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2010-12-18

[][]こんなときだからこそ『図書館戦争』を再読してみる

図書館戦争

図書館戦争

 12月15日、都条例改正により、漫画・アニメが一部「規制」されることになりました。

作品を「法」が「規制」することについては以前blogで語りましたし、様々なところで語られています。

絶望した!フィクションに現実の法律を持ち込む東京都に絶望した!

「規制」を「法」が行うということ

 出版各社も反対し、来年の東京アニメフェアのボイコットなども宣言しています。

出版倫理協議会、およびコミック10社会が、東京都青少年健全育成条例改正の動きに抗議する声明を発表!

 そんななかフジモリが真っ先に思ったのは、「このタイムリーな時期に、『図書館戦争』を文庫版で出したらいいのになぁ」でした。

 「本」と「検閲」について書かれた、まさに今、この時期に再読したい本だと思います。

『図書館戦争』とは

 『図書館戦争』とは、『塩の町』『阪急電車』『フリーター、家を買う』など自ら「大人ライトノベル」を宣言する良質なエンタテイメント作品を量産する小説家、有川浩の出世作です。

 あらすじは、以下の通り。

 時は正化31年。昭和最後の年に公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が成立、施行されて30年経っていた。武力をも行使して出版物を検閲するメディア良化委員会に対抗し、図書館は図書隊という自前の防衛部を所持するようになった。

 主人公、笠原郁はある出来事がきっかけで、女性では珍しく防衛部への配属を希望して図書隊に入隊した。郁は鬼教官の堂上にしごかれながら、一人前の図書隊員を目指すのだが……。

 同作品はアニメ化もされ、別の意味で「表現の限界」にぎりぎりまで肉薄した作品でした。*1

ラブコメ+ミリタリと作者の趣味全開の作品でしたが、描かれる世界は「本」と「規制」に関する、けっこう考えさせられる内容でした。

当時の書評は当blogおよび本館でフジモリも記事にしています。

三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館戦争』メディアワークス

三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館内乱』メディアワークス

三軒茶屋 本館 フジモリの書評 有川浩『図書館危機』メディアワークス

三軒茶屋 別館 フジモリの書評 有川浩『図書館革命』メディアワークス

『図書館戦争』で描かれる世界

 『図書館戦争』では、「検閲」が合法化し、規制対象の本を武力を持って回収できる「メディア良化委員会(良化特務機関)」と、その言論弾圧に唯一対抗できる「図書館」が武装化した「図書隊」との争いを舞台としています。

 当然ながら、「規制」「検閲」について考えさせられる名文がたくさん出てきます。

本を焼く国ではいずれ人を焼く、言い古されたその言葉は反射のように脳裏に浮かんだ。

(『図書館戦争』p271)

「本当はここまで書きたい、でもここまで書いたらあの団体やこの団体が目をつけるのではないか。だとすれば逃げ道としてここまでは書かずにその手前で止めておくほうが安全だ。それがね、物語の筋レベルのことではないのですよ。一場面の一つの文章で、単語を一つ加えるか加えないかのレベルでの保身になるのです」

(『図書館革命』p90)

「場合によっては悪意より善意のほうが恐ろしいことがあります。悪意を持っている人は何かを損なう意志を明確に自覚している。しかし一部の『善意の人々』は自分が何かを損なう可能性を自覚していない」

(『図書館革命』p90)

 また、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まるという名目の「メディア良化法」が「拡大解釈」され、表現を書いた作者そのものを取り締まったり(『図書館革命』より)、メディア良化法が規制するNGワードを使わずに書かれた「公序良俗を乱す小説」が検閲の対象になったり(『別冊 図書館戦争I』より)と、「半歩先の未来」を巧く描いていると思います。

作中で書かれていましたが、「メディア良化法」が生まれた背景は、「本など読まない無関心な層」の賛成でした。

今回の都条例改正は、一部の勢力によって十分な議論がされなかったこともありますが、それと同時に賛成派の多くはこの改正を詳しく知らない層、漫画やアニメ、そして表現の規制についてに「無関心な層」だったのでは?と思います。(あくまで私見ですが)

そういった意味でも、『図書館戦争』は、「半歩先の未来」を描いていましたし、今回の法改正でまさに「すぐ目の前にある世界」になってしまいました。

作者は語る

再提出された改正案からは『非実在青少年』という文言は削除されたとのことですが、表現規制についての曖昧さはまったく改善されておらず、 青少年を守るという意義よりも、恣意的な表現規制の余地を可能な限り残そうとしている意図を強く感じます。引き続いて反対を表明いたします。

青少年保護をダシに表現を狩るかのような条例ではなく、本当の意味で「実在する被害者」を救済する案を強く望みます。(有川浩・作家)

拙著『図書館戦争』で、もし検閲が合法化されたらというナンセンスコメディを書いた。そのせいかこの問題を「リアル『図書館戦争』」と呼ぶ人もいるらしいが、私は予言者になりたくて『図書館戦争』を書いたわけではない。

悪影響があるかもしれないからと表現規制になりかねない策を打つのは、火事になるかもしれないからと火を規制するような極論だ。大切なのは火との正しい付き合い方を学ぶことである。

私の世代、読書は自由ですばらしい遊びだった。次世代以降も読書がすばらしい遊びであり続けることを願うばかりである。

都条例ふたたび(追記) - 有川浩と覚しき人の日記 - Yahoo!ブログ

心に響く言葉です。というわけで角川なのかAMWなのかわかりませんが、あるいは両方で出しても良いですが、はやく『図書館戦争』を文庫化して多くの人の目に触れてもらい、「表現の規制、検閲」について考えてもらうことが、都条例に対しての「表現物を出す会社」としての反論でもあるんじゃないかなー、などと思ったりしてます。

【ご参考】

『図書館戦争』をより楽しむための5W1H

『図書館戦争』と『華氏451度』

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*1:小牧と鞠江のエピソードはアニメ化にあたり真っ先にカットされました。詳細は以前フジモリも記事にしました。http://d.hatena.ne.jp/sangencyaya/20080605/1212655457

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2008-08-25

[][]『図書館戦争』シリーズが星雲賞を受賞

有川浩『図書館戦争』シリーズが昨年の優れたSF作品を選出する第39回星雲賞を受賞しました。

第39回星雲賞長編部門 図書館戦争 電脳コイル、20世紀少年も受賞アニメ!アニメ!より)

この調子で『図書館革命』もアニメ化してもらいたいところです。

2008-08-15

[][][]これにて、幕引き! 有川浩『別冊図書館戦争II』

別冊 図書館戦争〈2〉

別冊 図書館戦争〈2〉

 『図書館戦争』の外伝的存在である『別冊図書館戦争』のIIが発売されました。

 Iは堂上と笠原のイチャイチャバカップルぶり満載の一冊でしたが、今回は大きく分けて3つの物語が書かれています。

 「もしもタイムマシンがあったら」は、緒方副隊長のお話。本編では暴走する玄田隊長を陰から支える良識派キャラでしたが、そんな彼の過去の苦いエピソードです。「いま明かされる緒方副隊長の過去!」とでも言いたくなるほど驚きの過去だったのですが*1、今の彼を貫いている信念が当時の経験に基づいているのだな、と感じました。ビターなお話ながらも、含みを持たせたラストも清々しい読後感を与えます。

 「昔の話を聞かせて」は堂上と小牧の馴れ初め(笑)のお話です。「図書館戦争」での手塚と笠原の位置づけは、そっくりそのまま昔の小牧と堂上の位置づけでもあります。堂上が笠原を(いろいろな意味で)気になるように、小牧も手塚に対し様々な助言をしてきましたが、当時の自分と手塚を重ね合わせていたのかもしれません。

 「背中合わせの二人」は3話の連作短編ですが、手塚と柴崎の「その後」を書いたお話です。あとがきでも書かれているように柴崎は「一番のびしろのない」キャラだったのですが、それは他の登場人物と異なり「弱みを見せない」という彼女の精神に起因するものと思われます。「他人に頼らない」というのはある意味彼女の「弱点」だったのですが、今回の話ではまさにそこを突かれた格好になっています。作中で起こる事件ですが、あとがきで作者の夫が「後味があまりにも気持ち悪くてラストまでに相殺できんのでもうちょっとシアワセな描写を足してくれ」(p284)と言っているとおり変にリアリティがあり読んで若干不快感を感じました。確かにこの流れで最後「乾杯」で締められたら「図書館戦争シリーズ」の幕引きとしては甚だ欲求不満が溜まるものだったかと思います。そういう意味では最後のシーンはロマンスでありながらもベタ甘にならず、ある意味堂上と笠原よりも不器用な二人に相応しいエピソードだったと思います。

 ネタバレなしで語るのは大変苦しいですが(笑)、とにかくこれで「図書館戦争」シリーズも終了。別冊IIはIと異なりラブ要素は控えめでしたが(というよりむしろIが濃すぎた)、苦い過去あり、知られざるエピソードあり、不器用な恋ありとバラエティ豊かで楽しめました。若干ビターな1冊に仕上がっていますが、ミントのように爽やかな読後感が味わえ、「図書館戦争シリーズ」の余韻を存分に味わえる1冊でした。大満足です。

*1:自信ないですが、本編ではそういった記載って一切なかったはず

2008-07-09

[][][]個人ニュースサイトを「利用する」ということ

 ネットの海を巡回してたら『図書館戦争』に関して気になる記事を見つけたので少々ツッコミを。

そのいちー

おれたちは図書館戦争についてとんでもない思い違いをしていたのかもしれない - Drive Space 2.5D Maniax[↑B]

 コメント欄によればググって調べたりせずに書いた記事だとのことですが、これについては、著者自身が行政戦隊図書レンジャーとぶちまけていて、おまけに具体的なカラーにまで言及しています。勢いで記事を書いてしまう気持ちはよーく分かりますが(笑)、やっぱり何か書くときはググってからの方が安心安全だと自戒を込めて思います。

そのにー

酔泳ブログ?作家を目指して へら浮子 

 発禁本と図書館との関係については、シリーズ第2弾に当たる『図書館内乱』内の第3話『美女の微笑み』でテーマとして取り上げられています。そこで描かれている理念や考え方、作中での結論などについて異論や反論があり得るのは十分に考えられることですが、もしそうならそれをきちんと書けばいいだけのことです。

 にもかかわらず、「妄想」として反論可能性を回避しつつ勝手な結論をぶちまけるのは作品に対して失礼極まりない態度です。おそらくアニメだけ観て原作を読まないまま書いてしまったものだと思われますが、原作とアニメはときに別物だったりするのでやはり気をつけたいものですね(笑)。


 とまあ、こんなことはネットサーフィンしていれば特に珍しいことでもないのですが、にもかかわらず、この度あえて取り上げたのは、これらの記事がいわゆる個人ニュースサイトに紹介されて、たくさんの読者の目に触れたであろうことが推察されるからです。

 私の情報網など穴だらけですが(苦笑)、それでも確認できた限り、前者の記事はゴルゴ31さん、ふぇいばりっとでいずさん、後者の記事はカトゆー家断絶さんで紹介されていました。

 個人ニュースサイトは信用するな!というのはネットを楽しむ上では暗黙の了解というか常識だと思いますが、これらのケース、特に前者の記事については、はてぶやスターがたくさん付いてて少々驚きました。しかもそれが、『図書館戦争』という表現の自由と知る権利をテーマにした作品が対象となっているだけに皮肉な気がします。

 権利には義務が伴いますし、また権利を享受するのにもリテラシーが求められます。

f:id:sangencyaya:20080612213616j:image

 と、柊かがみさんも仰ってますが*1、これは何も漫画やアニメ、小説に限ったことではないですよね。

*1:『らき☆すた』(美水かがみ/角川書店)2巻p97より

2008-07-01

[][]図書館戦争の年表をまとめてみた。

図書館戦争 年表」でググってみましたが、ざっと見たところ見当たらなかったので作成してみました。

以下、ネタバレではないですが物語のイベントを羅列していますので未読者の方はご注意を。

基本的に小説内に年月の記載があるものを抜き出しています。

イベントページ
正化11年2月7日日野の悪夢 
正化26年10月4日笠原郁、王子様に出会う。1-33
正化31年4月? 笠原郁、関東図書基地防衛隊に配属 
6月25日笠原郁、関東図書基地図書特殊部隊に配属 1-71
図書特殊部隊特別訓練  
8月中旬野外行程。クマ事件。 1-74
教育委員会推薦図書の良化特務機関襲撃事件
連続通り魔貸出記録提供拒否事件
10月初旬『子供の健全な成長を考える会』事件 1-209
10月中旬『図書館の自主規制を考えるフォーラム』 1-223
11月初旬小田原攻防戦・稲嶺指令誘拐事件 1-278
11月23日笠原の両親来訪 2-8
正化32年1月15日小牧二正メディア良化委員査問会引渡し事件 2-100
1月18日小牧奪還 2-117
2月? 朝比奈、柴崎に接触 2-150
3月31日鳥羽館長代理更迭 2-140
4月第3週週刊新世相供述調書記載事件 2-167
7月上旬一刀両断レビュー閉鎖 2-243
7月中旬手塚兄弟、5年ぶりに再会 2-249
7月下旬?笠原査問会
9月笠原・手塚兄邂逅 2-341
正化33年2月? 昇任試験 3-62
5月? 香坂大地・週刊新世相訴訟事件 3-141
11月下旬茨城県展攻防戦 3-185
11月30日玄田三監、一監に昇進 3-329
12月14日稲嶺指令、勇退 3-335
正化34年1月敦賀原発テロ事件 4-8
2月下旬当麻事件・マスコミ連合形成 4-142
3月下旬当麻事件・行政訴訟開始 4-167
5月? 一審敗訴 4-167
6月? 控訴審敗訴 4-177
8月*1最高裁判決・当麻亡命事件 4-206
正化37年4月?エピローグ 4-329

別冊のエピソードは2が出てからまとめて追加します。

・・・しかし、こうやってまとめてみると、イベントそのものはすごく地味ですよね(笑)。

しかしながら、それを感じさせないエンタテイメントに仕上げる作者の筆力(豪腕?)は凄いなぁと改めて感心しました。

実際、日付のみ拾うつもりで読んでたのですが結局別冊含め5冊一気読みしてしまいました(笑)。

なお、この年表、ばしばしブラッシュアップしていきますのでご指摘事項あればコメント欄などでいただければと思います。

*1:『別冊図書館戦争I』p114より逆算。