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さめたパスタとぬるいコーラ

2017-02-26

『龍の歯医者』前後編感想 龍と歯医者って感じじゃなくて

| 01:39 | 『龍の歯医者』前後編感想 龍と歯医者って感じじゃなくてを含むブックマーク

 BSプレミアムで放送された『龍の歯医者』。人間の力ではどうにもならないように見える超自然現象を前に、それでもやりたいこととやるべきことをやろうともがく登場人物たちに胸打たれました。舞城王太郎原案ですが、共同脚本の榎戸洋司作品の「いつか訪れるであろう死。それまでにやるべきことをやる。その想いの強さが力になる(『キャプテン・アース』25話)」というテーマからの直系という印象を持ちました。しかしそれ以前に、クライマックスが単純に映像として美しすぎた。

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 柴名の言葉に、「生きている以上、いつも何事かを決めるんだよ。食うのか食わないのか。戦うか。それとも死んじまうか」というものがありました。ベルは最後にはっきりと、「龍の歯医者にはならない」という決断をして、自分の足でブランコのもとに向かいます。ベルは結果的に“親知らず”の盗難を防ぎ、龍と龍の歯医者たちを守ったことになりますが、本人にその自覚はないようでした。龍がベルを“黄泉帰り”として選んだ理由は、“親知らず”を守ってもらうためだったかもしれない。でもベルはそんな龍の都合とはまったく関係なく、もう一度生かされた理由に納得し、野ノ子への感謝の言葉を胸に死んでいきました。

 そしてベルの死とは無関係に、虫歯菌の暴走も止まる。ベルの「血液とは違う何かが僕の胸を満たしていく」というモノローグに乗せて、肺の毛細血管のように広がった虫歯菌が白く変化していく映像がただただ美しいと感じました。個人の関与の有無にかかわらず世界には輝くものが存在していて、世界の都合とは関係なく個人の幸せも存在している。そんな映像を見せられているような気がしました。

 

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 榎戸作品では『トップ2』の宇宙怪獣(幼児的万能感を持ったまま成長してしまった者)、『スタードライバー』のヘッド(楽しかった過去を永遠に繰り返したい人)、『キャプテン・アース』の遊星歯車装置(永遠の命を求めるあまりエゴが肥大した人たち)と、際限なく膨張する欲望批判的(必ずしもすべてを悪と断ずるわけではない)な視点で描かれてきた経緯があります。他方で、懸命に生きる日々の一瞬にこそ「永遠」が宿ることも描かれてきた。“キタルキワ”を受け入れ、その上で今日を生きようとする龍の歯医者は、過去作で描かれた「限られた生の中でやるべきことをやる」という生き方をあらかじめ体現した人たちだと言えます。

 ベルは死の間際、野ノ子に、かつて見た気高く美しかった馬の姿を重ねます。ベルは作中で、ほぼ一貫して「野ノ子を助ける」ことを行動原理としていました。それに対し、野ノ子はひたすら龍の事を第一に考えていた。前編のクライマックスシーンでも、ベルは野ノ子の“手”を掴もうとしますが、野ノ子は龍の歯をつなぎとめるため“縄”をベルに渡そうとしていました。

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 こうした野ノ子の奉仕の姿勢は、龍との主従から来るものというよりも、龍を拡張された自己の一部と認識していることから来るもののように見えました。龍と歯医者って感じじゃなくて、両方揃ってて龍の歯医者なんです。ベルは野ノ子に対して、 “キタルキワ”を回避しようとしないことに対する憤りはともかく、誠実に今を生きる姿を美しいと感じたのだと思います。

 

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「例えば、自分の右手を見て『自分と右手』とは考えない。

右手は自分の一部で、あって当たり前。僕と銃って感じじゃなくて、僕と銃は両方揃ってて僕なんだ」(『キャプテン・アース』23話)

 

 ところで、『龍の歯医者』はベルの拳銃をめぐる物語でもあります。ベルは初めて死んだ際にブランコに銃を奪われ、それがブランコの死後に階段を転がり、ベルの手元に戻ってきます。最後に歯から出てきた遺品の山からベルの拳銃が見つかるのは、ベルが歯の中に還ったことを示唆した演出でしょうか。拳銃が有栖川にポイっと捨てられてしまうのは儚くもあり、しかしベルの生きた証がしっかりと世界に記憶されているような感じもして、なんだか嬉しかったり。それにカヲル君の「魂が消えても、願いと呪いはこの世界に残る。意志は情報として世界を伝い、変えていく。いつか自分自身の事も書き換えていくんだ」という言葉を思い出したりもしました。

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 実は後編のアバンで登場する女性は、卓上の資料から“花垣ヤヅカ王ペトワムサ(龍の歯医者の住処)”の調査をしていることが示されていて、そこにベルの拳銃の写真も確認できます。あの拳銃がその後どのような運命を辿ったのかについても、想像を掻き立てられます。調査をしている女性が野ノ子とベルの外見的特徴を併せ持った造形になっているのもにくい演出ですね。

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 この他にもスローモーションで走る野ノ子の姿は、スローでジャンプしていた馬のシーンと意図的に重ねた演出だったのだろうか? とか、走る野ノ子が『I Can Friday By Day!』のスローモーションで走る少女と重なって見えたとか。柴名姉さんが歯に侵入するポーズが『ヱヴァ破』でシンジが綾波を救い出すため使徒のコアに侵入しようとするシーンに似ていたり*1。野ノ子が歯を射し込むシーンは、彼女が歯の中から出てきたシーンと対のようになっていたり。一秒も気の抜けない映像が90分間続くことがただただ素晴らしかったです。考えてみれば、鶴巻さんによるオリジナル新作で90分尺の単独監督作品は今回が初ですし、そこも新鮮でした。

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 放送前にいろいろあった清水富美加も、蓋を開けてみると大変にはまり役で、仮に何らかの形で続編が作られる際にはぜひ再度野ノ子役を演じてほしいと思えるお芝居でした。騒動があってからは宣伝で大きく名前が取り上げられることは無かったようですが、本編放送中にスタジオカラー公式Twitterが清水さんに対する好意的なツイートをしていたのも嬉しかった。また、3月後半には解説番組「同トレス」も放送される予定のよう。裏話がばんばん明かされることに期待したいところです。

 

【追記】解説ニコ生「同トレス」は3月29日に放送されました。鶴巻監督や、脚本の榎戸さんなどが出演。作品に込められたテーマや裏設定、庵野さんの裏話など期待以上の内容でした。5月7日までニコ生タイムシフトで見ることができます。

 → ニコニコ生放送 『龍の歯医者』同トレス タイムシフト

 4月2日現在、一部環境で途中の映像がチラつく不具合が出ていますが、問題解消に向けて番組側がニコニコ運営に問い合わせ中。 →復旧済みです。

*1私的な理由で周囲に破滅的被害をもたらすという点でも共通してますね。『Q』でのシンジと違い、その後、柴名姉さんが比較的暖かく迎えられているのは興味深い。

ようよう 2017/02/28 21:33 バックグラウンドも含めた素晴らしい感想・考察でした。なるほどーと思ってしまった。

通りすがりさん通りすがりさん 2017/03/05 13:02 こんなに深く感想を書かれている方がいて驚きです。
参考になります。ありがとうございます。
凄い映像美でしたよね。後半は今見ても泣けてきます。

野ノ子のキタルキワに出てくる金髪の少年。
最期助かったシーンではその時出来たばかりの顔のキズみたいだったから、野ノ子のキタルキワはもう少し先のお話になるのか、いやベルの行動が龍や人々の運命を変えたのか。結末まで描かれていない故、想像力をかき立てます。

とても魅力的なキャラクターがいっぱいで、個人的に超鈍感な有栖川が良かった。見つけた銃を無造作に放り投げるのは彼女にしか出来ない役かと。

どういう経緯で歯抜けになったか知りませんが、ブランコが龍に対して抱く感情は自分の歯に対するコンプレックスだったりとかな、もう想像してるだけで。

龍のディティールもいいしあの重量感描写がたまらない。NHK出版から設定集とか出ないのかなぁ。

まちやまちや 2017/03/20 23:47 素晴らしい感想、考察ありがとうございました。そうしたページをいくつか拝見しましたが、貴方様のが一番しっくり来ました。響きました。

taida5656taida5656 2017/03/30 21:14 榎戸洋司作品の文脈で書かれた考察は自分に無い視点でとても楽しめました。「キャプテンアース」は途中で視聴を止めてしまいましたが、さめぱさんの記事を読んで興味を持ったので今度見てみたいと思います。「龍の歯医者」はブランコに奪われたベルの拳銃がブランコの死後にベルの手元に戻るという拳銃を巡る話の他にも、虫歯菌から得られた石が虫歯菌を退治する薬になる事や、兵士の殺意が育てた殺戮虫が兵士を殺して新たな殺意を生む事などあらゆるものが循環する世界観が印象に残りました。

2016-09-25

『レッドタートル』の安直な感想 人生という冒険は続く

| 03:16 | 『レッドタートル』の安直な感想 人生という冒険は続くを含むブックマーク

 『レッドタートル ある島の物語』を見てきました。予告編がネタバレに配慮した内容となっているので、作中のある出来事にとても驚きました。そこを起点にストーリーが一気に把握できた気がして、アハ体験的な気持ちよさがあった。あと蟹が可愛かった。

 以下ネタバレ感想になります。

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 上で「ある出来事」に驚いたと書きましたが、正確には2つありました。まず「赤い亀」が人間の女性に姿を変えたこと。次に主人公に子供ができたことです。

 序盤で主人公が作るイカダがことごとく海の藻屑となるシーンで、あまりの理不尽さにイライラしました。しかし後に、それが赤い亀の仕業だったことがわかります*1。この段階で、「赤い亀」は「社会」を象徴したものだと解釈しました。

 やっとの思いで作った船を容赦なく破壊する憎たらしい赤い亀。しかし亀は、その後世話をされる内になぜか人間の女性へと変貌します。そして二人の間に子供が生まれます。ここまで見て、「赤い亀」が「社会」ではなく「他者」の比喩だったのだと、解釈を改めました。「社会」はむしろ「海」の方だった。

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「ザメク本体が放つ王の柱に自ら飛び込んでくるとは、愚かな若者よ……

一面の青い闇の中で 自分の居場所も 進む方向も分からぬまま砕け散るがいい!」←要は『スタードライバー輝きのタクト』最終話にあったこれですね。思えば『スタドラ』も島に流れ着いた主人公のお話だった。

 

レッドタートル』が実質『スタドラ』であることを裏付ける証拠の数々

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※『スタドラ』は現在dアニメストアにてテレビ版と劇場版が共に配信中。手軽に見れるので見てない人は是非見ましょう。

 

 つまり、映画の最初で主人公がボートに乗っていたのは、彼の人生において学校を卒業して会社に就職したあたり。しかし就職した先(あの島)は夢抱いていた仕事とは程遠く、孤独な日々を過ごすことになります。そして「もっと良い場所があるはずだ!」と、大したイカダも作れないのに、現実を直視できずに旅立とうとしてしまう。もしかしたらイカダは赤い亀が壊していたのではなく、主人公が認知できない社会の荒波に潰されていただけかもしれません*2。あるいは本当に赤い亀が壊していたのだとしても、「俺、会社をやめてHIPHOPで食っていこうと思うんだ!」と、ボロボロのイカダで無謀な旅に出ようとする主人公を、憎まれ役になる覚悟で止めてくれただけだったのかも。

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 赤い亀の優しさが分からず、主人公は木片で赤い亀の頭を思い切り殴ってしまいます。ハリネズミのジレンマ、つまりATフィールドということです。ちなみに本作と同時期に触れた『怒り』や『聲の形』もATフィールドの話だったので、世の中の物語はだいたいエヴァンゲリオンに分類できます。……閑話休題

 結局主人公は海の向こうへの夢に見切りをつけて、あの島で生涯を終える道を選びます。家族と暮らす日々に幸せも感じていたようですが、死ぬ間際に水平線の向こうを見ていたのは、息子のことを案じたのか、あるいは自分にあり得たかもしれない他の人生に思いを馳せていたのか……。個人的には半々くらいだったのではと思います。

 

 赤い亀には「泳ぎが得意」という特技がありました。特技は子供に引き継がれ、子供はそれを活かして島の外へと旅立っていきました。「泳ぎが得意」というのは「専門職の資格」「絵や音楽の才能」「語学力」など、適当に解釈するとしっくりきます。つまり、「海=社会」を渡り歩く武器です。赤い亀だった女性は、最後に亀の姿に戻り、海へと帰っていきます。あれは結婚したことで家族のサポートや専業主婦の道を選んだ女性が、夫との死別をきっかけに再就職先を探しにいく姿……と考えるとあまり夢が無いですね。じゃあ、例え主人公が死んでも、いつの時代も社会には「他者」は存在していて、同時に様々な可能性も広がっている。とかそんな意味でしょうか。あのラストを見て、そんなことを感じました。

*1:本当に亀が壊していたのか? という疑問は残りましたが。

*2:10月6日追記:先日再度観てきましたが、やはりイカダに直接的に攻撃を加えるカットはひとつもありませんでした。赤い亀はただ主人公を見つめていただけ。 赤い亀が明確にイカダに体当たりする描写ってありましたっけ?

2016-08-27

『君の名は。』感想 夢の残骸の眼差し

| 01:08 | 『君の名は。』感想 夢の残骸の眼差しを含むブックマーク

 『君の名は。』観てきました。隣に座ってたペアが30秒おきに喋るので、耐え切れずに10分で劇場を出て、その足で別の劇場に向かい観てきました。『シン・ゴジラ』(3回目)を品川IMAXで鑑賞した際には、隣に座ってた女性がゴジラが登場するたびに猫ひろしの「ニャー」のようなしぐさで怪獣登場の喜びを表現していましたが、それを寛容な心でスルーし通した僕が10分で席を立たざるを得なかった。それほどまでに余裕の無い状態での鑑賞を強いる、強いプレッシャーを放つ作品を作り続ける作家が新海誠なのです。

(以下、ネタバレ

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君の名は。』入場直前に撮影した土曜の新宿ピカデリーの人でごった返したロビー

 

 結論から言うと、新海誠監督の総決算のような、「ずっとこれが見たかった」という作品でした。

 過去の深海作品ではどちらかというとSFファンタジーエッセンスが入ったものが好きでした。しかし『ほしのこえ』は絶妙だったものの、『雲の向こう約束の場所』や『星を追う子ども』は相当散漫な印象を受けました。『秒速5センチメートル』と『言の葉の庭』は美しい作品だと思いますが、せっかく大風呂敷を広げたい欲求もあるのに、ミニマルな視点に終始した作品では勿体無いのではという思いが強かった。そんなわだかまりをずるずる引きずったまま、それが解消される日が来るとはあまり思ってなかったので、素直にびっくりしました。

 

 『ほしのこえ』のように時間軸をずらすというネタを仕込みつつ、『雲の向こう』から夢から覚めたときの切なさを継承して、『秒速』のラストシーンを思わせる演出を最後で使い、『星を追う子ども』のようなファンタジーや神話性を盛り込んで、おまけに『言の葉の庭』のようなおねショタ(広義)的関係性を時間軸ずらしネタとの複合技でキメてくる*1という畳み掛け方で、もう参りましたというほかないです。

 これまでの新海作品を足し算して、足し算して、足し算した結果突き抜けた感があり、おかげでラストが何倍も清々しい。ばらばらのピースとしては新海さんの中にずっと前からあったもののようなのに、過去の作品の夢の残骸が無ければ絶対に誕生しなかった作品で、余計に感動があります*2。このことを象徴してるように感じたのが、瀧(三葉と入れ替わった状態)と三葉祖母の対話に出てくる先祖たちの遺影。三葉の祖母が「自分も若いころに同じように不思議な夢を見たことがあると」発言したことをきっかけに、瀧は先祖代々の写真を見渡し、「このこと(彗星の落下)を知らせるために、先祖たちはみんな過去同じような体験をしてきたのではないか」的な台詞を口にします。そこで映る先祖たちの遺影の眼差しが、過去作られた深海作品たちの眼差しのように見えてなりませんでした。『星を追う子ども』のアガルタでの旅は無駄ではなかった。ありがとう……ありがとう……。

 

 深海監督、これほど集大成的な作品を作ってしまったので、今後どのような作品を作っていくのか気になります。動員数としてはロケットスタートを切ったようなので、次回も大作を任されそうな感じがしますが。あと、『君の名は。』でプロデューサーを務めた川村元気さん、実写でもヒットメーカーですが、この1年で細田守(『バケモノの子』)、松本理恵(『血界戦線』)、新海誠と組んでるやばさはやばいですね。

*1:バイト先のお姉さんでおねショタ成分は発散済みかと油断していたら、最後に主人公2人の年齢が時間軸がすれたことによって3年分開くというギミックを発動させていて感服いたしました。

*2:過去作をまとめて夢の残骸呼ばわりしているようで深海ファンに殺されそう。

2016-07-29

『シン・ゴジラ』ネタバレ感想 まさかの超高濃度庵野秀明

| 11:53 | 『シン・ゴジラ』ネタバレ感想 まさかの超高濃度庵野秀明を含むブックマーク

TOHOシネマズ新宿にて、7月29日午前1時上映の『シン・ゴジラ』を観てきました。

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ロビーにスタッフサイン入りポスターが。左下にお馴染みの庵野監督サイン

まずネタバレを書くと、本作は映像の編集があまりにも庵野印でした。これが最大のネタバレと言っても過言ではないと思う。確かにゴジラ自体の魅力や怪獣対策に当たる人々のドラマも抜群に良かったですが、それよりもまず編集術にびっくりします。映像が常に異様なハイテンポでキレッキレです。なぜこれがネタバレかというと、鑑賞時の感触が通常の劇映画とは別ジャンルに分けてしまいたいほど異なるからです。ゴジラシリーズという大舞台にも関わらず、反則スレスレの魔球を投げている。キャスト陣が様々なインタビューで証言している通り、本作では登場人物たちが異様なまでの早口で喋りまくります。現実の官僚たちの早口な喋り方を再現する意味合いもありますが、これがハイテンポなカットの切り替わりに乗って、そのまま作品のテンションに直結していきます。開始後すぐに連想したのは、庵野監督の初実写長編作品『ラブ&ポップ』でした。

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『ラブ&ポップ』では撮影に家庭用のコンパクトなビデオカメラを使用することで、「着替えをする女子高生の一人称視点」「電子レンジに置かれた皿の視点」といった珍しい画面が多用され、編集もかなりのハイテンポでした。『シン・ゴジラ』でも「海難救助隊員の視点」「会議室のキャスト付きの椅子視点」等々、奇抜なアングルが多発します。このスタイルでゴジラ映画をやるということがまず衝撃でした。

【7月31日追記】 7月27日発売の「特撮秘宝vol.4」に掲載された編集・VFXスーパーバイザー担当の佐藤敦己さんのインタビューによると、『シン・ゴジラ』では全編分のプリヴィズが制作されていたとのことです。プリヴィズとはCGで組んだセットをバーチャルカメラで撮影した映像とかで作った仮映像のことで、それを元に本番の撮影がされていったそうです。『シン・ゴジラ』の映像の切れ味は間違いなくこの工程があったからですね。ちなみにプリヴィズの制作に入る前には脚本準備稿を元にプリレコ(声優さんに庵野さんの望むスピードでセリフを読んでもらう)をして、庵野さんと佐藤さんの2人で、劇場アニメでよく作られるライカリール的な“プリヴィズの準備稿”を作ったとのこと(シーン番号とト書きだけがあるものだったらしい)。 追記ここまで

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参考までに『アイアンマン3』のプリヴィズ。プリヴィズは「アニマティック (Animatic) 」などとも呼ばれる

 

また、庵野監督といえば熱烈な岡本喜八作品のファンとして知られています。例えば庵野監督はこちらの岡本監督との対談で、

テンポは岡本さんの影響を直撃してますね。あれこそアニメに向いてると思うんですけどね、あのテンポ。カットを割る時の面白さです。カットの内容じゃなくて、カットが切り替わる瞬間の快感というのが、岡本さんの写真にはすごくあると思うんです

庵野秀明監督と岡本喜八監督の貴重な対談 - 1年で365本ひたすら映画を観まくる日記

と明言しています。『シン・ゴジラ』を鑑賞する前に予習として岡本監督の『日本のいちばん長い日*1と『激動の昭和史 沖縄決戦』を観ましたが、特に『日本のいちばん長い日』は『シン・ゴジラ』が気に入った人は関連作として押さえて損は無いと思います*2。同作ではポツダム宣言が受諾される1945年8月14日〜15日にかけての天皇政治家、軍関係者、放送局職員の緊迫したやりとりがドキュメンタリー風に描かれますが、カット割りのテンポに限らず、『シン・ゴジラ』や『エヴァ』でも見られる会議シーンを山場とする庵野演出のルーツが感じられます。また、『シン・ゴジラ』のスタッフロール(と以下のツイート)を見て驚いたのですが、『シン・ゴジラ』に出てくる、『劇場版パトレイバー』の帆場暎一的な役回りのキャラクターとして、岡本喜八監督が写真出演していたようです。完全に影の主役だこれ(笑)。

シン・ゴジラ』は単体で観て面白い傑作ですが、あえて関連作として『ラブ&ポップ』『日本のいちばん長い日』をオススメしたいですね。もう1作加えるなら1954年公開の初代『ゴジラ』しょうか*3

とにかく、『シン・エヴァンゲリオン』を後に回してまで作られただけある作品で本当に良かった。冒頭のゴジラが予想外な可愛さでびっくりしたので、今週中にあと3回は観にいきたいですね。

*12015年に製作された映画ではなく、1967年版です。念のため。

*2:【7月31日追記】 「特撮秘宝vol.4」に掲載された准監督・特技統括を担当した尾上克郎さんへのインタビューで、「庵野監督は岡本喜八監督が好きということですが、影響があると思いますか?」との質問に対し「少なくともこの映画は岡本監督の『日本のいちばん長い日』と『沖縄決戦』の雰囲気を目指すと言ってましたから、少なからず受けてるんじゃないかな」という逸話が明かされていました。試験のヤマ当たった気分です(笑)。

*3:7月中は予習として国内で製作されたゴジラ映画全28作品、ハリウッドで製作された1998・2014年版の『GODZILLA』、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』『激動の昭和史 沖縄決戦』、庵野監督の実写長編作品『ラブ&ポップ』『式日』『キューティーハニー』を観ました。逆にこれを観てないのは勿体無い!という作品がありましたらアドバイスほしいですね。本当は実相寺作品とかも観たかったんですが、ちょっとそこまで手が回りませんでした……。

佐藤佐藤 2016/07/29 12:14 日本のいちばん長い日 は、昭和版の方ですよね?昨年上映された方では無く。名称が決まってないから混乱しました。笑

samepasamepa 2016/07/29 12:20 ですです。いちおう脚注にて追記しておきました!

BigHopeClasicBigHopeClasic 2016/07/30 08:56 個人的にはこれを機会に84ゴジラがもっと見られたらなあと思っています。テーマ的にはかなり共通のところもありますし。

みやびのみやびの 2016/07/30 22:55 失礼します。
今日シン・ゴジラを見てきましたが、偶然にもその数日前に「日本のいちばん長い日」をみていました。NHKのBSでやっていたのですね。何の気もなしに見始めたのですが、あのスピーディなカットやテンポ、玉音放送の録音と飛行基地からの特攻機の出撃を見事に対比させるなど、とにかく衝撃的で三時間弱みいっていました。

この時点ではもちろん。シン・ゴジラを見ているときも岡本監督との関連性にはきづかなかったのですが、
キャストロールで「岡本喜八(写真)」の一行を見たとき、すべての線がつながって、そういうことかと思わず膝を叩きました。
とにかく圧倒されました、同じ一週間でこんな思いを二度もできるなんて、ありがたいことでした。

2016-05-21

『ガルム・ウォーズ』初日舞台挨拶行ってきた 押井監督次回作はIG制作のアニメ映画?

| 19:02 | 『ガルム・ウォーズ』初日舞台挨拶行ってきた 押井監督次回作はIG制作のアニメ映画?を含むブックマーク

『ガルム・ウォーズ』をTOHOシネマズ六本木で観てきました。初日舞台挨拶付き。押井監督を初めて生で見れて嬉しかったです(厳密には『攻殻2.0』を劇場で観た際、直前の上映に押井監督が舞台挨拶で来ていて、廊下の遠くの方を歩いていくのを見たことはあった)。

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エントランスにサイン入りポスターと作中に出てくる空母の模型が展示されていました。

 

本編は『アヴァロン』系統のこってり加工された映像美と、ファンタジーと言いつつSF意匠をたっぷり含んだ内容で楽しませていただきました。上映終了後には押井守監督、日本語吹替版でカラ役を演じた朴璐美さん、キャッチコピーを担当した虚淵玄さんが登壇。中でも印象的だったのが以下の押井さんの言葉(記憶を頼りに書いてるので言い回しは不正確です)。

「今回はファンタジーという方法で世界がどう始まり、どう終わるのかということを描いた。自分の作品の中でも珍しい大上段に振りかぶった作品。それを実現させてくれたIGの石川とバンダイバンナム)の鵜之澤には感謝してます」

「鵜之澤」というのは旧『ガルム戦記』時代にプロジェクト凍結を押井監督に直々に言い渡した鵜之澤伸プロデューサーのこと。『ガルム・ウォーズ』としてプロジェクト再開を決定したのも鵜之澤さんでした。「石川」はプロダクションIG社長の石川光久さんです。普段二人に対して憎まれ口を叩いてばかりの押井監督だけに、17年越しの映画実現に際して真っすぐな謝辞を送っていて、大変ぐっときました。

 

石川社長は当初、『ガルム・ウォーズ』を作ることになった押井監督に対して「やるのはかまわないんだけど、我が社的には1円も出したくない」というスタンスだったそうなのですが、製作資金が尽き、作品が頓挫しそうになったときに大量のお金を投入する英断を下したそうす。という話を押井監督が舞台挨拶直前にLINE LIVEで行われた動画配信で語っていて、その辺も面白かったので以下に紹介します。動画の最後に乱入する石川社長の話も面白い。話を聞く限り、押井監督の次回作はアニメ映画になるっぽい? 実現すればアニメ作品としての新作は2008年の『スカイ・クロラ』ぶり。楽しみですね。

 

ガルム・ウォーズ 5/20公開!押井守×虚淵玄 喪われた物語 / LINE LIVE (動画の25分過ぎから)

 

押井 今でも覚えてるけど、石川は「(『ガルム・ウォーズ』を)やるのはかまわないんだけど、我が社的には1円も出したくない」って言ったのよね(笑)。最終的にはかなり出してくれたので、それだけは褒めても良いと思う。撮影中、やめるかってところまで3回くらい行ったから。これ以上予算の出処が無くて、どうすんだっていうさ。

 実写の怖さは日々お金が出て行くこと。ひと月待って、とかできないので。今中止にするのか、お金をどこかから工面するのか、今日中に決めなきゃいけないというときに石川が「やろう」っていうさ。だから結果的には相当なお金を出したわけだけど。よく(IGが)潰れなかったなって。仮払いとはいえ、普通こんだけ出してたら会社潰れるよなっていうような額だったから。それだけは大したもんだって言える。

 だからさ、博打と一緒なんだよ。どんどんコールして賭け金を上げていって、降りた側が負けちゃうわけだよ。映画ができなければゼロ。今やめればこれだけの被害で済むけど、出し続ければもしかしたら儲かるかもしれない。でも完成するまでにいくらかかるのか、正確には誰も分からない。それが監督の仕事と言えばそうかもしれないけど、そうは言っても銭勘定しながら映画は撮れないから。

 だから本当の大博打だったと思う。その意味で言えばこの映画が完成にこぎつけたのはお世辞でもなんでもなく、石川という男の英断というか決断というか……もしかしたら暴走だったかもしれないけど(笑)。ただそういう人間が最低一人か二人いないと映画ってできないんですよ。監督が暴走しようにも、ガソリンが無ければ走れないわけだから。だから世に言う「監督の暴走」っていうのは厳密には存在しない。それを許したプロデューサーがいるんだから。

 

配信の最後で石川さんも交えて一言ずつメッセージを、という流れになり石川社長も登場。当初出演予定はなかった石川社長、急遽呼ばれて登場を渋っていると押井監督から満面の笑みで「いいから来いって」と催促される。

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「いいから来いって」と満面の笑みの押井さん

押井 自分の思いとしては『ガルム』が完成してから随分経ってるから、早く次の作品に向き合いたい……ということなんだけど。(ツンツン)」

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石川社長を嬉しそうにツンツンする押井さん

 

石川 ある人に営業ってなんですかって聞いたら、「営業する人は気を使うのは大事だけど、遠慮はしちゃいけないんだ」って言われました。できない営業マンは気を使うし遠慮もしちゃう。そういう意味で押井さんとどうするかと言えば、これまで押井さんには相当気を使ったし、金も使ったしね、ただ遠慮しちゃいけないってことを『ガルム』で知ったんだよね。だから次で押井さんと組むときには、もう実写じゃなくてアニメーションを作って欲しいし、押井さんにアニメーションで映画を作ってもらうために今回の『ガルム』ではお金も最大限「気を使った」、ということを皆さんに伝えたいです。

 『ガルム』は最初は本当に押井さんの首を締めようかというくらい、夢にまで出てきたんだけど。まあでも段々出てくると味になるし。最終的に鈴木敏夫さんも企画に参加してくれて。どういう形でも、次に押井さんのこれだっていうアニメーションを皆さんにお届けすることがこの作品にとっても、皆さんにとっても、押井さんにとってもね、そして虚淵さんにとってもね!*1 ということをこの場で契約処理させてもらって……。

石井 ちょうど視聴者も65万人になりましたので、65万人の視聴者が証人になると。

虚淵 おっかないな(笑)。

 

というわけで押井監督、次は是非ひさびさにアニメを撮ってください。最近の実写作品だと『東京無国籍少女』などは結構楽しめたんですが、やはりそろそろ押井さんのアニメ作品が観たいです。

*1:石川社長、最近IGの企画(非押井監督作らしい)に虚淵さんを誘っていたらしく、それが頓挫(?)したばかりだったらしく、やけに虚淵さんに絡みたがる。