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2011-08-17

[][][]『3月のライオン 6巻』将棋講座

3月のライオン 6 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 6 (ヤングアニマルコミックス)

 『3月のライオン』単行本6巻がようやく発売されましたので、遅まきながらヘボアマ将棋ファンなりにゆるく適当に解説してみます。

桐山零五段対蜂谷すばる五段戦

 Chapter.59「蜂谷」新人戦準決勝:桐山零五段対蜂谷すばる五段戦は桐山の居飛車に対し蜂谷がゴキゲン中飛車を採用します。

●第1図(p96より)

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 ゴキゲン中飛車については4巻Chapter.33にて重田と二海堂が激論を交わしてますが(笑)、「角道を止めない振り飛車」の代表格ともいうべき戦法です。角道を開けたまま駒組みをすることで居飛車の穴熊を警戒しつつ、かつ後手番でありながら積極的に動くこともできる戦法として現在はメジャー戦法としての地位を確立しています。蜂谷のゴキゲン中飛車に対し桐山は「丸山ワクチン」と呼ばれる対策で対抗します。 

●第2図(p97より)

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 ゴキゲン中飛車に対し▲8八角成△同銀と序盤早々角交換をするのが「丸山ワクチン」。自分から角交換するのは一般的には手損なのですが、角を駒台に乗せることで自玉を囲いやすくするという自陣の整備と、かつ後手の銀を2二に移動させることで中央への活用を遅らせるという意味があります。とはいえプロでゴキゲンを指すなら「丸山ワクチン」も当然知ってます。蜂谷は迷うことなく△同銀▲5八金右からさっと△6二玉を動かして囲いに入ります。

●第3図(p98より)

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 第2図から数十手進んで第3図。互いに大駒が敵陣に侵入してます。現在桐山の手番ですが、桐山が考えているように確かに後手陣は横からの攻めに強い形をしています。先手玉が7筋にいることもあって、単純に横から攻め合っては速度負けが見えています。ゆえに桐山は▲7五歩と上から後手陣を崩しにかかります。以下、△1六飛成▲8六桂に△1九龍▲7四歩△5一銀▲7五香△7四歩(p99)▲同桂△9二玉と進みます。

●第4図(p100より)

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 桐山はここで▲9五歩と突きます。「端玉には端歩」は格言のひとつで、この手が遅いように見えて実は速かったりするのです。もっとも、速度勝負なら蜂谷も望むところ。△7六歩▲同銀△7七歩▲同金と先手の守備駒を上に釣り上げてから△1八龍(第5図)。

●第5図(p100より)

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 後手からの△4七馬からの攻めが厳しく後手勝勢に見えますが、▲1九歩△2八龍に……。

●第6図(p101より)

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 ▲1七角! 角のただ捨てが妙手です。蜂谷のいうとおり、龍の横利きがある限り後手の攻めのほうが速いです。ならば、角を捨ててでも一段ずらせば、という発想です。取るよりないのですが、この一手で速度関係は逆転します。「終盤は駒の損得より速度」という格言があるのですが、まさに格言どおりの一着です。好守交代で攻撃権を手にした桐山が端攻めから押し切って勝利をものにしました。

 ちなみに、この将棋には元棋譜があります。2009年度B級1組順位戦8回戦:渡辺明竜王対久保棋王戦(将棋の棋譜でーたべーす)がそれなのです。渡辺明竜王が自身のブログで解説してくれていますので、興味のある方は是非(【参考】B級1組順位戦8回戦、久保棋王戦。 - 渡辺明ブログ

二海堂晴信四段対山崎順慶五段戦の棋譜

 もうひとつの新人戦準決勝:二海堂晴信四段対山崎順慶五段戦は千日手局(p141)と千日手指し直し局(p157)の棋譜用紙だけが描かれてますが、両棋譜とも元棋譜があります。千日手局は2011年竜王戦2組:先崎学八段対畠山鎮七段戦*1で、千日手指し直し局は2009年度竜王戦決勝トーナメント:稲葉陽四段対豊島将之五段戦*2です。

二海堂と銀

 1巻p166の先崎学八段のコラムにも書かれているとおり、二海堂のモデルとなっているのは故村山聖九段です。その背景が6巻でついに明かされることになるのですが、それを踏まえた上で6巻の表紙を見るとグッとくるものがあります。6巻の表紙で二海堂が指に持っている駒は「銀」ですが、村山聖の最期の言葉が「2七銀」なのです(『聖の青春』(大崎善生/講談社文庫)p379より)。今後の展開を暗示しているようなそうでないような……。

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

将棋と、将棋を指してない時間

 オビに「戦いの第6巻」と記されていますが、本書には将棋の他に、ひなたのいじめとの戦いも描かれています。これまでよりも将棋を指してる場面が割合的に減ってます。当ブログ的には書くことが減ってるといえるわけですが(笑)、それについて、作者は糸井重里との対談で次のようなことを述べています。

私も漫画家なんですけど、漫画描いてない時間もあって。

人生がここにあって、仕事っていう闘いもあって、両方ないと私じゃないから、それを描きたいなぁと思って。

いくら将棋で勝ってても家族とうまくいってなかったら、どこかが痛む、みたいなこととか、闘いの前に友達と喧嘩しちゃったっていうと、気を取られるとか、すごい強くなってみんなに慕ってもらえるのに自信がないとか。全部入れ込んでいってるなぁと。

no titleより

 盤上も盤外も引っくるめての「戦い」です。


 以上ですが、ご意見等ございましたらお気軽にコメントいただければ幸いです。特に新人戦決勝:桐山対山崎戦の元棋譜情報をご存知の方がおられましたらご教示いただければ幸いです。即刻本文に追加しますので、よろしくお願いします(ペコリ)。

【関連】当ブログ解説記事 1巻 2巻 3巻 4巻 5巻

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