『越境の古代史 倭と日本をめぐるアジアンネットワーク』

田中史生 著
ちくま新書
ISBN978-4-480-06468-4
古代における倭や日本の対外交流史について書かれた本。
全体に、やや頭でっかちで理念に走りすぎるきらいがあり、著者が本書をどういう本にしたかったのか、何らかの訴えたいテーマがあったのか古代の対外交流史全般をまとめたものなのか対外交流史におけるいくつかのトピックスを描いたものなのか、私にはよく分からなかった。
いくつかのトピックスを繋げて、交流史全般をまとめ、そこにテーマを盛り込む、ということも、よほど巧くやればできないことはないだろうが、大概は虻蜂取らずに終わるのだと思う。
部分部分としては面白いところもあったが、全体としては余り良い本ではない。
特に薦める程のものではないだろう。

以下メモ。
・唐が成立すると、それに対抗するため高句麗百済で権力の集中を目指した動きが起こり、新羅でも内乱が起こった。蘇我氏が試みた権力の集中と、それへの反動(乙巳の変)も、こうした国際関係の文脈の上にあるだろう。
・唐の廃仏は、仏教信仰や留学僧のネットワークを土台とする日本、新羅、唐の交易関係に影響を与えた。新羅後期の混乱の中、日中貿易の中心は、朝鮮に違い山東半島周辺から、明州(寧波)等の江南地域に移動する。
・十二世紀になるまで、日中間の貿易で琉球を通るルートは積極的に利用されなったが、それは、この地域に安定をもたらす政治的な基盤がなかったからだろう。