武富士事件

武富士事件の控訴審判決が先日行われた。
第一審とは全く逆の国側勝訴判決が出た。ちょっとびっくりである。

この事件は贈与税の課税価額が1653億円、贈与税額が1157億円、無申告加算税が173億円と税額が巨額になることと、租税回避を防止するために相続税法が改正される直前において贈与が行われたこともあって、社会的にも大きな注目を浴びている。

平成12年の相続税法改正前は、国内に住所を有するものは、国内財産はもちろん海外財産も含めてすべての財産の贈与について贈与税が課され、一方、国内に住所を有しないものは、国内にある財産についてのみその財産の贈与を受けたとき贈与税が課せられていた。
従って、資産家の間では、財産の贈与をしたい子供等を国外に住まわせて住所を国外に移転し、国内財産を国外財産に仕立てる方法(株式等においては容易である)により、日本の贈与税相続税の負担を回避するスキームが横行した。
 税務当局においては、あまりにも目に余るということで、平成12年の相続税法改正により、実質的にこのスキームは適用できなくなったわけであるが、改正を察知して平成11年12月27日に株式贈与が行われたものである。
第一審では、贈与時住所は香港にあるとして納税者勝訴で妥当な判決だったように思う。

相続税法においては住所の定義規定がないわけであるから、民法22条、23条の住所、居所の規定を借用して住所を解釈することになる。
いわゆる借用概念といわれているものであるが、この借用概念の解釈について租税法の基本原則である適正公平な課税、租税歳入確保の見地から特別な意味を付加するという目的論解釈することができるかどうかが重要な論点になっている。
借用概念の解釈については、租税法独自の意味を付加することなく、民法と同意義に解するほうが租税法律主義の機能である法的安定性の観点からより適切であるといわれている。

事実、第一審においては、租税回避目的を認定しつつも「租税回避目的混入論」を適用しないで、あくまで客観的事実に基づいて住所の判定を行っていることは、租税法律主義を尊重した妥当な判決であると思う。

いわゆるサラ金といわれている消費者金融で経済的弱者から巨額の利益を吸い上げた会社の株式を、創業者がその株式を子供に贈与するにあたって、日本の相続税贈与税を回避するために租税回避行為を行った課税逃れは許されるものではない。このようなスキームは資産家であるからこそできることであり、庶民が実行できるものではない。
しかし、だからといって租税回避を防止するために、租税法の解釈に租税回避目的論を混入することもまた危険であり、租税法律主義の根幹を揺るがすことにもなりかねない。
やはりこれは、立法をもって対処することが租税法律主義にかなったもであろう。