Helveticaについて

注)これは2004年頃にまとめたもので、まだ調べ切れていない箇所が多々ありますがそのまま掲載します。微修正は追々ということで。
追記情報)2009年3月20日:参考文献を追加。

Helveticaの語源
スイスの正式名称であるラテン語名『Confoederatio Helvetica』に由来。『Helvetia』からの由来とする文献もあるが、これは古代ローマ時代にスイスに住んだケルト系ヘルヴェティア族を指し、『Helvetica』とはヘルヴェティアの連合という意味。*1
開発年
1957年
開発元
Haas’ sche Schriftgiesserei社
所有元
1. Haas’ sche Schriftgiesserei社 ―1927年D.Stempel社へ自社株一部売却、1989年Linotype社の管轄下に
2. D.Stempel社 ―1985年タイプ部門はLinotype社へ吸収
3. Linotype社 ―1985年D.Stempel社タイプ部門の吸収によりD.Stempel社が所有していたHaas社の持ち株を取得
4. Linotype-Hell社 ―1990年Linotype社とHell社が合併
5. Linotype Library社 ―1997年Linotype-Hell社がHeidelberg社の子会社になり名称変更
6. Linotype社 ―2005年Linotype Library社から名称変更
7. Linotype社 ―2006年Monotype Imaging社の子会社に*2
開発背景
それまでのサン・セリフ体への不満
1950年代以前までは、広告見出し用や名刺などの端物印刷物のみで、本文用書体までの広範な領域で使用できるサン・セリフ体がなく、また1920年代から1950年代初頭までは、幾何学的なサン・セリフ体が主流であった。しかし高度な抽象化によって視覚上の修正をせずに済ますという構成の極端な厳しさ故に、特に小さな字では判読性が悪く、またローマン体がもつ生き生きとした雰囲気や自然な手の動きが感じられず、敬遠されるようになった。そしてまた幾何学的・抽象的な原理が模倣され形骸化していったこともあり、それに代わる新しいサン・セリフ体が求められた。

スイスとデザインとの濃密な関係
スイスは公用語が4ヵ国語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語*3)あり、また第二次大戦時は中立国であったため、周辺国からの亡命者(多くのデザイナーを含む)が押し寄せ多言語を扱う機会が多くなり、同一紙面上にこれら複数の言語で文字を組んだとき、各国語の表情が均一になるように配慮されたタイプフェイスが求められていた。そして第二次大戦後、グリッド・システム*4の理論に沿って、テキストと写真の構成方法が生まれ、それに伴い書体の単純化、合理化が推進されるようになり、それに見合う書体が求められた。

開発元の競合先への対抗
Haas社は、Berthold社が出したBerthold Akzidenz-Grotesk*5にシェアを奪われたため、新書体の開発に迫られていた。
Neue Helvetica(([http
//www.linotype.com/1266/neuehelvetica-family.html:title=Linotype社website]を参照。)):1957年の発表以来、Helveticaは様々なバリエーションが開発されてきたが、お互いのデザインの整合性が合わなくなり、また様々な企業で製作された他、活字版、写植版などに無作為に拡張されてきたため、収拾がつかなくなった。
そのため、1983年にD.Stempel社が再デザイン・デジタル化し、Linotype専用書体として発表された。
開発者
マックス・ミーディンガー(Max Miedinger)*6
開発者略歴
1910年 スイス チューリッヒ生まれ
1926-30年 チューリッヒにて植字技能を学び、その後チューリッヒ工芸専門学校(現チューリッヒ工芸大学)*7の夜間授業にて学ぶ
1936-46年 チューリッヒのグローブス・デパート広告スタジオにて植字工として働く
1947-56年 Haas'sche Schriftgiesserei社の顧客カウンセラーおよび書体販売代理人
1956年以降 チューリッヒにて、グラフィックアーティストとして独立
1956年 エドアード・ホフマン(Haas社のディレクター)より、新しいサン・セリフ体の制作を依頼される
1957年 Haas-Grotesk書体発表*8
1958年 Haas-Grotesk Roman(またはNormal)発表*9
1959年 Haas-Grotesk Bold発表*10
1960年 Neue Haas GroteskからHelvetica*11へ書体名を変更
1980年 死去


:参考文献
Linotype社website
デザインの現場 小林章の「タイプディレクターの眼」 : 書体は特定の国の雰囲気を持ってるの? その2 Helvetica

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*1:参考websiteLinotype社スイス政府観光局

*2:参照websiteMonotype Imaging Inc.

*3:スイス南東部のアルプス北山麓で、3万人強(スイスの全人口の0.5%弱)の使用人口。イタリア語・フランス語と同系統。言葉の響きはイタリア語に近く、語彙などはフランス語に共通する。

*4: テキストのサイズと行間によって導き出されたガイドラインを設定し、合理的に紙面を構成して、抑制された統一感のある頁を作成する方法。写真・図中心のカタログなど、見ることを主目的にした紙面に応用される。

*5:サン・セリフ体のことをドイツでは、セリフがなくて気味が悪く奇怪だという意味で「グロテスク体」と呼ぶ。

*6:主にLinotype社websiteより。

*7:Kunstgewerbeschuleの訳(Linotype社web siteより)。「チューリッヒ芸術大学」と記述する文献もあり。

*8:Linotype社web siteより。他の文献では、発表時名称はHaas-Grotesk Halbfett。『Halbfett』はSemi-Boldの意。『ノイエ・ハース・グロテスク・ボールド』となっている文献もあり。

*9:Linotype社web siteより。他の文献では、発表時名称はHaas-Grotesk Mager。『Mager』はLightの意で、後のミディアム。

*10:Linotype社web siteより。他の文献では、発表時名称はHaas-Grotesk Fett。『Fett』はBoldの意。『ノイエ・ハース・グロテスク・エクストラボールド』となっている文献もあり。

*11:名称変更の最初の案は、まさしく『Helvetia』であったという。上記『Helvetica』の由来説明を参照。