『近代科学の源流』

伊東俊太郎
中公文庫
ISBN978-4-12-204916-1
中世西欧科学史について書かれた本。
一応、タイトルにもなっているように、近代科学の源流を探るというモチーフはあり、完全に通史という訳でもないが、選択にあたっては、ほぼ通史、と考えておいた方が良い本か。
堅めだし、直線的にテーマが論じられているのでもないし、面白おかしいトピックスがあるのでもないので、必ずしもそう単純に楽しめる本でもないと思うが、中世西欧科学の通史で良ければ、読んでみても、というもの。
著者は、中世の科学が近代科学を準備し、アラビア科学が中世科学を準備し、ギリシャ科学がアラビア科学を準備したというが、そのギリシャ科学を、オリエントの科学が準備した点には全く触れられていない、とか、ガリレオの実験は再現不可能らしい、とか批判もできるが、中世西欧科学史としては、こんなものなのだろう。
読み物としてそう面白いものでは余りないと思うが、通史で良ければ、読んでみても、というところ。
読んでみたいのならば読んでみても、という本だろう。
以下メモ。
・まだ余りローマ化されていなかったイギリスにおけるキリスト教の布教は、ギリシャ・ローマの進んだ科学知識を同時に注入することによって行われたので、中世初期には多くの優れた知識人がイギリスから出た。カロリング・ルネサンスが、ヨークからアルクインを招くことによって巻き起こったのは、そのためである。
古代ギリシャの自然観では、神、人間、自然は同質のものだったが、中世ヨーロッパのキリスト教社会では、これらの間に、創造主である神と、被創造物である人間、更にその人間が利用するために創られた自然、という階層ができた。人間が自分とは異質の自然を支配し、利用することは、近代に入って登場した機械論的世界観によって貫徹された。