こんなときだからこそ『図書館戦争』を再読してみる

図書館戦争

図書館戦争

 12月15日、都条例改正により、漫画・アニメが一部「規制」されることになりました。
作品を「法」が「規制」することについては以前blogで語りましたし、様々なところで語られています。
絶望した!フィクションに現実の法律を持ち込む東京都に絶望した!
「規制」を「法」が行うということ
 出版各社も反対し、来年の東京アニメフェアのボイコットなども宣言しています。
出版倫理協議会、およびコミック10社会が、東京都青少年健全育成条例改正の動きに抗議する声明を発表!
 そんななかフジモリが真っ先に思ったのは、「このタイムリーな時期に、『図書館戦争』を文庫版で出したらいいのになぁ」でした。
 「本」と「検閲」について書かれた、まさに今、この時期に再読したい本だと思います。

図書館戦争』とは

 『図書館戦争』とは、『塩の町』『阪急電車』『フリーター、家を買う』など自ら「大人ライトノベル」を宣言する良質なエンタテイメント作品を量産する小説家、有川浩出世作です。
 あらすじは、以下の通り。

 時は正化31年。昭和最後の年に公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が成立、施行されて30年経っていた。武力をも行使して出版物を検閲するメディア良化委員会に対抗し、図書館は図書隊という自前の防衛部を所持するようになった。
 主人公、笠原郁はある出来事がきっかけで、女性では珍しく防衛部への配属を希望して図書隊に入隊した。郁は鬼教官の堂上にしごかれながら、一人前の図書隊員を目指すのだが……。

 同作品はアニメ化もされ、別の意味で「表現の限界」にぎりぎりまで肉薄した作品でした。*1
ブコメ+ミリタリと作者の趣味全開の作品でしたが、描かれる世界は「本」と「規制」に関する、けっこう考えさせられる内容でした。
当時の書評は当blogおよび本館でフジモリも記事にしています。
三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館戦争』メディアワークス
三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館内乱』メディアワークス
三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館危機』メディアワークス
三軒茶屋 別館 フジモリの書評 有川浩『図書館革命』メディアワークス

図書館戦争』で描かれる世界

 『図書館戦争』では、「検閲」が合法化し、規制対象の本を武力を持って回収できる「メディア良化委員会(良化特務機関)」と、その言論弾圧に唯一対抗できる「図書館」が武装化した「図書隊」との争いを舞台としています。
 当然ながら、「規制」「検閲」について考えさせられる名文がたくさん出てきます。

本を焼く国ではいずれ人を焼く、言い古されたその言葉は反射のように脳裏に浮かんだ。
(『図書館戦争』p271)

「本当はここまで書きたい、でもここまで書いたらあの団体やこの団体が目をつけるのではないか。だとすれば逃げ道としてここまでは書かずにその手前で止めておくほうが安全だ。それがね、物語の筋レベルのことではないのですよ。一場面の一つの文章で、単語を一つ加えるか加えないかのレベルでの保身になるのです」
(『図書館革命』p90)

「場合によっては悪意より善意のほうが恐ろしいことがあります。悪意を持っている人は何かを損なう意志を明確に自覚している。しかし一部の『善意の人々』は自分が何かを損なう可能性を自覚していない」
(『図書館革命』p90)

 また、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まるという名目の「メディア良化法」が「拡大解釈」され、表現を書いた作者そのものを取り締まったり(『図書館革命』より)、メディア良化法が規制するNGワードを使わずに書かれた「公序良俗を乱す小説」が検閲の対象になったり(『別冊 図書館戦争I』より)と、「半歩先の未来」を巧く描いていると思います。
作中で書かれていましたが、「メディア良化法」が生まれた背景は、「本など読まない無関心な層」の賛成でした。
今回の都条例改正は、一部の勢力によって十分な議論がされなかったこともありますが、それと同時に賛成派の多くはこの改正を詳しく知らない層、漫画やアニメ、そして表現の規制についてに「無関心な層」だったのでは?と思います。(あくまで私見ですが)
そういった意味でも、『図書館戦争』は、「半歩先の未来」を描いていましたし、今回の法改正でまさに「すぐ目の前にある世界」になってしまいました。

作者は語る

再提出された改正案からは『非実在青少年』という文言は削除されたとのことですが、表現規制についての曖昧さはまったく改善されておらず、 青少年を守るという意義よりも、恣意的な表現規制の余地を可能な限り残そうとしている意図を強く感じます。引き続いて反対を表明いたします。
青少年保護をダシに表現を狩るかのような条例ではなく、本当の意味で「実在する被害者」を救済する案を強く望みます。(有川浩・作家)

拙著『図書館戦争』で、もし検閲が合法化されたらというナンセンスコメディを書いた。そのせいかこの問題を「リアル『図書館戦争』」と呼ぶ人もいるらしいが、私は予言者になりたくて『図書館戦争』を書いたわけではない。
悪影響があるかもしれないからと表現規制になりかねない策を打つのは、火事になるかもしれないからと火を規制するような極論だ。大切なのは火との正しい付き合い方を学ぶことである。
私の世代、読書は自由ですばらしい遊びだった。次世代以降も読書がすばらしい遊びであり続けることを願うばかりである。

都条例ふたたび(追記) - 有川浩と覚しき人の日記 - Yahoo!ブログ
心に響く言葉です。というわけで角川なのかAMWなのかわかりませんが、あるいは両方で出しても良いですが、はやく『図書館戦争』を文庫化して多くの人の目に触れてもらい、「表現の規制、検閲」について考えてもらうことが、都条例に対しての「表現物を出す会社」としての反論でもあるんじゃないかなー、などと思ったりしてます。
【ご参考】
『図書館戦争』をより楽しむための5W1H
『図書館戦争』と『華氏451度』

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*1:小牧と鞠江のエピソードはアニメ化にあたり真っ先にカットされました。詳細は以前フジモリも記事にしました。http://d.hatena.ne.jp/sangencyaya/20080605/1212655457