8.5.サウンドデモ

 8月5日、サウンドデモ、参加してきました。
http://sounddemo.nobody.jp/
すでにいろいろ報告が出ているようです。
http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/20060805/p1
http://d.hatena.ne.jp/Dryad/20060805#p1
http://d.hatena.ne.jp/KGV/20060805/1154780312
http://d.hatena.ne.jp/bullet/20060805#p2
 中でも、最初に読んだ杉田俊介さんのものが大変興味深かったので、そちらを適宜引用させていただきながら書いてみたいと思います。

 一つだけこうしよう、と思っていたことがあって、デモには「参加」せず、「見学」しよう、と。ずっと付かず離れずで「併走」というスタンスを取ろう、そこから見えてくるものを見よう、と。いかにも中途半端で、無責任ではある。我ながら中途半端な自意識過剰めいていていやにもなる。しかし、最初から、見学するならそうしよう、という思いだけは動かないで腹の底にあった。
http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/20060805/p1

 私はあまり躊躇なく中に入りました。併走というスタンスも面白いと思います。出たり入ったりが一番いいのかもしれませんが、後で言うようにそれはできないということがわかっていたので、中に入りました。

 少し離れたところからデモを眺めると、警察・公安の人々によるデモ行進にしか見えません。デモ参加者より、警察・公安の人々の方が、数がずっと多いんだもの。装甲車?とかがさらにそれを取り巻いている。周囲からは、場所によっては、肝心のデモの人々の姿もあまりみえない。どうやら、デモ参加者と一般の通行人を、出来るだけ完全なかたちで遮断=隔離してしまう方針のようだった。驚いたんだけど、デモのビラを通行人に配ることも、警官たちは禁じていた(これはどういう法的根拠があるんだろうか?)。直接叩くのではなく、ゾーニングしていく、ってことかしらん。実際、警官や車に取り囲まれているので、通行人やあとから合流した人々がデモに途中参加することはできないし、参加者から聞いたところ、途中でデモから抜けることも許されなかったのだという。

 私も、警官がビラ配りを妨害する場面、何度もはっきりと目撃しました。もちろん、法的根拠なんてない。まあデモの時に警官が法的根拠があることをすることの方が珍しいのかもしれませんが*1。デモ途中から入ることも途中で抜けることも禁止する、という、これも法的根拠など全くありえないムチャクチャ*2についてですが、警官隊の指揮をしていたたぶんちょっと偉い警官がこう言っているのをはっきり聞きました(5時ごろ)「入れさせなきゃいいから。入れさせなきゃいいから。」

<「入れさせない」をやっているところ

 私は結構後ろの方にいたのですが、それこそ「併走」する警官たちの様子が、なかなか面白かったです。併走するのはほとんどが20代と思われる若い警官たち。それに、50ぐらいの警官が時々指示を出していました。そのほかに、警官同士でお互いにこんな掛け声を上げていました。
「きせいせん守れ!」
「きせいせん」と言えば、実家が和歌山なのでつい紀勢線を思い出しますが、たぶん「規制線」なのでしょう。「等間隔、等間隔!」ともよく言ってました。つまり、彼らとしては、警官が等間隔に並んで、歩道側と車道側から、デモ隊の両側をサンドイッチして歩く、という形が理想だったのでしょう。しかし、規制をするため(つまり出入りさせないため)には立ち止まらなくてはいけない。というわけで、デモ隊から遅れをとるので、しばしば「規制線守れ!」の掛け声で、デモ隊に追いつくため警官たちがこんな風に歩道を走る場面がありました。歩道の通行人にぶつかりそうでとても危なかったです。

 ちなみに、私は後ろの方でわからなかったのですが、id:Dryadさんによると、デモ隊の前を走る警察の車は、こんなことを言っていたようです。

ご通行中の皆さん、ただいまデモが通過しております!このデモはたびたび路上に立ち止まるなどして皆さんの通行を妨げており、仕方なく我々が隊列の整理に当たっております!交通を円滑に進行させるため、皆さんのご協力をお願いいたします!
http://d.hatena.ne.jp/Dryad/20060805#p1

 警察の事前の不当な「規制」に関しては、ここに貴重な記録があります。
http://sounddemo.nobody.jp/j/reclaims.html
 杉田さんは、通行人たちの言葉を書きとめていらっしゃいます。これも、「中」にいた私にはまったく聞き取れなかったものですが、なかなか面白い。ライブ会場で、MDを置きっぱなしにして自分のライブを録音していたら、客が酷評している声がたまたま録音されていた、ということがあるのですが(本当)それに近い感じ(笑)

 ○「なにやってんの?よくわかんなくね?」(10代後半くらいの男性、数名のグループ)

 ○「フリーターだってよ(笑)」(20代前半くらいの男性、数名のグループ)

 ○「(…)ちゃんと働いている人のじゃますんなって感じ」(中学生くらいの女の子、二人連)

 ○「フリーター?俺たちもなるかもね。ハハ」(20代前半くらいの男性、数名のグループ)

 ○「なに?お祭り?」(30代くらいの女性)

 ○「珍しいものみれてよかった」(20代中盤くらいの男性、たぶんオタク系グループ)

 ○「働かなくても金くれってこと?ありえなくね?」(20代男性、カップル)

 ○「じゃまくせーなまじで」(小学生くらいの女の子、グループ)

 ○「うざいんですけど」(10代後半くらいの男性、グループ)

 ○「…プレカリティ……プロレタリアート……」(南米系の外国人、夫婦?、ビデオ撮影しながら)

 ○「えっと、フリーターっていうのは…」(電気店の若い男性店員と、売り子さんらしいアンナミラーズ風のピンクのメイド服を着た女性が、背の高い外国人男性に、デモの説明をしていた)

 しかし、この通行人の反応、私としてはちょっと予想外でした。というのも、

なんですか、プレカリアートなる珍妙な造語は。首都圏ノンセクト+若手左派アカデミシャン界隈が嬉々として使っているのを見るたびげんなり。なんでも、「不安定な」という意味のイタリア語とプロレタリアートをくっつけた造語だそうですが、著しく語感の悪いカタカナ語を振り回すのが国際連帯ですか?
http://d.hatena.ne.jp/johanne/20060805

 という声もあるとおり、プレカリアートっていったって、「普通の」人にはなんのことやらわからないだろうし、人のこといえないけど、プラカードもほとんどなく(追記:後ろの方にいたからわからなかっただけで前の方にはあったのかも*3)、アジテーションも何いっているかほとんどわからない状態では、はたから見て、一体何のデモなのかほとんどわからないのではないか、と思ったからです。まあ別にわからなくてもいい、異様なやつらがいっぱいいるところを見せればいいんだ、という考え方もあるんでしょうが。しかし、「働かなくても金くれってこと?ありえなくね?」という感想を述べた20代男性、カップルは、このデモの「本質」を瞬時に見て取ったということですね。すごいわ。
 ちなみに、若手左派アカデミシャン(笑)は、いたのかなあ。いなかったんじゃないかなあ。私の近くで、白石嘉治さんがふらふら歩いているのは見たけど。
 で、再び杉田さん

 あと言葉には乗らない動きとかも当然色々あって、通行人の視線も気にしながら歩いていたのだけれど、全般的に、10代後半くらい〜20代くらいの男性たちは、否定的・冷笑的な感じではなく、どちらかというと興味深そうにデモをみていた。それと、様々な外国人(だと思う)人々が、かなり真剣な感じでデモを眺めていたのが、印象に残った。

 これは私も思いました。特に秋葉原で、道の反対側から多くの人がかなり興味深そうに見ていました。こういう視線は、いままでのサウンドデモではあまりなかったように思います。

 デモに参加している人々の全体の印象は、「百鬼夜行」って感じだった。年齢も性別も容姿もかなりばらばら。いかにも活動派風の男女もいれば、年老いた人も、車椅子の男性も、メイド服・ゴスロリ・浴衣を着た女性なんかも中には混じっている。そのバラバラな感じがなんともいえない。悪くない感じだ。みんな身体の動き方が変な人が多く、ビール飲みながらだらだら歩いてる人もいれば、くにゃくにゃと体をくねらせながら歩くメイドのお姉さんもいて、それも全然統一感がなく、これもなかなか悪くない感じだ。

 確かにそうですね。ただ、「いかにも活動家風」はあまりいなかったような気がしますが。ヘルメットにタオルスタイルは、あれはパロディーじゃないかなあ……。私は車椅子の男性のすぐそばにいたのですが、一度、警官が邪魔になって車椅子がちょっと止まってしまった。そのとき、その警官はニコっと言う笑みを浮かべて、体をよけると、「どうぞ」とばかりに手を進行方向にさしのべていた。「車椅子の方にもやさしい市民に愛される警察官」という身体が、瞬間的に現れたのかな、なんて思ってちょっと面白かった。

 で、音楽はともかく、拡声器での主張が、これも人によってずいぶん口調やら内容も違ったようなんだけど(っていうかあんまり聞こえなかったんだけど)、一つだけ言えるのは、これは確かに、いわゆる「左翼的なアジ」っぽい内容の言葉は、デモのあり方(身体)そのものと、ずいぶんずれているな、マッチしていないな、という気はどうしてもした。別にいわゆる左翼批判をしたいとも思わないんだけど(これは今時誰でもいう)、実体とそれを表現=代表する言葉のあり方がくいちがっていたのは事実だと思う。そもそも、いわゆる左翼系の人々の声って、なんであんなにうるさくて、耳障りなんだろうか。自閉症精神疾患系の人が確実にいやがるだろうっていうか。
 たぶん、こんな百鬼夜行的なデモ行進のありかたを「表現」する言葉のスタイルは、参加者のひとたちはまだつかんではいず、今後色々と模索されていくだろうものなのだ。

 これに関してですが、これは難しい問題だと思います。杉田さんがおっしゃる「言葉のスタイル」とか「言葉のあり方」の問題、たしかに、わからないでもないのです。しかし、「うるさくて、耳障りな」「左翼系の人々の声」という問題については、ちょっと気になるところもあります。というのも、「何かを大きな声で叫ぶ」と、(ある人にとっては)「うるさくて耳障り」になるのは、ある意味で仕方ないのではないかな、とも思うのです。それは、必ずしも左翼特有の問題ではないと思う。そして、私も、いろいろなスタイルがあっていいと思うから、静かなスタイルのデモ、だってあっていいと思うけど、思いはするのですが……しかし、はたして「叫ぶスタイル」を完全に取り除いたデモというのは、デモといえるのか?とちょっと思わないでもない。杉田さんは「いわゆる左翼系」という言葉で、何か特定のイメージを喚起されていると思うのですが(たぶんそれは60年代、70年代の日本の「新左翼」のスタイルなのだと思います)しかし、「何かを街頭で叫ぶ」というスタイル自体は、実際はもっと「普遍的な」ものなのではないかな、と思います。それこそ「パンよこせ〜」とか、もう何百年、何千年、何万年?前からある「伝統」なのではないだろうか。それを、特定のスタイルに対する忌避観と一緒くたに捨て去ってしまってもいいものなのだろうか?という迷いが私にはあるのです。よく、デモのシュプレヒコールに違和感がある、と言う人がいるのですが、そういう意見そのものに対する微妙な違和感が、私にはあるのですよね。
 ただ、拡声器を用いるということに関しては、ここ数十年レベルのことでしょう。そして、拡声器の音がとりわけ不快だ、という人もいるでしょう(中島義道センセとか)。しかしそれも、警察が拡声器使っているわけだし、街中にスピーカーの音はあふれているわけだし、仕方ないのではないか、とも思います。まあとりあえず、今回使われていた拡声器が音が割れていてとても聞き取りづらかったかも、というのはいえるかも。個人的にはそれが「いかにもでいい」と思いましたけど。(追記:書いたあとで気がついたのですが、これについてはのざりんさんも http://d.hatena.ne.jp/x0000000000/20060806/p1で書かれています。)
 ところで、「いわゆる左翼系」と言ってたぶん多くの人がイメージする、60年代、70年代の日本の「新左翼」のスタイルは、大変ユニークだったのだと思います。私なんかは、そういうスタイル、ユニークで「面白い」と感じなくもないんだけど、逆にそういうスタイルに対する拒否反応を示したり、嫌悪感を持つ人も大変多い。しかし、そうした嫌悪感自体が、言ってみれば「誘導」された可能性もあるのではないかな、と思います。この本のことはそのうち書きますが、『戦争の克服 (集英社新書)』(集英社新書)の中で森巣博はこう書いています。

言葉の置き換えによる言論誘導といえば、「過激派」もそうでしたね。1960年代末に、いわゆる新左翼集団をひとまとめにして過激派と呼ぶようになりました。「エクストリーミスト」を「過激派」と翻訳しただけで、当時、電通は三億円もらったと言われました。それまでは、反日共系全学連××派とか三派系全学連○○派とか個別に呼ばれていたのですよ。それは穏健派も暴力革命派もふくまれていたので、いっしょくたにできない集団でした。しかしそれでは取り締まる側に不都合なわけです。それで、「過激派」というレッテルを作り上げました。これなら、全員パクれる。一斉検挙が可能となった。(p.111)

 非常に残念ながら、どういうわけか音が録れてなかったのですが
http://www.youtube.com/watch?v=X5EkuLz1Byc

 このとき、メイドさんが「メイド喫茶は、時給を上げろ〜!」とシュプレヒコールをあげてました。
 パロディーでもあるこういうスタイルは、全然あっていいんじゃないかと思います。
追記:
成城トラカレさんに紹介していただきました。ありがとうございます。ただ、杉田さんのほぼ全文引用してコメントしただけで、あまり「まとめ」エントリーになってない気もするんですけどね(笑)
 あ、それからデモ終了後ですが、一時間ちょっと歩いただけですっかり疲れてしまい(体力の衰えか?……)後の集会は出ずに帰ってきてしまいました。そういえば終了間際、桃色ゲリラが子供をつれて合流していた。

*1:そういえば以前ここのコメント欄でちょっと論争になったことがありました。

*2:ちなみに、こういう規制は、サウンドデモなど特定のデモでだけ行われます。

*3:しかし、後ろの方のプラカードは、ヨーロッパで使われているらしい「聖プレカリアート」だかなんだかの写真があるだけの、それこそ「わかる人にしかわからない」やつも結構あって、それはどうかな、と思った。