『冬眠の謎を解く』

近藤宣昭 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431244-4
冬眠に関して研究してきた著者の研究生活を総括した本。
内容をともかくとすれば、著者がこれまで行ってきた研究の方法や内容がよくまとまっているし、現在判明していることから著者が想定する大胆な提唱もなされていて、体裁的には、良く書けている本だと思う。
ただし、内容的には、論理的に甘い部分があるような気がすること、まだ分かっていないことの方が多いように思えること、の二点から、やや微妙な本。心筋細胞の変化に冬眠全体を代表させているとか、シマリスの寿命実験に対する解釈がおかしいとか、説明が不十分なだけなのか、研究の実際では論理的な飛躍は当然のことなのか、それともこの著者の特質なのか、は分からないが。
悪い本だとまでは思わないが、取り立てて薦めるほどではない。
一般的には、概年リズムで濃度が変化するというHP複合体の作用機序が判明してから、くらいで良いのではないだろうか。
特に、というほどでもないと思う。
それでも良ければ読んでみても、というところだろう。

以下メモ。
・心筋細胞が興奮するためにはカルシウムイオンチャンネルが正常に動作することが必要だが、低体温ではこれが巧く働かなくなる。冬眠時のシマリスの心臓では、カルシウムイオンチャンネルではなく、細胞内の筋小胞体からカルシウムイオンを放出、回収することで、カルシウムイオンチャンネルの働きに替えている。
・冬眠中の動物は定期的に中途覚醒を起こしている。中途覚醒時に代謝産物の処理をしていると考えられるが、中途覚醒してすぐのジリスの脳波に深い睡眠時に現れるデルタ波が頻発していたことから、冬眠時には睡眠していないので睡眠するために覚醒するのだという説もある。
・冬眠時にはエネルギーが外に向かわず、生体機能の修復や再生にエネルギーを注ぎ込めるので、冬眠によって寿命を延ばせるかもしれない。