瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『雁』の文庫本(5)

 新潮文庫の昭和五十三年十月三十日六十一刷の奥付と広告について。この配列も3月15日付「田中英光『オリムポスの果實』(04)」に紹介した「昭和五十三年五月三十日三十九刷」の新潮文庫オリンポスの果実』と同じで、現在では最新刊などの目録の後、最終頁に奥付があるが、当時は本文の後、目録の前にある。『雁』の場合、本文が132頁までで、その次に「文字づかいについて」がある。これも平成六年九月五日九十三刷と比較するに、少し異同がある。

 新潮文庫日本文学の*1文字表記を現代的に改めるに際しては*2、なるべく原文を尊重するという見地に立ち、次のように方針を定めた。
一、(略)
二、(略)
三、一般には当用漢字*3以外の漢字を使用し、音訓表以外の*4音訓も使用する。
四、(略)
五、(略)
六、極端な*5て字と思われるもの及び代名詞、副詞、接続詞等のうち、仮名にしても原文を*6うおそれが少ないと思われるものを仮名に改める。(これは文語文にも適用する)*7


 同文の項目は省略した。さらに1行空けて「六」項目の具体例について注意しているが、これも同文なので省略。
 こんなことまで気にしても仕方がないのだが、気付いてしまうといつから変わったのだか、気になって来る。
 さて、その裏は白紙で、その次の頁が奥付である。奥付の裏から3段組の「新潮文庫 日本の作品」となっていて、書名と著者名を並べただけのものが8頁(頁付なし)、最初の見開き2頁、庄野潤三から坪田譲治までは、『オリンポスの果実』三十九刷の最後の見開き2頁と同一である。『雁』六十一刷はその前がなくて、以下、坪田譲治から山本周五郎まで*8、そして最後の頁が「新潮文庫最新刊」で、9タイトル(10冊)が並び、著者名、標題、2行の説明、定価が記される。「〈カポーティ/龍口直太郎訳〉冷  血 ……」に始まり、以下ガードナー『アリバイ・アイク』、アーサー・ヘイリー『マネーチェンジャーズ』(上下)、石川達三『愉しかりし年月』、渡辺淳一『リラ冷えの街』、星新一『明治・父・アメリカ』、曾野綾子『太郎物語―高校編―』、山本周五郎『四日のあやめ』、B・プロンジーニ『失踪』である。
 奥付の形式も『オリンポスの果実』三十九刷と同じで、「工」字形に線が引かれ、その右の枠に横書きで、上部に標題(ルビあり)、下部に「定価はカバーに表/示してあります。」。左の枠内には「新潮」という方形の印がある。「工」の下に横書きで「新潮文庫 草20A」とある。その下は縦書きで「昭和二十三年十二月五日発行/昭和四十三年三月三十日四十二刷改版/昭和五十三年十月三十日六十一刷/著者 森 鴎外/発行者 佐藤亮一/発行所 ……」とある。その下に横線があり、その下に横書きで1行目に印刷、製本の社名、2行目に「© Shinchosha*9 1948 Printed in Japan」とある。
 ここでは印刷、製本の社名について記述しておく。『オリンポスの果実』三十九刷には(3月15日付では省略したが)「○*10 印刷・東洋印刷株式会社 製本・有限会社加藤新栄社」とあった。この『雁』六十一刷には「○*11 印刷・二光印刷株式会社 製本・株式会社植木製本所」とある。『雁』九十三刷の奥付にも、下部に横書きで同文が入っている。ただ○に「二」の紋所はない。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 2月26日付に、文春文庫の「現代日本文学館」の森鴎外Amazonのページすらない、と書いたのだが、その後検索してみたら、あった。探し方が悪かったのだろうか。それとも復活したのか……とにかくお詫びするとともに貼り付けておきます。

舞姫 雁 阿部一族 山椒大夫―外八篇 文春文庫

舞姫 雁 阿部一族 山椒大夫―外八篇 文春文庫

 書影の帯の、ナンシー関の消しゴム版画が酒井法子というのが、時代を感じさせる。

*1:九十三刷ナシ。

*2:九十三刷「については」。

*3:九十三刷「常用漢字表」。

*4:九十三刷「も」。

*5:ルビ「あ」(九十三刷ナシ)。

*6:ルビ「そこな」(九十三刷ナシ)。

*7:九十三刷ナシ。

*8:【5月31日追記】昭和五十二年七月三十日五十八刷を借りて来た。同じく8頁あるが瀬戸内晴美から吉村昭までで、坪田譲治山本周五郎が切れ目に位置していない、さらに古い版である。「新潮文庫最新刊」は松本清張『巨人の磯』、森村誠一『鍵のかかる棺』(上下)、星新一『午後の恐竜』、渡邊淳一『パリ行最終便』、遠藤周作『彼の生きかた』、田辺聖子『夜あけのさよなら』、ミッチェル著/大久保・竹内訳『風と共に去りぬ』(一〜三)、リチヤード・バツク著/五木寛之訳『かもめのジョナサン』、城山三郎『生命なき街』である。3月19日付(4)にも注記。

*9:「o」に長音記号。

*10:○の中に「東」

*11:○の中に「二」