『さよならの次にくる〈新学期編〉 』(似鳥鶏/創元推理文庫)

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

 前作〈卒業式編〉の続編です。曲がり角で衝突したことがきっかけで可愛い一年生女子の佐藤さんと知り合いになった葉山君は、入学以来、怪しい男に付きまとわれているという彼女の相談を受けることになりますが……というのが本書の導入です。
 「曲がり角でぶつかる」などといったシチュエーションは、作中で柳瀬さんも言っている通り、フィクションにおいてはベタ中のベタな出来事ですが、現実にはそうそうあるものではないでしょう(ないですよね?)。そうしたシチュエーションはギャルゲーとかであれば”フラグ”ということになるのでしょうが、それがミステリであれば決して偶然であってはならず合理的な意味づけが必ずなされるものと相場が決まっています。とある一定のシチュエーションがフラグとなるか、それとも伏線となるか。ジャンルの線引きとして極めて興味深い問題だといえると思いますが、本シリーズはいかにライトでコミカルだといってもミステリであることに違いはありません。である以上、少なくとも本作の場合にはその答えは決まっています。
 それだけではありません。前作においてもそこかしこに配置されていた違和感。意味ありげだった断章。そうしたものが、本書によってようやくひとつの線となります。前作を読んだ方であれば本書は必読です。

〈ハムスターの騎士〉 佐藤さんに付きまとっているというストーカー撃退に奔走することになる葉山君と柳瀬さんたち。卒業したとはいえ伊神先輩は事件とあらば何をおいてもやってくるので、探偵・伊神とワトソン・葉山という基本構造自体は変わっていません。本作でストーカーが用いるトリックは、推理というよりも知っているかどうかの問題なので、ミステリ的な面白さはそれほどでもありません。それより柳瀬さんとの会話にニヤニヤする方が吉でしょう(笑)。いや、真面目な話、葉山君と柳瀬さんの会話は思慮と行動というものを考える上でとても大事なことだと思います。

〈ミッションS〉 なんとも馬鹿らしいミッションですが、いかにも高校生らしいとはいえるでしょうか(苦笑)。新キャラ佐藤さんの本性がいよいよ明らかとなってきます(笑)。伊神先輩が登場する探偵パートよりも、その前の怪盗(?)パートの方が個人的には好きです。それにしても柳瀬さんの乗りの良さは最高です。

〈春の日の不審な彼女〉 何というか、怒涛の展開です。「これはすごい」と「これは酷い」が錯綜しています(笑)。少々ネタバレちっくに分析してしまうと、探偵−ワトソン役−犯人というラインがあるとしたら、本作はそれを巧みに利用した詐術だといえるでしょう。〈ミッションS〉と同様に二重仕掛けの構造になっているのも連作の流れとして巧みです。それにしても柳瀬さんはいい人です。

〈And I'd give the world〉 『さよならの次にくる』全編を通しての解決編です。これまでにも思慮が足りずに突っ走って痛い目を見てきた葉山君ですが、本作では熟慮を重ねた上で動きます。とはいうものの、やはりすべてを見通した上で行動することなどできるはずもなく、葉山君はやっぱり苦悩することになります。ですが、「案ずるより産むが易し」ともいいます。ときには行動することが大事な場合もあります。いろんなことが落ち着くべきところに落ち着いた素敵な結末です。
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