87歳と39歳の優しい関係

「戦争なんて本当に愚の骨頂ですよ、やるもんじゃない。
おっかないですよ。未だに戦争の爪あとは残っているじゃ
ないですか」

先日亡くなった落語家・桂歌丸さんが、昨年のTBS「報道特集
で語っていた。

またひとり、戦争を知っている方が旅立った。ご冥福を祈る。
合掌。

『大家さんと僕』(矢部太郎[カラテカ] 新潮社)読了。

小説新潮」で連載されていたのは知っていた。でも、雑誌自体を
買わないし、立ち読みが出来ないタチなので「いつか1冊にまとま
らないかなぁ」と思っていた。

昨年、期待通りに単行本になり、早速購入したのだが読む機会を
逃して積んでおいたらなんとっ!第22回手塚治虫文化賞短編賞を
受賞した。

昨今、お笑い芸人が畑違いの分野で活躍しているが、本書の作者で
ある矢部氏も「カラテカ」というお笑いコンビの片割れ。

彼が以前住んでいたマンションの更新を断られ、不動産屋に紹介され
た物件は1階に高齢の大家さん(女性)が住む一軒家の2階。

その大家さんとの交流を描いた漫画エッセイである。引っ越し当初は
距離の近さに戸惑ったものの、不器用ながら大家さんと接する作者の
姿はそのまま人柄が反映されているのだろうな。

そして、大家さんなのである。高齢女性のひとり暮らし。挨拶は
ごきげんよう」。お買い物は伊勢丹。若かりし頃の船旅の写真。
和室なのに脚付きの家具。「少しだけ結婚」していた過去。

矢部氏との会話の中でちらりと見える彼女の過去に、読み手も想像力
が広がる。

絵柄もあって、全体的にほんわかした温もりを感じる作品だった。
大家さんと僕以外に、時折登場する後輩芸人などのキャラクター
の面白さもいい。

テレビのバラエティ番組で見掛ける矢部氏は、どことなくぱっと
しない(失礼)けれど、こんな才能があったのね。