『ミステリクロノⅡ』(久住四季/電撃文庫)

ミステリクロノ〈2〉 (電撃文庫)

ミステリクロノ〈2〉 (電撃文庫)

 ”時間を操作するアイテム”、クロノグラフを巡るSFミステリ第二弾です。
 今回、慧たちの捜索の対象となるアイテムは、”時間欠落(ドロップ)”の効果をもたらす『メメント』です。拳銃の形状をしたそれは、人間を撃つことにより、撃った時点から予め決めておいた期間(最高で1年)までの記憶を消すことができます。前回のアイテム『リザレクター』は生きているものの時間を最大で30日の範囲で巻き戻すアイテムでしたが、生命現象の回帰に伴って記憶も回帰し、結果として記憶喪失の状態に陥ることになります。その点、今回のアイテム『メメント』は、記憶だけを消失させます。その点で、『リザレクター』よりも効果的には地味なアイテムだといえます(その分、微調整が利くし効果期間も長いというメリットがありますが)。
 記憶喪失と時間操作の関係について、作中で武臣は疑義を唱えてます。そんな武臣には北村薫『スキップ(書評)』を読むことをオススメします。『スキップ』の主人公である一之瀬真理子は、25年後に”スキップ”してしまいます。しかし、そうした現象は端から見ると真理子が25年間の記憶を喪失しているようにも映ります。本書で記憶を喪失させられた秋永が、「――信じられなかった。世界が半年間、勝手に先に進んだものかと思ったよ」(p66)というのは一面の真実でもあります。スキップか記憶喪失か。それは多分どっちも同じことで、観方によって変わってくるのでしょう。にもかかわらず、スキップであれば現実との適応が課題となる一方で、記憶喪失であればそれを取り戻すことが課題となります。この辺りの疑問が浮かび上がってくるという点で、本書はとても面白いです。好みです。過去の名残りとなるものは記憶と記録。しかしながら、どちらも永遠でもなければ不変でもありません。果たして過去はどこにあるのでしょうか?
 先のことは分かりませんが、本シリーズは基本的には落し物の持ち主探しなので、本来なら持ち主がどこの誰なのか分からないまま物語が進んでいくことになります。主人公たちの身近なところに犯人がいるとは限らない(本書の場合はいない)ので、ミステリの醍醐味のひとつである犯人当てゲームの面白さは放擲されててもおかしくはないのですが、本書ではモノローグをはさむというさりげない叙述の技によって読者には持ち主の存在がほのめかされています。それによって緊張感も生まれてます。巧みです。
 ただ、本書の一番の面白いのは最後で語られる反転からの想像でして、そこにこそ本書の真価があるといってよいでしょう。メタルールを握る者がルールを守ることを説くことの矛盾・驕り・危うさ。そうしたものが過去に対する苦悩として凝縮されています。後味の苦さが青春小説っぽくもあってとても好みです。
 設定の説明にページを割くことが必要だった1巻と比べますと、ストーリー展開はスムーズですし、キャラクタも立ってきてますからそこで交わされる会話も安心して楽しむことができます。総じて1巻よりも面白いものに仕上がってると思いますので、もし1巻で本シリーズを保留された方がいらっしゃいましたら、ぜひ本書を手にとって欲しいですし、続きがとても楽しみです。
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