カール・G・ヘンペル『自然科学の哲学』(3章―仮説のテスト:その論理と力)

(1-2章)の続きで概要のメモ.といっても実は,本書に書かれていない事柄(id:satio12345の勝手な解釈と思い込みによる水増し)が断りもなく含まれているので注意.

実験的テストと非実験的テスト

仮説のテスト含意は,通常以下のような条件文として表される.

もし条件Cが実現されれば,事象Eが起こるであろう.

そして,

  • 実験的テストとは,Cを人為的に実現させてその際Eが起こるか否かを調べるテストのことである.
  • 非実験的テストとはCが自然に実現されている状況をさがして,その際Eが起こるか否かを調べるテストのことである.

自然科学の著しい特性の1つは,仮説の多くが実験的テストにかけられるということである.しかし,より狭い範囲においてなら社会科学でも実験的テストは用いられるし,また自然科学といえどすべての仮説が実験的テストにかけられるというわけではない*1

他の条件は同じにして(other things being equal)

「気体の体積Vは温度Tに正比例する」という仮説に対して実験的テストを行う場合,(他の条件は同じにして)Tの値だけを変化させたときにVがどのような値をとるかを調べなければならない.「他の条件は同じにする」という配慮を怠った場合,「VTに正比例しなかった」という実験結果が出たとしても,VT以外の変数に影響された可能性があるため仮説の反証にならないのである*2

しかし,「他の条件は同じにする」ことなど実際には不可能だろう.上記の例でいうならば,磁場の強さや実験室の照明の明るさなど,その仮説に関係がないと思われる因子については最初から配慮されない.その代わりに,「仮説に関係のある因子についてのみ,1つを除いて他を一定に保つ」というのが実際なのである.そしてこのような場合,ある重要な因子が見過ごされているかも知れない,ということは常に可能なのである.

決定的テスト(crucial test)

同一の事柄について抗争しあう2つの仮説H_1H_2がある場合,どうやって決着をつけることができるだろう? 答え:これら2つが,互いに矛盾する結果を予測するようなテストがあればよい.

すなわち,あるテスト条件Cについて,

  • H_1E_1を予測し,
  • H_2E_2を予測し,しかも
  • E_1E_2は互いに相容れない

のであれば,Cが実現してその結果がE_1であるかE_2であるかを見るようなテストが1つあればよい.このようなテストのことを決定的テストという.

擬似仮説(pseudo-hypothesis)

万有引力について,以下の「仮説」が主張されたとしよう.

  • 引力は愛である.物体が引き合うのは,他の物体に触れて一緒になろうとしているからである.
  • 引力は憎しみである.物体が引き合うのは,他の物体に衝突して破戒しようとしているからである.

あきらかに,どのような経験的現象ともこれらの命題は関係がない.経験的意味を有する,いかなるテスト含意も導くことはない.それゆえ,これらについてその真偽を問うことに意味はないのである.このような見せかけだけの「仮説」は,疑似仮説といわれる.

*1:例えば,1919年の日食の際にエディントン調査隊が行った観測は,アインシュタインの重力理論に対する非実験的テストであった.

*2:この例でいうと,実際Vは圧力Pにも影響される.