雑学エッセイ

『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』
セス・スティーヴンズ=ダヴィッドウィッツ 著/酒井泰介 訳
光文社未来ライブラリー
ISBN978-4-334-77055-6
ビッグデータ分析で分かったことなどについてあれこれ書かれた雑学エッセイ。
雑学エッセイなので雑学エッセイとしてはそれなりだが、それ以上のものはない。それでも良ければ、という本か。
まだまだ研究の途上ではあろうし。
特にというほどではない。あくまで雑学エッセイで良ければ、というところ。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

以下メモ
アメリカにおけるコンドームの販売個数は年六億個に満たないのに、アメリカ人異性愛者男性へのアンケート結果では年間十六億回コンドームを使ってセックスしていることになっている。
なお、アメリカの妊娠数から考えてその分コンドームなしでセックスしているわけではない。
・NBAで一流選手になるにはスラム街出身の黒人選手が有利だと思われがちだが、実際には中流階級で育った黒人のほうがなりやすい。
アメリカにおける新聞の保守-リベラルの論調は、販売地域に大きく影響される。つまり読者がそれを求めている。
・ネットは人々を分断するというが、実際には多くの人は同じサイトを見ている。
サブプライムローンに始まる大不況で児童虐待の数はむしろ減ったと報告されているが、パパに殴られた、などのグーグル検索数は上昇しており、単に報告数が減っただけだと思われる。
スーパーボウルは、出場したチームの地元では視聴率が高くなるが、スーパーボウルに広告を出した商品もチームの地元で売上が上がっていた。テレビCMに効果はあるようだ。
・暗殺によって指導者が変わった国家の前後を調べると、国の状態が変わる率が高く、指導者には確かな力があるらしい。

それなりに興味深いが

『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』
柿沼陽平 著
中公新書
ISBN978-4-12-102669-9
古代中国、秦漢時代の日常生活を描写しようと試みた本。
基本的に、興味深くはあるが、日常生活を紹介しただけなので、面白さは自分で見つけるタイプの本だと思う。それで良ければ、という本か。
秦漢時代に興味も前提知識もあって、曹操はこんなことしてたんだな、とか楽しめる人向け。
それほどでもなければ、それほどでもないだろう。
個人的にも、古代中国もやっぱり豚便所なのね、という以上のものはなかった。セックスの前戯としてでなく日常的にキスしていたかどうかもよく分からなかったし。
それで良ければ、という本だろう。

ルポルタージュ

『インド残酷物語 世界一たくましい民』
池亀綾 著
集英社新書
ISBN978-4-08-721191-7
基本的には、カースト差別などに苦しんでいる著者の知り合いのインド人たちに関するルポ。
割と70年くらいの左派ルポルタージュという感じの本で、そういうので良ければ、という本か。
別に再発明したわけではないと思うが、脈々と続いているのか、著者が特別にそういうのが好きだったのか。
集英社新書には多そうではある。
私なんかは、今どき70年左派ルポルタージュかよ、と思ってしまうが。
そういうのは気にならない人向き。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ
・インドにおいてジャーディーと呼ばれる職業ごとに分かれた集団は、バラモンやクシャトリアといったヴァルナとは必ずしも完全には適合しない。
・コンピューターエンジニアは、高給取りだが、現実には大卒で都市部出身の高位カーストであることが多いようだ。

スポーツノンフィクション

イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち』
澤宮優 著
KADOKAWA新書
ISBN978-4-04-082397-3
イップスに罹った選手たちに取材したスポーツノンフィクション。
全体的にはありがちなスポーツノンフィクションであり、それで良ければ、という本か。
ありがちといって悪ければ水準クラスの。
特にそれ以上というものはないが、ひととおりのスポーツノンフィクションではある。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ
・スポーツをやったときのうまくいった手ごたえというのは、結局は脳が想像しているにすぎないから、手ごたえを求めるのはよくない。

研究報告として面白い

『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』
幸田正典 著
ちくま新書
ISBN978-4-480-07432-4
動物行動の研究者が自分の研究を紹介した本。
基本的には面白く、興味があるならば読んでみても良い本だと思う。
違う解釈はありうるかもしれないが。
研究報告として面白い。
興味があるならば読んでみても良い本だろう。

以下メモ
・魚のような原始的な脳に新しい脳が加わっていって最後に大脳新皮質が発達した、というマクリーン仮説は、現在では修正を迫られている。
古生代の肉鰭類の化石でも、現生人類と同じく脳から12本の脳神経が出ており、脳のスタイルそのものに大きな変動はなかった。
・なわばりを持つある種の魚でも隣になわばりを持つ個体に対してはそこまで攻撃的でない。
合成画像に対しても魚は攻撃的になるが、隣のなわばりの個体の顔を張り付けた合成画像に対してはそこまで攻撃的でない。
魚は顔を見て個体を判別しているらしい。
・ホンソメワケベラに合成画像でなく鏡を見せると、最初は他の個体に対するように攻撃しようとするが、やがて慣れてくるとそれがなくなる。
鏡に慣れたホンソメワケベラに麻酔をかけ、ノドの部分に寄生虫にも似た茶色いマークを付けると、ホンソメワケベラは自分のノドを岩にこすりつけた。
寄生虫を取ろうとしたのであり、鏡に映った魚が自分であると認識していることになる。

細かいのにまとめ

『三好一族 戦国最初の「天下人」』
天野忠幸 著
中公新書
ISBN978-4-12-102665-1
三好氏について書かれた本。
個別研究というよりは新書レベルの簡略なまとめで、三好というマイナーな氏族を扱っている割にそれはどうなのというチグハグさはややあるが、戦国ガチ勢向けにはこれもありか。そうしたもので良ければ、という本。
じゃあほかにやりようがあるのかといえば、こうなるのだろうし。
好事家向け。
よく分からない人が楽しめるような本ではない。
この人誰だっけ、みたいな部分は結構あるし。
戦国好き向けのまとめ。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ
・永禄の変は、三好義継が足利将軍家に成り代わることを企図して起こしたものだろう。
・その後、三好三人衆と分離した松永久秀らは足利義昭を中心とした連合に加わったのであって、信長に臣従したわけではない。

カウンターカルチャー批判

『反逆の神話〔新版〕 「反体制」はカネになる』
ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター 著/栗原百代
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050580-6
カウンターカルチャーを批判した本。
内容的には、カウンターカルチャーフロイト的にルールを押し付けであるとみなして全面拒否するが、そんなことを言っていたらルールを変更したりすることもできないじゃないか、と批判したもの。
カウンターカルチャーについての説明が面白かったので、興味があるならば読んでみても、という本か。
批判そのものとしては、6:4か、せいぜい7:3くらいであってるか間違っているものをゼロかイチかで語りたがっているという印象は受けた。
程度問題じゃないのという気はする。
が、著者はカウンターカルチャーに対して程度問題だと言いたいかもしれない。
あと、技術的な面として、ある文章を、著者が実際にそのように考えて主張しているのか、過去にそのような主張があったのか、または揶揄やからかいのためにデフォルメしてそう書いているのか、分かりにくい部分があった。
それを理解し弁別する文脈を私が有していない、ということではあるのだろうけど。
若い読者にそんな前提知識を求めるのはさらに厳しいのでは。
全面的に良い本であるとは評価できない。
カウンターカルチャーについてのまとめとしては面白かったので、そこに興味があるならば、というところ。
それでも良ければ、という本だろう。

以下メモ
カウンターカルチャーは、すべての社会制度やルールは上からの押し付けであるとして文化的な抗争を開始するが、文化的なものとは結局稀少的なものであるから、カウンターカルチャーは上下の構造そのものを壊すことはできない。
クールであるためには、ダサいものがなければならない。
趣味のいい人間とは、それだけの余裕のある上流階級の人か、上流階級に都合のいい人である。