『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』

センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール 著/大田直子 訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050483-0
欠乏に関して、それが人に引き起こす影響やその結果について考察した社会科学読み物。
基本的に結構面白い本だった。
内容は要するに、欠乏は人の精神に負荷をかけ、普通思われている以上に人の処理能力を低下させる、ということだろうか。
そうしたものでよければ、お薦めできる本。
遠足の当日になって帽子がないと騒ぐ子どもに対して何でもっと早く準備しておかないのと叱る親のように、対策はあまりなさそうではあるが。
いろいろと一通り考察してあるので、よい本だと思う。
お薦めしたい。

以下メモ。
・欠乏によって、人はその欠乏していることに集中するが、それ以外の重要だが喫緊でないことを考慮の外に置いてしまう。
・同じ人でも欠乏を意識させると、(それ以外のことについての)処理能力がIQ換算で10以上落ちる。IQの標準偏差が15であることを考えれば、この落差は大きい。
愚鈍は貧困の原因ではなく結果である、かもしれない。貧すれば鈍する。
・欠乏するとトレードオフが必要になり、人はその考察に追われる。
・金持ちよりも貧乏な人の方が、トレードオフに慣れているので、お金の価値に詳しい。
・セント・ジョンズ地域医療センターでは、長年手術室の不足に悩まされていたが、手術室の一つを空けておくことによって、この問題を解決した。
急患の手術をその手術室で行うことで、予約された他の手術室での手術は予定通り行えるようになったからである。
・長い時間働かせれば効率が下がるので、長時間労働は経営者にとって得策でない。
・何かを制限したり限られた食品を食べるダイエット方法は、トレードオフを考えることが少なくなるので、心理的には有効度が高い。