my private best discs 30 2014 pt.1

年の瀬ですので、じわじわと個人的な30枚を振り返っていこうと思います。例年にも増して、世界中の音楽と、その音楽を巡る民族性、歴史、文化連関性について想いを馳せることが多かったのと同時に、暗黙の共通言語がなくなってゆく中で、それでも、豊かに新しい音楽が芽吹いてゆくのを体感しました。

ランキングという訳ではないものの、少しずつ披瀝していけましたらと思います。

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30,THE BOTS『Pink Palms』

Pink Palms

Pink Palms

初期のアークティック・モンキーズを思わせる鋭角的でバウンシーなロックンロールをLAの若干20歳、17歳という若さの兄弟が躊躇いなく奏でているというポイントもあるのですが、そこがパスティーシュでもなく、とてもクールで、契機が巡れば、ユースのみならず、幅広く受け入れられてゆくのではないかと思います。

EPに入っていましたこの曲のような、3分ほどで終わる衒いのなさ、アフリカン・アメリカンとしての佇まいとシャープなセンスに至るまで盤石過ぎるようなところも感じながら、フル・アルバムではビートを落としたR&Bみたいな曲からガレージ・ロック、ゴリゴリのハードコアまで、今の世代ならではのできることを目いっぱいしようとするアティチュードと、背伸びしていない過度なプロダクションに依らないところも良かったゆえに、“これぞって一曲”を期待してしまいます。

29,SKY WALKING『Sky Walking』

SKY WALKING

SKY WALKING

いつかのポスト・クラシカル系のサウンドの一部がより環境音楽と融和し、アンビエント・ミュージックと共振してゆくかのような音風景を求め出した趨勢は興味深かったですが、今でも良質なディープ・ミニマルなどをリリースしていますドイツのハンブルクのレコード・ショップ、レーベル〈Smallville Records〉のローレンス、その彼が主宰する〈dial〉の気鋭の音楽家、クリスチャン・ナウヨクス、そして、多様なトラック・メイキングには定評があるRichard Graf von der SchulenburgことRVDSが組んだトリオ、SKY WALKINGはポスト・クラシカル的に、そこに淡い色彩とストーリー性を、即興的に織り込んだような美しい作品でした。ミニマルに音が絞られているようで、鳴っている音の粒は奇妙ながら惹き付けられるものや、アルバム総体として響く何かがありました。トリオ名がセオ・パリッシュの佳曲から取られている点も含めまして、実験的なプロジェクトなのかもしれませんが、断続的でも続いてほしいものです。

28,NOVEMBERDECEMBER『From The Swing,Into The Deep』

From the Swing Into the Deep

From the Swing Into the Deep

メロディーセンスが良く、いつの時代もこういった音には魅せられます。デンマークの五人組ですが、巷間では、昨今のオブ・モンスターズ・アンド・メンなどの北欧インディーフォークの新しい世代とカテゴライズされてもいるものの、彼らの場合はもうトラディショナル・フォークの要素もひとつとして、ポップ・ミュージックの強度を感じさせます。曲によっては、ダニエル・パウターザ・フライ辺りとの柔らかな温度と近似もおぼえ、澄んだサウンドと、ハーモニーの麗しさまでポテンシャルも高そうです。

27,BECK『Morning Phase』

Morning Phase

Morning Phase

『ソング・リーダー』も素晴らしかったのですが、個人的には今作を。よりレイドバックし、ソング・オリエンティッドになった、02年の『Sea Change』の連作的な在り方も当然、看過できないでしょうが、同時代性を越えた、”普遍性”に向かっているという意味では今作は、この先もずっと伝承されてゆくような気がします。豊潤な音楽的なルーツを彼らしく丁寧に紡ぎ、初めから老成しているようなあの、しわがれた声で疲弊、憂鬱、別離などの重いテーマを歌う、そこに雅やかなストリングスが入ってきましても、今年の二ール・ヤングが『Storytone』で試みた内容と比してみましても明瞭でしょうか。双方とも「うた」の中に孤然たる感情が静かに靡いている、そんなところが2014年という混沌たる1年に通奏低音として流れていたような想いにもなります。正誤なく“伝わるうた“が溢れる中で、”伝え(ようとす)るうた“のひとつとして。

26,PLASTICZOOMS『SECRET POSTCARD

SECRET POSTCARD

SECRET POSTCARD

聴いていてワクワクする音楽という意味で、彼らのポスト・パンクニューウェーヴをルーツにした上で、ディスコ的な煌びやかさを纏っていましたこのアルバムのユーフォリックなヴァイヴは時代錯誤性よりも、SHO ASAKAWA、また彼らの来し方を思いますと、よりグッときます。無論、ここで彼らに初めて出会っても問題ないくらい、一気に方向転換したという訳でもなく、インタビューでも“キラキラしてて、パンク“という言葉が出ているように、今、パンク的な音は決して鋭角的な何かを意味するばかりではないとしたら、これらの音も現今のミュージック・シーンへのカウンターであり、同時に、PLASTICZOOMSという存在がもはやカウンター的なものではないというのを示したような作品だと思います。