりしません。そう名づけただけだからです。中身は乳酸菌酵母光合成細菌などの微生物が一緒になっている共生体ということです。何がどのくらいあるかという組成がはっきりしていません。研究者が調べてみると、肝心の光合成細菌がふくまれていないという報告があります。乳酸菌はふくまれているので、そのはたらきはあります。

 開発者は比嘉照夫氏で、EMの商品群はEM研究機構などのEM関連会社から販売されています。EM菌は特定の会社から販売されている商品名のようなものです。


 最初に商品化されたのは土を改良する農業資材としてでした。その有効性をめぐって何かと論議をよびました。EM液やEMでつくった肥料で土が改良されて作物がよく育つとされました。しかし、ちゃんと調べてみると他の肥料と比べて効果が弱いという結果も出ました。


 EMは農業資材として世界各国に進出しています。1990年代の終わりごろ、食料難に苦しむ朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)は全国くまなく農業用資材としてEMを導入することにしました。比嘉照夫氏もしばしば訪れて指導をし、「北朝鮮はEMモデル国家。21世紀には食料輸出国になる」と宣言していました。しかし、今は比嘉氏は北朝鮮のことを言いません。


 『朝鮮新報』 (2009年9月16日)の記事によると、北朝鮮は、EM種菌の輸入をやめ、独自の複合微生物肥料を開発ということです。また、『朝鮮中央通信』(2014年4月21日)の記事では、農作物の根の周辺で生息する有用微生物のなかで活性の強い菌を選んで混合培養して4元素複合微生物肥料を開発ということです。つまり、北朝鮮は、比嘉氏の指導ではうまくいかなかったとみえ、比嘉氏のEM菌とは別路線を歩んでいるようです。


 比嘉氏は、EM菌は生ごみ処理、水質改善、車の燃費節減、コンクリートの強化、あらゆる病気の治癒などに効果があると言うようになりました。さまざまな商品があります。そこにはニセ科学的な面が多々あります。


 比嘉氏によると、EMは「常識的な概念では説明が困難であり、理解することは不可能な、エントロピーの法則に従わない波動の重力波」が「低レベルのエネルギーを集約」し「エネルギーの物質化を促進」する、この「魔法やオカルトの法則に類似する、物質に対する反物質的な存在」であり、「1,200度に加熱しても死滅しない」で、「抗酸化作用・非イオン化作用・三次元(3D)の波動の作用」をもつとしています。


 「EMは神様」だから「なんでも、いいことはEMのおかげにし、悪いことが起こった場合は、EMの極め方が足りなかったという視点を持つようにして、各自のEM力を常に強化すること」を勧めます。EMはあらゆる病気を治し、放射能を除去するなど、神様のように万能だというのです。

 ある程度科学を知っている私にとっても、これら比嘉氏の説明は理解できません。

 具体的な「1,200度に加熱しても死滅しない」は、本当なら生物について従来の考えをひっくり返す内容ですが、学術誌には報告されず、勝手に言っているだけです。


●とどのつまりは「EM生活」への誘い


 EM菌を河川や湖、海に投入するような活動が、環境負荷を高めてしまう可能性が強いのに行われています。私が編集長をしている『理科の探検(RikaTan)』誌2014年春号は、「ニセ科学を斬る!」を特集しました。そこに、「EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる」(松永勝彦)と「EMのニセ科学問題」(呼吸発電)という二つを取り上げています。本号は発行元のSAMA企画に在庫があります。


 その延長線上では、健康のためにと 「EM・? GOLD」という高額 (500ミリリットル4,500円)の清涼飲料水を飲む「EM力を強化する生活」が待っています。


 EM菌もまたTOSSが勧めたものでした。斎藤貴男 『カルト資本主義』 (文春文庫)の第5章「『万能』微生物EMと世界救世教」に、「TOSSに参加する小学校教師たちは、有害な微生物をバイキンマン、EMをアンパンマンになぞらえて、『EMXは超能力を持っている』 と、子供たちに教えている」という記述があります。TOSSの代表向山洋一氏推薦の授業です。


 ここのEMXが現在のEM・? GOLDという清涼飲料水です。比嘉氏は、波動測定器の結果でEM・? GOLDはEMXの5倍の能力があるとしていますが、その波動測定器こそニセ科学系の機器なのです。

 斎藤貴男氏は、「EMを超能力だと教える向山のやり方の本質を表現するのに、多くの言葉は必要ないと思った。わずか一言で事足りる。愚民教育」と喝破しています。

 “愚民教育”は、子どもを効率的に管理し、教祖の思うことを効率的に注入する教育しかできないのです。学校は、この根本的な問題を改善すべきだというのが、私の願いです。


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 このようなニセ科学にひっかからないためには、「たった一つのもので、あらゆる病気が治ったり、健康になったりする万能なものはない」 「お金がかかり過ぎるのはおかしい」「ネットや本などでまともな情報を調べてみる。結構、情報がある」ことに留意しましょう。だまされないための基本は「知は力」ということです。ニセ科学に引っかからないセンスと知力−科学リテラシー(科学の常識) が求められます。

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