軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

八重山訪問記ー2

 私の講演内容は「先島近海波高し!」との題で、1,2008年危機説のシナリオ。2、台湾が望む「独立」とは。3、中国側との会議で感じること。4、尖閣問題。5、先島方面をどう守るか。6、結び、として、特に現役時代に体験した尖閣問題について具体的に解説し、「毅然たる態度で」とか「政治生命を掛けて」などという“修飾語の羅列”だけでは軍事問題は決して解決しないことを強調した。
 青年会議所のメンバーだけあって、多くの勉強会で軍事問題などを研究している方々が多かったが、私の具体的体験談は効果があったようだ。
 たとえば、先島周辺の侵略に対する「抑止力」としては、殆ど活用されていない“不良資産”の代表的存在である「下地島空港」に、戦闘機部隊を進出させれば、この周辺の軍事バランスは安定して、平和が確立されるし、島の活性化にも大きく貢献できるという提言は、非常なインパクトを与えたようだ。
 また、多くの方々との会話の中に、尖閣は石垣の“町内会”なのに、我々が近づくことが出来ない不思議な島だ、というのがあった。
 石垣市会議員でさえも上陸できないということは知っていたが、現地で聞く話には説得力があった。近づけば、海上保安庁の巡視艇が警告を発してこれを阻止するというのである。まるで香港や台湾からの「侵入者」扱いである。その理由は、外務省からの指示にあるそうで、「日本の外務省は石垣市民の味方ではない」という言葉には怒りがこもっていた。
 島の産業は観光が主で、本土からの観光客やマリンスポーツ客以外に、釣りブームで釣り客が多い。車で島を一周したが、石垣だけでも相当な釣り客が民宿している。しかし、尖閣周辺は豊富な漁場なのだが、本土からの釣り客を乗せてこの魚場には近づけないのだという。そこで本土からの釣り客たちは、台湾に渡り、台湾の漁船をチャーターして、尖閣周辺で釣りを楽しむのだという。ところが驚いたことに、海保はそれは阻止しないという。そこで石垣市の漁業関係者は怒り心頭に発しているのだが、これも外務省指示でできないらしい。「先生、一体尖閣は日本のものなのでしょうか?台湾の漁船で釣りに行く日本人も日本人ですが、こんなことを許していれば、やがて香港や上海の漁船に乗った日本人が、堂々と尖閣に釣りに来るようになるでしょう」。
 船舶関係の会社で働いている若者が、「以前尖閣で外国の大型船が座礁したのですが、早く離礁させる必要があるのに沖縄地方には大型の曳船がなかったので台湾から借りたところ、外務省からクレームがついた。現場は一刻も早く仕事をしたいので、電話をかけたところ『上層部の指示です』とそっけなかったから、怒り狂って受話器を投げた」と言ったから、私が「上層部とは誰ですか?と聞けばよかったのに」というと「私も若かったので…」と頭を掻いた。
 一事が万事だとは言いたくないが、国境の島々では、内地の国民が想像する以上に大きな矛盾を感じている。もはや「親中派の総理大臣時代」ではない。速やかに改めるべきであろう。
「主権を守れ!」だとか、「尖閣は日本の領土!」などと、都心部での講演会やパネルディスカッションが盛んで私も時々招かれるのだが、現場はすっかり「主権を喪失」しているのである。
 10年前の「沖縄騒動」もそうであった。普天間基地問題を県民投票にかけてみたり、一坪地主たちが大挙押しかけて「反対闘争」を激化させ、それを反日マスコミが大いに煽ったが、地主の中には、本土の反日団体に所属するものが多かったし、大阪や東京などの市議会、県議会議員たちも含まれていた。
 沖縄の人たちは、彼ら彼女らのことを“一坪地主”ではなく、その面積から「ハンカチ地主」と呼んでいたが、中には「司令さん、絵葉書地主よ」と教えてくれた方もいた。そんな実態を知りもしないで政治家たちが動いたから、当時は大混乱、普天間基地移設問題は、10年たってもまだ進展していない。
 2008年に、青年会議所全国大会が那覇市で行われることに決まったそうだが、「運搬手段をどうするの?」と聞くと「それが大問題です」という答えが返ってきた。20000人もの青年たちが沖縄に集中するのだそうだが、ざっと計算しただけで、ジャンボ機が40機必要になる。JALとANAは大もうけ?かも知れないが、実際には不可能に近いだろう。そんな機材集中は無理だし、第一那覇空港の収容能力に限界がある。仮に那覇基地に所在する自衛隊機を一時的に“追い出して”も、まず不可能だろう。会議が行われる数日前から五月雨式に集合し、帰る時も五月雨式に帰る以外にはあるまい。つまり「時間差集合」方式である。
しかし、仕事を抱えた責任者たちの会合である。のんびりと観光できるわけはない。時間は限られて居る。まさか米軍の嘉手納基地や、移設されていない普天間基地を「お願い」して使わせてもらうわけにも行くまい。沖縄という島国県のこれが実情なのである。我々「沖縄守備隊」は、そのような条件下で、いかに補給が途絶えないように配慮しつつ「戦うか」を常に研究してきたから、その実態が良く分かる。
 地上の移動手段が豊富にある本土との違いを、彼らは痛切に感じていて、その難問に対処しようとしているのである。実に頼もしく感じたのだが、政府はそのような沖縄県の特性を十分認識して“善導”する必要があろう。
 八重山を始め、沖縄県の青年たちの多くは、一部マスコミが報じるような「反戦活動家」では決してない。彼らは真剣に国防問題を研究しているし、知りたがっている。そしてもちろん沖縄の将来に向けた「村おこし活動」を積極的に続けている。
 何はともあれ、政府は「尖閣諸島は日本国の領土である」ことを、「態度」で明確に示して欲しい。