Web将棋漫画『旭岡高校将棋部』がとても面白い件

 今回はWeb将棋漫画『旭岡高校将棋部』の紹介記事です。
 本日11月17日は将棋の日です。

江戸時代、将棋好きであった徳川家康は、将棋(本将棋)を囲碁とともに幕府の公認とした。やがて、寛永年間(1630年頃)には将軍御前で指す「御城将棋」が行われるようになった。そして家康と並んで将棋を好んだといわれる、八代将軍徳川吉宗のころには、年に1度、旧暦の11月17日に「御城将棋の日」として御城将棋を行うようになった。
このことを由来として、1975年に日本将棋連盟が11月17日(新暦)を「将棋の日」と制定した。
将棋の日 - Wikipediaより)

 となれば、将棋ファンとして今日はブログに将棋の話題を書きたいと思わずにはいられなくて、そういうわけで今回は、私が最近になって知って読んではまったWeb将棋漫画『旭岡高校将棋部』の紹介をしたいと思います。
【漫画】旭岡高校将棋部
 『旭岡高校将棋部』はをかしさんがブログで公開されているWeb将棋漫画です。現在第3.5話まで公開されていて、第4話が掲載中です。タイトルどおり、旭岡高校の将棋部を舞台とした笑いあり熱血ありの青春将棋漫画なのですが、これがとにかく面白いのです。
 第1話はいわゆる”つかみ”ですが、登場人物の性格と将棋指しとしての棋力・棋風の紹介にもなってます。第2話は他校との交流戦。第八湾岸高校の大場(ダイバ)君といったくすぐりも用意されていますが、目隠し将棋の描写はとても熱いです。第3話は封じ手でテンション上がって「ぶっ詰める!!」で大笑い。『3月のライオン』と同じく「ヤングアニマル」に掲載されてる漫画『デトロイト・メタル・シティDMC)』のパロディなどが盛り込まれてますが、将棋ファンであれば単なるパロディを超えた感動と興奮を堪能できるはずです。3.5話はおそらく一般人置いてけぼりのネタでしょうが、いやー笑わせていただきました。
 『ハチワンダイバー』や『3月のライオン』といった既存の将棋漫画とは共通する面白さもあれば違った面白さも描かれています。興味を持たれた方はさっそく『旭岡高校将棋部』をお読みくださいませませ。
 以下、『旭岡高校将棋部』既読の方向けの雑感と、作中で指されている将棋の棋譜の紹介などをつらつらと。
 第1話。対面では指せないけどネット将棋だと無敵な芳川くん。将棋倶楽部24などのネット将棋が盛んな昨今では、実際の盤と駒を使って将棋を指したことがない、という方がいてもそんなに不思議なことではありません。何しろ、”ネット将棋”の対義語として”生将棋”などという言葉もあるくらいですからね。そういう方からすれば、ネットでは指せるけど生将棋だと緊張して手が見えなくなる、といったことは普通にあり得ると思います。もっとも、芳川くんがネット将棋弁慶なのには過去に何か理由がありそうですが、そんな芳川くんのキャラクター性が現代での将棋を象徴している面があるのが面白いです。
 第2話。笑いあり真剣勝負ありな不良漫画のノリですが、将棋は「精神の格闘技」ですから割とそのまま通用しちゃいます(笑)。私は終盤の目隠し将棋で大場くんが宙にある盤面を仰ぎ見るシーンがとても印象に残ってます。私も若かりし頃に目隠し将棋を指したことがありますが(今はもう無理・笑)、言われてみれば中空を見つめていました。もっとも、結局は脳内の問題なのでイメージは人それぞれでしょうけれど、そんな言葉にしづらい部分が描かれているのも将棋漫画の読みどころだと思います。
 第3話。オリジナル戦法作りは誰もが通る道です(笑)。それにしても封じ手熱い!私も高校のお昼休みに将棋指してたことがあって時間を気にしていたものですが、封じ手にすればよかったです(笑)。「ぶっ詰める!!」は大笑いしましたけど、将棋の終盤戦での思いがストレートに表現されてます。また、棋譜をそのまま歌にするというアイデアが秀逸です。▲7六歩△3四歩▲2六歩……と数字と記号で表記される棋譜ですが、それはその手を指した棋士の思考や感情の表現で、さらにその棋譜には本来独特の時間の流れがあります。そうしたものを音楽なら表現できるように思うのです。たとえば二人のボーカルが先手と後手に分かれて指し手を歌い、消費時間に合わせたリズムを刻み、疑問手・奇手・好手といった指し手の意味に即した歌い方をして、勝負を決めた一着をサビに持っていく、といった妄想が膨らみます。そんなの歌っても分かるやつほとんどいないだろ、とは思いますが(笑)、現代アートとして立派に成立すると思います。
 第3.5話。一般人置いてけぼり(笑)。でも、棋士の仕草や表情を見てると本当に面白いのですよ。NHK杯テレビ将棋トーナメントなんかはそういうのも見所です。もっとも、一般人置いてけぼりなのは別に3.5話に限った話ではないかもしれません。個々の登場人物に棋力の差がありますので初心者でも入り込めるとは思いますが、それでも間口が狭い可能性があるのは否めなくて、マニアックな題材を描くときに常に問題となる点でもあります。たとえば『ハチワンダイバー』にしても、その”将棋度”には巻によって濃淡があります。ハチワン2〜3巻で描かれている文字山戦は、作者としては快心の出来とのことですが*1、あまりに将棋の内容を濃密に描きすぎたために一般の読者のウケが悪く、読者アンケートの人気が落ちてしまうという結果を招いたそうです*2。その点、個人のブログであれば一般の読者を少々置いてけぼりにしたところで平気なわけで、それもまた”勢い”あるいは”味”だと思います。
 なお、作者であるをかしさんの旦那さんのブログで、『旭岡高校将棋部』ができるまでの簡単な工程がまとめられています。
ポカポカのブログ 旭将 裏話?
 『ハチワン』や『3月のライオン』などの将棋漫画における作者と将棋監修の関係を考える上でも興味深いです。また、上記記事からも分かるように、作中の将棋は棋譜提供者から提供されたものです。その第2話と第3話の棋譜もアップされています。
ポカポカのブログ 旭岡高校将棋部 第2話 棋譜
ポカポカのブログ 旭岡高校将棋部 第3話 棋譜
 第3話の腰掛け角戦法は私も知らなかったので勉強になりましたが、わずか30手だったのに驚きです。序盤の数手の重みを漫画に表現したをかしさんと、わずか30手でもこれだけの物語の源泉となり得る将棋の存在と、どっちもすごいと思いました。
 そこそこ将棋を知ってた方が面白いお話なので、本来なら「将棋世界」や「週刊将棋」などの専門誌でひっそりと連載されていそうなお話で、しかしそれだと一般の方の目に触れないのがすごく残念ねのですが*3、それがWeb漫画という形式で公開されているのがとても嬉しいです。『旭岡高校将棋部』、これからも注目です。
【関連】
http://manganavi.jp/interview/doujin/20091216/
http://manganavi.jp/interview/doujin/20091217/

*1:私も大好きですが。ちなみに、「2ちゃんねる」には漫画板と将棋板にそれぞれハチワンのスレがありますが、そこでの読まれ方・楽しまれ方には確かに違いがあります。

*2:その後、第7巻収録の氷室戦では再び将棋が濃密に描かれてますが、どういう心境で描いて、その結果アンケートがとうなったのか興味があります。

*3:現在「週刊将棋」で連載中の『笑え、ゼッフィーロ』(作者:柳場あきら)も同じく高校の将棋部が舞台のお話ですが、こちらもすごく面白いです。一般の方の目に触れる機会がないのが本当に残念な面白さです。