『終戦日記』

大佛次郎
文春文庫
ISBN978-4-16-771735-3
昭和19年9月10日から昭和20年10月10日までの大佛次郎の日記。
大体のところ、別にありそうな戦争期の銃後の記録、という感じの本か。
日記なので万人向けの読み物という訳にはいかないが、いろいろと興味深いし、読んでみたいというのなら、悪い本ではないと思う。
全体の日記からこの時期のものを抜粋したのではなく、この時期だけの日記が残されていた、ということで、完全に私的な記録というよりはリアルタイム・ノンフィクションといった趣もあり、物価や世相の変化を捉えようというモチーフがあるらしくて些細な個人的事柄ばかり書かれているということはないし、日記でも読んでみようという程の人には、まずまずの本だといって良いのではないだろうか。
(文庫化にあたって、この時期に書かれた書簡とエッセイも付けられている。ちなみに、文庫化に際して、「敗戦日記」から『終戦日記』に改題されているのが、文春の文春たる所以なのだろうか)
大佛次郎が書いたこの時期の日記が読みたいと思うのならば、お薦めできる。ただし、日記は日記なので、過度の期待はしないように。
全体の傾向としては、物価上昇や世相人情の悪化が中心に描かれいて、「火垂るの墓」みたいな感じか(小説は読んでいないが)。というか、「火垂るの墓」は戦争による人情の悪化を描いた物語だったのだろうかと、本書を読んで初めて気が付いた。その他にも、空襲が激しくなる前の昭和19年の段階では、結構大本営の発表に一喜一憂しているとか、いろいろと興味深い。
日記なので、細かいことがだらだら書かれたものではあるし、詳しい説明がある訳でもなく、必ずしも万人向けの本ではないだろうが、読んでみようと思える人には、良い本ではないだろうか。
(例えば、のっけから、今年はうるう年なので季節の巡りが遅い、という記述があるが、何故そういう発想になるのか、当時そういうものだと考えられていたのかどうか、私には分からなかった。著者の兄弟仲も余りよくなさそうだが、どの程度だったのか、あるいは仲が良くてじゃれあっているだけなのか、私は知らない)
日記なので誰もが楽しめる読み物でもないが、興味があって読んでみようという人には、悪くはない本だと思う。
読んでみたいと思うのならば、お薦めしたい。