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《おしらせ》
2011年12月より、このブログは文字る(文字情報。時折印刷・文字本・雑誌の紹介も)および活字の小箱(活字・活版印刷に関する情報(組織・個人・作品・イベント・ワークショップなど)の提供)へ移転しました。引続き新しい方もご贔屓に。ここはそのまま残しておきます。

2008-03-03 『聞』にある『耳』は出るか出ないか?

[][]『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その5

前回から長いことご無沙汰だったが、様々な書体の『耳』と『聞』の字形を挙げてまとめとするつもりである。

(なお、本来なら以下に挙げた参考文献の該当箇所をスキャン画像を掲載するのが妥当なのだが、スキャナを所有していないため掲載できないことをご容赦願う。また、この議題は本来なら教科書体、ないし楷書系の字形を挙げるべきなのだが、参考にした文献が明朝体のみだったこともあり本題とは多少異なることになっているが、これもご容赦願う。)


MacOSXに搭載されている書体の『耳』と『聞』の字形

以下の画像は、各々『耳』と『聞』の書体ごとの字形一覧である。


MacOSX搭載分『耳』の書体別字形一覧

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MacOSX搭載分『聞』の書体別字形一覧

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以上より、『耳』の字形は2種類、『聞』の字形は3種類あることがわかる。


岩波新書での『耳』と『聞』の字形

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岩波新書の使用書体は明朝体であるが、筆者の手元にあるもので『耳』と『聞』の字形を調べた結果、『耳』の字形は2種類(下の画像の2、3)、『聞』の字形は2種類(下の画像の4、5)であった。

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(代表して「ヒラギノ明朝Pro W3」で示す。字形2・4が「ヒラギノ明朝Pro W3」自身の字形、字形3・5・6は「ヒラギノ明朝Pro W3」を基に筆者が作成したもの。)

(『聞』の字形6は、上の「MacOSX搭載分『聞』の書体別字形一覧」の中の「Apple LISung Light」などの字形で、主に中国系の書体に見られる。)



ところで、上記画像には『耳』の字形に1も挙げているが、現在はこの字形を持つ書体は見あたらない。かといって『聞』の字形4からの類推字形、でもない。実はこの1の字形は戦後直後までの活字では、明朝体では一例のみ見られるが、楷書系書体(後の教科書体と呼ばれるものも含め)最も一般的であった字形の一つであった(もちろん2の字形もあった)。『耳』の字形1の明朝体の字形については『明朝体活字字形一覧』((下)のp.406の(2)米長老会)を、楷書系書体、特に教科書体活字の字形については『教科書体変遷史』(p.35、p.42、p.66)をご覧あれ。また、『聞』の明朝体の字形については『明朝体活字字形一覧』((下)のp.407)にある通り、上記画像の4・5・6が存在していた。


戦後直後までの教科書体活字での『耳』の字形1が、現在2の字形になった経緯の真相としては、

  • 1949年内閣告示の「当用漢字字体表」で提示された字形が「たまたまそうなっていた」からで、その字形になった根拠は「ない」

ということのようだ。


そして、その字形に合わせて(というより、それに「右に倣え」という感覚で、というのが実情だと思われるが)印刷・出版・マスコミ・公官庁などが活字を製作してそれが普及したため、それ以後、『耳』の字形2が日本においては「正しい」字形と認識されていった。『聞』についても、字形4になった経緯とその理由は『耳』に同じ。


本来は「当用漢字字体表」の字形も、その後の「常用漢字表」、そしてに付属している「学年別漢字配当表」の字形もあくまで「標準」であって「正しい」のではない、ということをここに言い添えておく。


さて最後に、

漢字を楽しむ (講談社現代新書 1928)

において、この議題の元となった漢字の書き取りについて1章を割いて詳述しているので、一読あれ(必読!)。

また、この本で

東京ビデオフェスティバル2007 | 作品視聴・コメント投稿・Web投票 ― 漢字テストのふしぎ

も紹介されている。

また、

漢字テストのふしぎ(tonan’s blog)

漢字テストのふしぎ(しろもじメモランダム)

において上記の映像を踏まえたお話をされているので、こちらも一読あれ。


それから、昭和を騒がせた漢字たち―当用漢字の事件簿 (歴史文化ライブラリー 241)の一読もお勧めする。特に『「よい子の像」碑文裁判』の項には漢字の「標準」を巡る過去の例が挙げられており、考えさせられるものがある。


参考文献

教科書体変遷史

教科書体変遷史

小学校学習指導要領解説 国語編

2007-10-11 [漢字]『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その4

[][]『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その4

唐突だが、ふと気付いたので。


結局のところ、進研ゼミ『家庭教育『?』解決-進研ゼミ小学講座』の『●漢字の字形、どれが正しい?』で、『聞』の『耳』の第5画は出ないよう説明しているが、この時の説明文が「つき出しません」と断定調であるのが問題だったのではないかと。

また元記事の筆者のご子息の答案でも赤ペン先生が「出ないよ」と断定している。

上記サイトでも『字形にはある程度「許容範囲」があり』と言明しているにも関わらず、である。


ここは、『出来る限りつき出さないように云々』などと、「許容範囲」があることを暗に認めつつ、『小学校学習指導要領―平成10年12月 付学校教育法施行規則(抄)』にもあるように、『「学年別漢字配当表」の字体を“標準”とし』つつ、『しかし、この「標準」とは、字体に対する一つの手がかりを示すものであり、これ以外を誤りとするものではない』ことにも準拠するような説明にしたら、元記事の筆者もそんなに右往左往せず済んだのではないか、そしてかく云う筆者もここまで引きずることもなかったのだが(苦笑)。


ということで、これで本当に教育における漢字指導の問題については終わりにする。


次回からは、前回の最後にも書いた通り、漢字のかたちの問題として捉えていこうと考えている。


2007.10.14追記

昭和を騒がせた漢字たち―当用漢字の事件簿 (歴史文化ライブラリー 241)の一読をお勧めする。特に『「よい子の像」碑文裁判』の項には漢字の「標準」を巡る過去の例が挙げられており、考えさせられるものがある。

2007-10-07 『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その3

[][]『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その3

さて、前々回では「『聞』の『耳』は出ても出なくても構わない」と結論付けた訳だが、

これは基本的に『常用漢字』について言及したものである。


この時問題になったのは、

小学校での漢字の字形指導の拠り所をどこに置いているか

ということで、筆者は『常用漢字表(付)字体についての解説』をもってその拠り所とし、それをもって諸関係に再考を求めた。


だがこの後、手元にある諸資料を検討した結果、小学校で教わる漢字、いわゆる教育漢字については、『小学校学習指導要領―平成10年12月 付学校教育法施行規則(抄)*1にある『学年別漢字配当表』の字体を“標準”として漢字の指導をする(『小学校学習指導要領』p.16)、ということがわかった。

故に、教育教材メーカーは『文部科学省検定済のすべての教科書や資料、『チャレンジ小学漢字辞典』を参考にしながら、標準的な字形指導を行』い、元記事(「聞」の漢字を書くとき、耳、はみでていますか? - OhmyNews:オーマイニュース “市民みんなが記者だ”)のご子息の『聞』は「減点」となる。


という訳で、現状の小学校においては『聞』にある『耳』は出ない、のがあくまで“標準”となり、それ以外の字体は減点対象となるようだ。


しかし、『小学校学習指導要領解説 国語編』p.140および『小学校指導書〈国語編〉』p.127では、

しかし、この「標準」とは、字体に対する一つの手がかりを示すものであり、これ以外を誤りとするものではない。児童の書く文字を評価する場合には、活字のデザイン上の差異なども考慮し、柔軟な指導を行うことが望ましい。

と書かれている。

これを踏まえると、元記事のご子息の『聞』は「正解」としてよい、と捉えることが可能だ。


そしてまだ問題が三つある。

一つは『常用漢字表』では『明朝体』で漢字を例示し(『明朝体』で例示しているのはあくまで例であるが)、『学年別漢字配当表』(いわゆる教育漢字)では『教科書体』で漢字を例示していること自体の問題である。いわゆる教育漢字は常用漢字に含まれているので、こちらでは『明朝体』、あちらでは『教科書体』と例示書体が異なるのは混乱の元ではないだろうか(『明朝体』と『教科書体』の字体が同じであれば問題ではないが、実際は異なる部分が多い)。

二つめは、『常用漢字表』は「目安」で、『学年別漢字配当表』では例示字体は「標準」であることである。表現が異なることで混乱の恐れも考えられ、また私見であるが、言葉のニュアンスとして「目安」よりも「標準」の方が拘束力が強く感じられないだろうか?

三つめは、中学校および高校では小学校のように『学年別漢字配当表』がないので、中学校および高校で教わる漢字字体の「標準」はどれになるのか?(『常用漢字表』がそれに?)


ただ、、前回の記事でいただいたブクマコメントでも言われたように、解答を柔軟にするとまた別の問題が出てくる可能性があるゆえ、一つの「標準」を定めてそれ以外は「減点」という方法で対処しようということも十分理解できるし、かといって、やはり柔軟な対応をお願いしたいという気持ちも中々捨てきれないものがある。


これ以上は筆者の埒外になるので、取り敢えずこの問題についてはここで終わりにする。


次回からは、活字体自体の問題として、なぜ『明朝体』の『聞』の字体で『耳』の5画目が出るものがあるのか、また、『教科書体』制定時になぜ『聞』にある『耳』の5画目が出ないものを採用したのか、という見地から『教科書体』と『明朝体』における『聞』の字体について検討して行く予定である。

*1:または文部科学省website『小学校学習指導要領 第1節 国語』でも閲覧可能。

2007-09-19 『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−つぶやき

[][]『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−つぶやき

前回『聞』にある『耳』は出るか出ないか?を書いて

字形の許容の幅を認めるべき旨を論証してみたが、


教育に携わる側からは標準となる字形が、それも厳密に定められた字形が、

求められているのだろう。


字形に許容の幅があると、受験やテストの採点の際、判断に窮する事態が出てきて、

ややもすれば判断が主観的になる恐れがあるからか。


「現場」の声を耳にしたことがないので、あくまで憶測なのだが。


いっそのこと、漢字の書き取りは授業や宿題でのみするとして、

受験やテストでは漢字の書き取りなどやめてしまえば良いのではないか、

と考えるのは短絡的か。


難しい問題である。


ただ、もし自分の子供の答案にあったら、

間違いなく詰め寄るだろうな。

(迷惑千万も甚だしい.....)


最後に、『聞』にある『耳』は出るか出ないか?で参照した

文化庁国語施策情報システムにある

を掲載している主な書籍を紹介しておく。




また、活字体や筆写体について歴史的な流れを踏まえて検証したものとして、

解説 字体辞典

解説 字体辞典

これにはまた、漢字教育について検証した章もある。